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小泉今日子 KKPPツアーは最強のポップ・タイムマシーン

2022年3月21日。キョンキョンのデビュー40周年記念日らしい。とてもめでたい。今日は記念日、そして祝日という事もあり、中野サンプラザでツアーの東京公演がある。かく言う自分もどうにか潜り込もうと画策したのだが、東京2デイズ(後に追加されプラス1日)には全くご縁がなかった。チケットぴあアカウントの引きの悪さは、我ながら何か恨みでも買ってるのか?と思うほどだ。

それでもどうしても観に行きたいとツアースケジュールを見ると、初日の神奈川公演は相模女子大学グリーンホール。ここで金曜日の18:30開演に間に合わせるのは難しかった。しかしその2日後、前橋・ベイシア文化ホール公演がある。一応関東なので日帰りができる範囲であり、ちょうど日曜日だ。これを逃したら無理だと狙いを定め、無事にチケットを確保した。

はるばる電車で辿り着いた前橋駅からバスに乗車し、市民会館前で下りると徒歩約5分。ややさびれた店の多い通りを抜けたところに、ベイシア文化ホールを発見した。

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観客は青春時代を共に過ごしたと思しき40代以上が大半ですごい熱気だ。グッズ売り場も相当な盛況だった。たまに若い子もいたが、かなり少数派だろう。チケットは2F38列と稀に見るほどの糞番に見えたが、列番号は1Fから通算した数字だったので実際は2Fの2列目。悪くはない。

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本人による影アナを経て、ライブが始まる。オープニング映像では宇宙を思わせる背景の上で2022から数字が下がり、デビュー年の1982まで遡っていく。「The Stardust Memory」を振り付きでパフォーマンスするキョンキョンと、振りコピするファン達。最後キーが上がるところで、もう既にクライマックス感すら漂っていた。

で、ここからメドレーを挟みながら「まっ赤な女の子」「渚のはいから人魚」「迷宮のアンドローラ」「夜明けのMEW」「ヤマトナデシコ七変化」「艶姿ナミダ娘」と、とにかく80年代の有名な曲を片っ端からやりました状態。もはや予習不要なほどの大ヒットナンバーの連続で、80年代の音楽番組で育った世代だったら号泣していたと思う。1F前方には手作りうちわを持ってきたりメッセージを出したりする熱心なファンがちらほらいて、キョンキョンも見つけてはレスポンスを返してくれていた。

前半の個人的ハイライトは近田春夫作でハウスミュージックに接近した「Fade Out」だ。序盤のノスタルジックな空気を一変させるバキバキしたダンスミュージックで、まるでTOKYO No.1 SOUL SETのようだった。(そういやソウルセットの「Innocent Love」をカバーしてた事もあったな)

そこから間髪入れず王道アイドルソングなデビュー曲「私の16才に」移る凄まじい振り幅。そしてあの「なんてったってアイドル」で前半はフィニッシュ。一番のキラーチューンであり一番の問題作でもあるとっておきのヤツをこんな中盤で使っちゃっていいんだ!と驚いたが、前半のアイドルブロックを象徴する楽曲なので、後から振り返るとここでよかったのだと思う。56歳になっても自然にこの曲を歌い続けられるのがとてもかっこいい。

一度ハケている間に、「夏のタイムマシーン 1982-2022」の新MVを公開。過去のジャケットやアー写の顔がどんどん繋がっていくメモリアルな仕上がりだった。再登場すると今度はしっとりと「夏のタイムマシーン」の後半部分をボッサ系アレンジで届ける。40周年イヤーにあたって頭に浮かんだのがこの曲らしく、過去へも未来へも行けるタイムマシーンで、今の私が過去の私と手を繋ぐ、それが未来の力になるという話をしていた。

続いて今回歌いたかった曲として挙げたのが「T字路」だった。原曲の中井貴一に代わり、バンドメンバーを紹介した流れからメンバーが交代で歌唱していた。そして「潮騒のメモリー」。リリースから9年、観客の前で歌唱する機会がほぼなかったあの名曲を全く出し惜しみなく中盤に入れてきた。最後、小声で「じぇじぇ」と言ってくれたのもささやかなサービスだ。

続く「快盗ルビイ」まで、 ドラマ・映画の主題歌を3曲連発した。女優もやってるから曲の思い出もある、私ってすごく贅沢!と誇らしげに語るキョンキョン。確かにこんな内容で記念ライブを組める人、他にいないだろう。

「次の2曲は私が大人になってからの曲」として「あなたに会えてよかった」と「優しい雨」を披露。キャリアにおけるセールスのピークが、アイドル全盛期を過ぎた20代半ばのこの2作だった。昭和から平成、そして歌謡曲からJ-POPへの転換期を完璧に乗り越えた点ももっと評価されて然るべきだと思う。

MCでは、この年になると別れを経験する事も増えたという話を展開する。「でも不思議と別れてからの方が近くにいる気がする、ずっとそばにいてくれる感覚。別れるっていいことなんだなって」とお別れの話をしたので、亡き父親の事を歌った「My Sweet Home」くるか?!と勝手に予想していたら、ほんとにきた!この曲、いわゆるJ-POPの中では一番いい曲なんじゃないかというぐらい好きなので、当時の思い出と相まって号泣であった。

そして「月ひとしずく」「木枯らしに抱かれて」とまだやっていなかったヒット曲を披露し本編終了。後半は大人期が中心だったが、00年代に入り円熟味を増した時期の楽曲はゼロ。とにかくヒットシングル優先の、どこまでも観客に寄り添う潔すぎるセットリストだった

アンコールの「学園天国」では、座って観ていた2Fの観客がポツポツと立ち始める。ラスト"センキュー!"の部分は"群馬!"に変えてくれた。そしてラスト、「次の曲だけシングルじゃないんですけど、昔の私のコンサートとか来てくれた方は知ってる曲」と前置きし、「こういう時代なので次の曲だけ撮影を許可します。但しSNSにあげる時はハッシュタグKKPPをつけて。つけてくれたものはみんな、私のものとします。つけてくれない人は…キライ!」と撮影OKに。曲は「東の島にブタがいた Vol.2」で、これだけはファン向けという感じだ。

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2時間と少し、息もつかせぬほどの大ヒットナンバーの連発で、本当に見所しかなかった。ヒット曲を多数持つポップスターがこれほど出し惜しみなく「全部やる」ライブ、観た事がないかも知れない。本人も「私、昔から笑顔でいるのも仕事みたいなもの。皆さんもつられて笑ってもらえたら。」と語っていたが、これがみんなを元気にするスターの器なのだなと、なんだか感動してしまった。

そればかりか、パフォーマンスも完璧だった。歌は原曲キーが基本で、「夜明けのMEW」のサビの高音などもかなりしっかり出ておりガッカリ感ゼロ。そしてバンドアレンジも基本的にはオリジナルを踏襲していてこちらも納得のクオリティだ。「艶姿ナミダ娘」のテクノポップ感が損なわれるのはバンド編成上仕方ないが、それでもオリジナルに寄り添ったものにはなっていたと思う。演出も楽しく、「迷宮のアンドローラ」はスペイシーな照明が楽曲にマッチしていた。また時折スクリーンが下りてきてプロジェクションマッピング演出があるのも面白かった。

「31年ぶりのホールツアー、次の周年が45周年。その時には赤いチャンチャンコを過ぎてる年…50周年は66。でも66年生まれで66っていいかも!」と無邪気に語っていたが、これで最後とは言わず是非周年には実現してほしいと思う。

余談だが、感染症対策も他のアーティストと比べるとしっかりなされていた。チケット半券に氏名と連絡先を記入して自身で半券をもぎる、遠くからセンサーで検温(効果あったのか?)、トイレには足消毒のマットもあった。また入場だけでなく退場時も消毒を促していたのは他のライブではあまり見かけない対策でよかったと思う。

ただそれにしては、オタクが結構野太い声でステージに茶々を入れたり歓声をあげたりするのを本人も注意しないのが気になった。本人は「節度あるお客さんに恵まれ」と言っていたけど、ちょっとそうは思えなかった。今とはだいぶ違ったであろう80年代のアイドルコンサートの空気を、観客がそのままやってしまったのかなと感じる。感染者の多いナーバスな時期だっただけに、これだけが残念だった。ただ内容はとにかく最強。全国どこに遠征しても満足だっただろう。群馬に行って、よかったねきっと私

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