見出し画像

ほんとうの愛

ホオジロザメに生きたまま喰われる。

生きたまま焼け死ぬ。

そういう死に方だけはぜったいに嫌。それだけはカンベン。

でも、もし、あのひとと一緒だったら。そしてもし、あのひとをそれで助けられるなら。

それなら、かまわない。こわくない。いっときの激痛なんかへいき。私の死体はどうとでもなるわ。愛した事実は死にはしないわ。


あのひとは、すごく胸にこだわる。

あのひとがいつか他人事みたいに言ったこと。

おれ2歳の時おかーいなくなったんだー。毎日包丁持って兄ちゃん追っかけ回しててさー。おれ2歳の時親リコンすることになって。で、母親がおれに手、差し出したんだけど、おれ全力でその手え振り払って、兄ちゃんにぴたってくっついた。一番よくおぼえてる最初の記憶はそれかな。

私は・・・あのひとに「おっぱいをあげたい」って、生まれて初めて思った。このひとの赤ちゃんを産みたい、産んで誇らしげに抱いて見せて、ふたりでその赤ちゃんを抱きくるんでみたい。生まれて初めて、体の底からそう感じた。もう私の女の身体は、じき終わるのに。

なに?この感覚。この想い。こんなふうに感じるものなの?ほんとうに男のひとを愛したらこうなるの?これが愛?これが本能?ならこの愛の本能は、何に邪魔されていたんだろう、ずっと・・・・・。



私は20歳で堕胎した。絶対に子どもだけは嫌だと思っていた。愛してる彼氏の子。「外に出すから」なんて、言っててそれで。彼が悪いんじゃないし、私も全面的に悪いんじゃない。二人とも若くてばかだっただけだ。

欲しくて産めば苦労なんかなんでもなかったのに・・・、私はダメだった。苦労?とんでもない。困難なんてものじゃないわ。私は20年かけてその絶対の暗黒宇宙を知っていた。それは出口のない地獄だと。その子にあげられるものはそれしかない。

恐い。恐い。無理よ。こんなのは。愛してない。愛せない。産めない。産みたくない。私の人生の邪魔をしないで。あなたも私と同じになるのよ。そんなことは絶対にダメ。誰一人私たちを助けはしないわ。私の赤ちゃん、あなただけは私と同じ目に遭わせはしない。決して。

私はおなかを抱いて、秋の七草を教えて、名前を男女それぞれひとつずつ考えてつけて、苦しみに耐えた。ごめん。ごめん。ごめん。あなたも痛いよね。苦しいよね。でも私まだ20なの、高校も出てないの、生きたいの、あなたに人生を喰われたくない。これ以上誰にも人生を喰われないで生きたい。ごめん。勝手なのは分かってる。許して。神さまのとこに行っててね。ママはもう少しこの地上でのたうち回ることにする。



それから、結婚を2回したけど、子どもだけは拒否してきた。このしあわせを壊す者だ、と知っていた。セックスは楽しみのためだけのもの。愛の確認。私はセックスがだいすき。ええ、結婚以外だってかまやしないわ。愛してくれるなら。だんなさんよりよくしてくれるなら。でも、まあ、あんまりうまいひとって、いないけど。私が不感症なのかもしれないわね。ごめんね。

でもいくら私の技術が上達したって、愛が上達することとは比例しない。だんなさんたちと私は、首に鎖をつけ合って愛したり憎んだり。やんなっちゃった。もうこれ以上泣かせたくないし泣きたくない。愛?執着?束縛?責任?


愛?



あの日、海から昇ってきたあなたは、最初からセックスなんてしなかった。心や人生の話をした。それを手練手管でやる男も知ってるけど、あなたはそれほど器用じゃなかった。真剣で、困っていて、自分で何とかしようとしている、その独白は優しかった。私をはなから信頼して打ち明け話をしてくれたのも感じた。変わったひとね。でもなぜ私に?

そして、でも、そういうことになったら?

あなたはナンバーワンだった。まったくオリジナル。私、たくさんの人と寝たけど、あなたの前では声も出なかった。負けた。何に?そのすべてに。その思いやりに。そんなことした男、ただの一人もいなかった。

それは、ささいなこと。そしてひとつのささやき。私の体と魂を、そっと思いやること。ちっぽけな私のためにかなしんだこと。それをした偉大な男に、出逢ったことはなかった。私は、恋に落ちた。初めての恋に。


私、あんなに何十年も嫌がってた。絶対イヤだった。赤ちゃんができること。もうあんな苦しい悲しみはたくさん。どうせ赤ちゃんは私のようになって、私たち人類は繰り返して・・・・・。だから子を持たないと決めた。でも、いつもきちんとはしていても、もしそういうことになったら?あのひとの胸に頭を載せたある日、思った。

「こわいけどそれでもかまわない。愛したい、そうなったら全力でぜんぶ愛したい、このひとと赤ちゃんと二倍も百倍も愛するわ。絶対にそうする。そうしたいから。このひとと赤ちゃん両方抱っこしておっぱいを飲ませてあげるんだ!」

私どうかしてしまったの?おっぱいをあげたいですって?何を言ってるの、私。でも、そう感じるって分かったの。あのひとに解らされてしまったの。私はそういう風に感じたって、本能を感じたって、いいんだって。私だってそう感じていいんだって。それを許されていいって。


言っとくけど、思いやりのない人間は、最低のセックスしかできない。こっちがいくら思いやったって消費されるだけ。でも思いやり合うと、あたたかく、気高くさえ「愛し合える」。あのひと、くれる。ふんだんに。私は明け渡す。あのひとは静かに受け取る。すべてを。そしてあろうことか「愛してる」と言う。私はその意味を知る・・・・・。


「もう二度と逢えない」。「もう死んでしまった」。ひとはそんな風に悲しむ。でも、なぜ?それは、そこに、愛があったから惜しむのよ。でもそこに愛があった事実は、消えやしない。それがなんであれ、誰であれ。

必要だから失われる。

愛が当たり前にある?そんなわけないでしょう!それを知らせるために、愛は失われる。もう間違えるな。もう失うな。大切に失う方法を知りなさい。正しく失うことによって永遠になる。それが真に失わない唯一の方法であることを知るのよ。

「きみが誰かを愛するんだったら、そいつを自由にしてやれよ」

って、昔スティングは歌っていたっけね。

「そこには、一輪の完全な薔薇が咲いていた。そして、この花は、マーガレットからあたえられたものなので、ホブは、すぐさまそれをつみとって、かの女におくった。それが、おくり物を自分のものにしておく唯一の方法なのだ。」(エリナー・ファージョン『オープン・ウィンキンズ』より)


「無事でね!今日も一杯ハッピーがありますように!私、げんきよ!」返信。「イオちゃん!愛してる!まずは今日を大事に無事に笑顔だね!いってきます!」

あのひとはすぐ私の中に入ってきて、思いっきりイく。私の中に、とびきりの薔薇が咲く。

私、ずうっとしあわせなまんま。

こんな芸当ができる最高の男に出逢えたんなら、これまでの涙々の人生だって、無駄じゃなかったってことよね。おまえは明日死ぬ、と言われたって、もうこわくないわ。だってずっと、夢に見てきたの。ほんとうの愛を。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

ありがと♡ほかにも色々あるよ!触ってみる?
17

南条 イオ

恋、書くこと、音楽三昧の言葉屋。のんきに優雅にげんきよく。そして、今日を大事に無事に笑顔だよ!

Love

だって、あいしているの。誰がそれを、止められて? そしてこれは、まったくのオリジナル。世に二つとは、ございません。
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。