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ゆみこ叔母ちゃんの形見

ゆみこ叔母ちゃんは、ひとことでいうなら、クリスマスツリーのようなひとだった。
たっぷりした豊かな体で、いつもほんとうにニコニコしていて、すべての人に嬉しそうに接した。
スナックのママとしてお金を稼ぐのが得意で、話し上手で、頭の回転が早かった。
おかあちゃん然としっかりしてて、人懐っこくて、徳があった。
そしてセクシーだった。
父方のおじおばで好きなのは、ゆみこ叔母ちゃんだけだ。


叔母ちゃんに請われてホステスとしてその国分寺のスナック『恋人』で働いていた時、カウンターの棚に飾ってある彼女の若い頃の写真を見て驚いた。
和装でまげを結いかんざしを挿した彼女は、すごい美貌で、見惚れてしまった。
なんでも、ミス国分寺だったそうだ。
けれど太って大きな体になっても、年経ても、そのゴージャスな魅力は減ずるどころか増していっているようだった。


ゆみこ叔母ちゃんは、いちホステスの私を、私が幼い頃と変わらず可愛がってくれた。
変わらぬ、にこにこ。イオ、イオ、と愛しげに呼びかけて。


『恋人』は、彼女が亡くなる時まで、50年間営業した。
その昔は出稼ぎの外国の女の子たちがたくさん働いていて、叔母ちゃんはけれど外国の女の子たちに、よくあるように厳しくしたりいじめたりは決してしなかった。
みんな可愛がっていた。
自宅を寮代わりにして全員住まわせ、チップは全額持たせてやり、高いお給料をあげた。
あの綺麗なアニタさんはどうしているだろう?


とにかくアニタさんをはじめ、あの頃働いていた女の子たちはみんな、故郷に帰って家を建てた。それほど、儲けさせてあげたのだ。
違法な外国人のことを取り締まるための警察の出入りがあると、叔母ちゃんは
「みんな黙って!日本語しゃべっちゃ駄目!」
と女の子たちに言って黙らせ、警察から女の子たちを守った。
古くからある店だし、警察のひとたちも多分、そんな叔母ちゃんにおめこぼししてあげていたと思う。何しろお客さんには、警察のひとだっていたし。私も接客したけど。


叔母ちゃんはお金を儲けることも凄かったが、全部他人のために遣った。
だんなさん、きよみ叔父ちゃんは金の延べ棒や競馬の馬を買ったりギャンブルが大好きな優しいヒモの叔父ちゃんだった。子どもたちは成城に入れたし、家も土地ごと2軒子どもたちのために買って生前贈与した。おまけにホステスたちには超好待遇ときた。私もご多分に漏れず。


でも叔母ちゃんのいちばんすごいところは、誰よりもひとと仕事を愛したことだ。
自分のためには、なんにもしないのに。でも、楽しんでいたわ。人生をすべて。
お客さんたちは、綺麗なホステス目当てというより、彼女に逢いたくて店に来た。
あの分けへだてのない、心からの歓待に逢いに。


彼女は水商売として毎晩違うドレスを着なければならず(私も毎晩困った。大量に若い時の衣装をもらった)、太ってからは車で福生の方までビッグサイズのドレスを買いに行っていた。
セクシーでそれなりならいい。安くても、暗ければそんなの分かりゃしない。
そして同様に、お水が身につけなければならない、重要な小道具がある。
高価なアクセサリーだ。


私は困った。40にもなってひとつも持っていないのだ。イミテーションのガラスの、イマックのピアス(でも超可愛いんだよ。亡夫の形見だし)でごまかしていた。
安物でも暗ければ分からない・・・でも、暗くては、あまりに控えめな私のアクセサリーは
「ほんとうに分からない」。
彼女は私が入って早々に、これらをくれた。


もちろん、100パーセント、にせものだとは思う。あまりに石が大きすぎるし。
でも、ぽんとくれた。
「イオこれしなさい」とにっこり笑って。
「でもおばちゃん、こんなすごいのもらえないよ」
「いいのいいの」


叔母ちゃんは、70そこそこで亡くなった。静かな、美しい、死に顔だった。だいすきだったカサブランカの白い花に囲まれて、花嫁のように。
私は、胸がすかすかになった。
でもくれた指輪は、引き出しに仕舞っていた。私には派手過ぎる気がしたし、普段つけるには大げさ過ぎると思って。


私は夜に窓から見える、遠くのマンションや街灯の黄色い灯りを
「夜の神さまや恋人がくれるトパーズ」だなんて喜んで愛でているが、この間、ふと思った。
「私、ほんとにトパーズ持ってるわ!ゆみこ叔母ちゃんのくれた、あれ・・・」


あわててすべて出した。
とても大ぶりだが、中年で、元々ごつい私の指にはかえって映える。
つけることにした。


今日はどれにしよう?ねえ、おばちゃん?
こんなすごいのありがとう。キレイ。ずっと大事にする。
私がものを大事にする、というのは、敬愛する白洲正子先生(白洲次郎の奥さま、骨董や能や日本の伝統に関する研究家であり素晴らしい随筆家で、明治の樺山大将の孫娘にあたる)の考え方に影響を受けている。
つまりは「用の美」。
どんな二束三文の骨董品でも気に入れば、実際に生活に取り入れて愛でるということ。
仕舞いこむんじゃない。人生に取り入れる。


毎朝、メイクと香水を仕上げてから、彼女の形見を、その日に合わせてたのしみながら、指につける。
左手の中指。
もう結婚はしないから薬指に、ではないけど、Sへのまことの心のしるしとしてでもある。
そう。 


なんてすてきな宝石だろう。
アメシスト、エメラルド、そしてトパーズ。
トパーズがいちばん好きだ。私の夜の宝石で、恋人の澄んだ瞳の光で、だいすきだった叔母ちゃんの形見・・・憧れの彼女のあたたかな思い出。

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まずはあなたに最大の感謝と敬意を。書くのが大好きなだけだから、自由に楽しんでくださればいいです。いつか飲みに行けたら、いいですね(^_-)-☆

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10

南条 イオ

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Love

だって、あいしているの。誰がそれを、止められて? そしてこれは、まったくのオリジナル。世に二つとは、ございません。
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