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瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第十三回 私が掬えるもの

本の感想をいただくことが無二の喜びという瀬尾さん。
届いた言葉に助けられ、感謝の気持ちでいっぱいになるのですが……

パニック発作とママの口癖

『掬えば手には』という作品でもプルーフを作っていただき、私史上最大数の書店員さんからのご感想をいただきました。

「この人、いつもかわいい絵添えてくれてる」とか、「こんな細かい字で書いてくれてる。ありがたい」とか、「それ、気づいてくれたんですね!!」とか。

『掬えば手には』に寄せていただいたご感想も、うれしいものがたくさんありました。


『掬えば手には』を刊行した年、大腸のポリープ手術をしたせいなのか、夏があまりに暑かったせいなのか、パニック障害の私は、発作を大発生してしまいました。

最初は5月末の美容院。

その時は体調も機嫌もよく、だからこそ陽気に出かけたのですが、髪の毛を染めている最中に、発作を起こし、髪を染めたままタオルを頭に巻いてもらって帰宅するという惨事。

(その時のカラー、「めっちゃいい具合に染まってるやん」と、母に褒められました。
浴室前で倒れてはシャンプーを繰り返したおかげで、グラデーションカラーになっていたようです。)

それから、3日に一度は発作を起こし、心療内科でも倒れ、これはなんだという事態に陥りました。

そこから秋の終わりまで、ほぼ外出もせずいつ倒れてもいいようにとリビングに布団を敷いて過ごしました。

そんな私に、娘は学校に行くときには「今日もがんばってくるね!」、帰ってからは「がんばってきたよー」とうるさくアピールするように。

ついには、「私、もっともっとがんばるからね」と書いた手紙を渡され、いつも頭の中お花畑の娘がどうしたんだと心配になり、「もう十分やで。ママはがんばってないだらだらしてるH(娘の名前)も大好きやのに」と言ったところ、「だって、ママ、私ががんばったら元気になるんでしょう」と娘は涙をこぼしはじめました。

私、「Hががんばってたら、ママは元気になるわ」と口癖のように言っていたようで、それを覚えていた娘は、自分ががんばれば私の体調がよくなると思ったようです。

最初にパニック発作で倒れた時、幼稚園児だった娘は両頬に人差し指を当て、「ほら、ママ! 見て! 私を見て! 笑ってるよ!」と泣き叫びながら笑顔を作っていました。

それは、私が「Hの笑顔見てるとママは元気になる」と言っていたからです。

子どもがいると、元気でないといけないんだなとつくづく思い知らされます。

ただ、今後は、「笑っていたら」とか「がんばってたら」とか抽象的なものではなく、「Hが、さっさと宿題をやり、何も言わずとも片づけをすませたら、私は元気になります」と具体的に言うとこう。


感想くれないとXXXするぞ〜

『掬えば手には』を担当してくださった編集者の方は、体調にご配慮をしてくださり、取材はオンラインで1つだけにしてくださいました。

その分、書店さんへの宣伝に力を入れてくださり、そのおかげでたくさんの数のご感想をいただけたのだと思います。

床で寝転がりながら、ご感想を何度も何度も読みました。

会ったことがある方はお顔を思い浮かべながら。

いつも送ってくださる方のご感想は、今回はどうお読みになったのかなと考えながら。

『掬えば手には』のタイトルにかけるわけではないのですが、自分の手で掬いだした言葉には力があって、そんな日々を重ねながら少しずつ動けるようになっていきました。

書店員さんや読者の方が、送ってくださる言葉に助けられました。

(ただ注文書に感想書く欄あったから書いただけやねんって方、すみません。勝手に重荷をかけて。)

心から感謝です。

とここで終わっておけばいいのですが、図々しい私なので、続きがあります。


ところがなのです。

次に出版した『私たちの世代は』での書店員さんからのご感想が半分くらいに減り、ひそかに大慌てしました。

うわ、突然、書店員さんに嫌われてる!

最近おとなしくしてたから迷惑かけてないはずやのに。(いや、単に作品の出来の問題やから。)

気の弱い私は出版社の方に、「なんか、今回の作品、書店さんのご感想が少ないような……その……あ、いい天気ですね」などと遠回しなメールを送ったのですが、「いえ。いつも通りですよ。少ないなんてありません」という爽やかな答えしか返ってきませんでした。

そして、さらに恐ろしい話なのですが、いつも必ずご感想をくださる書店さんを訪れた際、「あの……、この本感想なんでくれなかったんですか?」と聞いてしまいました。

今、「この人、やばいやん。うちの書店には来んといてな」と皆さん、震えてますよね。

安心してください。

たまにしか、こんなことお聞きしないんで。(あ、たまにはやるのね。)

そこの書店員さんはただプルーフが届かなかったということで、とんだ気を遣わせてしまいました。

(しかも、本買って読んでくださっていました! もう本当にありがとうございます。)

ご感想をいただけるのが当たり前と思ったら大間違いですね。

書店員さんが手にする本は何冊もあるんですよね。

本を読むのって、時間も労力も使います。

それを大切な時間を削ってしていただくなんて、ありがたすぎることです。

まずは、感想をいただけるレベルに達する作品を書かなくちゃ始まりません。

またご感想もらえるようにがんばります!

え? 勝手に一人でがんばっとけって?

はい。そうします。

ただ、ご感想をいただけなかった場合、そっと後ろを振り返ってください。

私が店の中をうろついているかもしれませんよ……。

瀬尾さんのエッセイが怖いお話になってしまわないよう、皆様のご感想をお待ちしております。
#そんなときは書店にどうぞ でつぶやいてくださいね。
次回は再来週、3月14日(木)21時更新です!


瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。

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