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夏の終わり、母の愛。|なくならないでほしいホテル Vol.7

「HOTEL SHE,」などを運営するL&G GLOBAL BUSINESSで働くスタッフや、いつも応援してくださる皆様と一緒に「なくならないでほしいホテル」という連載をはじめました。絶対になくなってほしくない推しのホテルを主観たっぷりでお届けします。

「なくならないでほしいホテル」というテーマを聞いて、ざっとこれまで泊まった宿を頭の中で並べてみると、旅行好きだったこともあり、普通の20年間にしては随分いろんな宿に行ったものだと少し嬉しくなってくる。

1人で寝るには少し大きすぎるダブルベッドが置かれたビジネスホテル。
小さな部屋に小さなギター、廊下ではヤギとボーダーコリーが眠っている木製のゲストハウス。
旅人のバックパックが乱雑に置かれた、カオサン通りのドミトリー。
特別な日に少し背伸びをして予約した、バルコニーから太平洋を一望するお高めのホテル。
雪で白くなった庭とタルトのケーキがよく似合う、暖かいログハウス。

挙げていけばキリがないが、今まで泊まったどんな宿も情緒的でカメラのシャッターを切るのが楽しくて仕方がなかった

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趣味がカメラなのは、こうやって旅先の思い出を記録するためだ。

今年で21歳。ずっと「ハタチです」と言っていられるものかと思っていたが、意外と歳をとるのは早いのかもしれない。

20年間の最新の記憶はどんどん更新されていき、初期の記憶は薄れていってしまう。記憶と同じく、写真で残されている思い出の数も過去になるほど少なくなっていく。

となれば、思い出が鮮明でなおかつ写真がたくさん残っているものは、最近泊まった宿ということになる。もちろん記事としても綺麗にレタッチされた写真とともに、魅力を語る方が伝わりやすい。

それを理解した上で、私の中の「なくならないでほしいホテル」は、記憶は古く曖昧で、写真も多く残っている訳ではない。

今回紹介するのは、千葉県にある「ホテル 三日月」

この宿の名を最近知った人も多いかもしれない。新型コロナウイルスがまだ日本からは少し遠いもののように思えていた頃、政府のチャーター便による武漢からの帰国者を受け入れたことでニュースになっていた。

新型コロナウイルスが確認される少し前、勢力の強い台風19号により千葉県南部は特に重大な被害が出た。それに続き帰国者の受け入れによる風評被害によって、さらに観光客が激減していたことを知った。ここにもういけなくなると、非常に困る。

なぜ困るのか。

安っぽい言葉になってしまうが、ホテル三日月は私にとって思い出の場所だった。正直、十数年前のことなんてあまり記憶にないと言ってしまえばそれで終わりだが、記憶以上に残っている「感覚」がある。

私の家族は何かと不運な出来事が多かったゆえに、幼い頃からそれなりに母の苦労は見てきている。必死に「母親」でいてくれるのを見て、幼いながらに「気を遣う」ということを覚えてしまっていた。
そんな母は、毎年夏の終わりに家族旅行を兄と私にプレゼントしてくれていた。家族三人だけの時間が取れるのは、この時くらいだった。

家族旅行は毎年決まって「ホテル三日月」。何回行っただろうか、今では内装さえ思い出せない。

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綺麗にアルバムに並べるような時間がある訳でもないのに、母はしっかり兄と私の写真をいつも撮っては現像していたので、この記事を書くにあたって私の記憶を呼び起こす材料になった。

客室では母はいつもの疲れを取るかのように爆睡していたので、兄に遊び相手になってもらっていたのだろう。客室の写真が一枚もなく、ホテル三日月の広い広いプールではしゃぐ私と兄の姿が写されているものがほとんどだ。

毎年この旅行で、幼い私は母に抱かれながら足がつかないプールへ入っていた。子供用のプールに行けばいいものを、この頃の私は「兄と同じところにいれば三人でプールに入れる」と思っていて、何より長時間母とくっついているのが嬉しくて、わざと溺れているふりをして気を引いてみたりしたのを覚えている。
家で構ってもらえていなかった訳ではない、むしろどんな母親よりもきっと、愛情表現が激しい。
ただ、疲弊した顔を見るとどうしても子供になりきれず、甘えずにいた。
それがこの場所だとプールに足がつかないというチープな理由でずっと抱っこしてもらえるし、何より家族三人でただ何にも邪魔されず娯楽を楽しんでいるという事実が一番子供としては嬉しかったのだ。

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私の母は、これでもかというくらい頬や口にキスをしてくる。さすがに成人した今では回数が減ったが、幼い頃は毎日のようにキスされまくっていて、この旅行も例外ではない。

生々しい話だが、プールに入っている時のキスは、プールの水でふやけた感覚がしてなぜかすごく記憶に残るのだ。その感触は今でも覚えているし、いつになっても母の過度な愛情の現れであることに変わりはない。

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この「ホテル三日月」は、鮮明な記憶や写真こそないものの、ただ子供としての純粋な感情をさらけ出してくれた唯一の場所であり、これ以上ない「感覚」としての記憶をくれた場所なのだ。
きっと今後どんなに高級な宿に泊まろうと、この場所を超える「感覚」をくれる宿はないだろう。

三日月ホテルがなくなってしまうと、なぜ困るのか。

いつからか行かなくなってしまったこの場所。今度は私がカメラを持って、母にホテル三日月での夏の終わりをプレゼントしようと前から考えていたからだ。

幼い頃よりも母に甘える機会がなくなった今、またこの場所で、今はもう足がついてしまうプールで、母と子三人で娯楽をひたすら楽しみたい。

だから、私にはまだこのホテルは必要。

なくなってしまっては、困るのです。

文・写真:くつざわ(女子大生ライター・マーケター)

【👼HOTEL SOMEWHERE 編集部より】
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