恋の元素記号

先生は、まだ若いのに少し疲れた感じで、少し猫背で、いつもえんじ色のジャージで、髪が少し長め。
で、綺麗な顔をした優男だった。煙草はきっとラークだろう。
私は先生に、少し、恋してた。


先生は、元素記号と化学式を教えてくれた。
びっくりした。
ええ?だって、世界ってこーんなに数えきれないほど何もかもあるのに、そんなシンプルな一覧表でぜーんぶ割り切れちゃうの?
しかも、まるでガラスの美術館みたいに、クリアで綺麗。


先生が教室に広げた世界の虹を、私は眺めた。虜になった。
これは鉄。それは水素。あれはウラン。そっちはコバルト。これはリン。
透き通ったいろんなカラー、すっきりとしたかたち。
これとこれが合わさると、ほら、ね?
とりどりの色の炎が生まれたり、ハードなメタルが生まれたり、優しい水滴が生まれたり、ショーウィンドウで輝いてた憧れの宝石だって生まれる。
私は先生に、まなざしでラブレターを送った。
ああ、なんて綺麗なの!なんておもしろいの!どうしてこんな素敵なこと教えてくれるの?


美しい組み合わせ。やくにたつ組み合わせ。不思議な反発、不思議な融合。
そして、危険な組み合わせ。
先生、やっぱり、世界なのね?これは。


何年かのちのある晩、私はライブハウスである男の眼につかまった。
男の眼はまるでサファイアみたいだった。燃えるようにほとんど碧く輝いてた。ただ、その輝き方がへんだ。異様だ。それは綺麗とは違う。
眼は私を欲しいと言った。私の中にある紅い火は、「だめ」と言った。でも、その輝く元素に私はくらくらした。
そして私は、ずたずたになった。
ああ、先生。これって危険な組み合わせね。もっとちゃんと勉強しとくんだった。


元素。あの不吉な元素。人を殺すこともできる。
元素。そして、それがもし、これと合わさったら大変なことになる。
世界が滅んでしまう・・・・・


憎しみ、狂気、愛。その元素たちは、なぜあるのかしら。たぶんそのおおもとに、 「涙」っていう、永遠に終わらないなんかの円環があるのかなあ。永遠に終わらない陽子とか中性子とかのぐるぐる廻る・・・・・わかんない。
なんでそうなってるのかまでは、教わらなかった。
もしかしたら教えてくれたのかもしれないけど、忘れちゃったのかな。


ある元素と元素。
でもこれとこれが重なると?


私は今度こそ間違いなく、正しく輝く澄んだ瞳をまっすぐ受ける。
悲しいほどの愛すべき水晶。かさなると私の火は正式にスパークする。あたたかいオーロラが世界を満たす。水晶はますます透き通って、すべてのカラーを映し出す。
私たちは満ちて世界に溶けてゆく。懐かしい草原が、見える・・・・・
先生、これね?今度こそ、百点よね!
人類がたどり着くべき、ほんとうの元素の組み合わせ。


「ねえ、あなたの元素って、すてき」
「そお?おれはイオちゃん、すき♡」

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南条 イオ

恋、書くこと、音楽三昧の言葉屋。のんきに優雅にげんきよく。そして、今日を大事に無事に笑顔だよ!

Love

だって、あいしているの。誰がそれを、止められて? そしてこれは、まったくのオリジナル。世に二つとは、ございません。
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