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2010年5月に起きたアイドルシーンの転機

NHKで3月28日(土)に放送された「RAGAZZE!〜少女たちよ!」を興味深く見た。女性アイドルグループ7組によるパフォーマンスをアイドル好きの著名人が鑑賞し、その熱量を伝えるという番組だった。

今回、ももクロ、AKB、モー娘。が共演するのは10年ぶり!と言われていたが、その3組が10年前に共演したのが2010年5月30日放送の「MUSIC JAPAN アイドル大集合SP」だ。女性アイドルシーンの歴史を語る上で、外す事のできない大変重要な日である。出演者・歌唱曲は以下の通り。

行くぜっ!怪盗少女/ももいろクローバー
夢見る15歳/スマイレージ
おんなじキモチ/東京女子流
青春コレクション/モーニング娘。
D&D/バニラビーンズ
目には青葉 山ホトトギス 初恋/アイドリング!!!
ポニーテールとシュシュ/AKB48

当時のアイドルシーンはAKB48の盛り上がりと共に活気を増し始め、"アイドル戦国時代"と言われるようになった頃だ。しかし地下アイドルシーンが未だ成熟しておらず、グループの数はそこまで多くなかった。TOKYO IDOL FESTIVALの第1回が開催されたのもこの後の出来事であり、当時は異なる事務所に所属する大手アイドルグループが一同に会する機会はほぼなかった。10年前のこの日は当時のアイドルファンにとってはドリームマッチであり、アイドル界の行く末を占う、とても重要な場だったように思う。

番組冒頭で新人グループとして紹介されたのが、放送月の2010年5月にメジャーデビューしたももいろクローバー、スマイレージ(現・アンジュルム)、東京女子流の3組だった。各グループがこの日披露した曲はいずれもアイドル界においてアンセム化し、現在もグループの代表曲として知られるものばかりだ。また3組全てがその後武道館公演を達成し、脱退・卒業や改名などの転機を迎えながらも、3組とも活動を続けているのは奇跡と言っても過言ではない。

そんな中で頭一つ抜けたのが、ももクロだ。番組のオープニングを飾った「行くぜっ!怪盗少女」は当時未だ全国区ではなかった前山田健一の手による楽曲で、目まぐるしい展開やアクロバティックなダンスで見る者を魅了し、文字通りアイドルファンの心を盗んでいった。また後半での百田夏菜子による"エビ反りジャンプ"は、アイドル戦国時代の幕開けを高らかに宣言するかのような強烈なインパクトがあった。3組合同で収録されたトークパートでは、共演者も巻き込んでの自己紹介を披露。この日はももクロが"全国に見つかった日"として知られ、今でも語り継がれている。

フレッシュな新人3組に続いて登場したモーニング娘。が披露したのは、発売前だった新曲「青春コレクション」だ。しかし、少なくともこの日の収録においてはあまり大きな爪痕は残せなかったように思う。当時はメジャーデビューから12年経った頃で、グループとしては所謂"プラチナ期"にあたる時期だった。今でこそ伝説のように語られるワードだが、誰もが知る有名メンバーの卒業が相次いだ後ゆえに、なかなか固定ファンの外へ広くアピールするような活動ができていなかった。ただ、全盛期に比べメディア露出が減っていたこと、長期に渡ってメンバーチェンジが無かったことなどから、じっくりとスキルを磨いていった事はその後の飛躍に繋がっていったはずだ。当時もパフォーマンスの安定感は流石だった。

バニラビーンズは、アイドル戦国時代に先駆けて2007年にデビューした2人組だ。当時レコード会社が同じだったPerfumeがブレイクし、その楽曲のクオリティの高さからアイドルシーンの風向きは徐々に変わり始めていた。バニビも洗練された楽曲で一部界隈から注目を集め、本人出演CMのタイアップが決まったタイミングもあり、この日の出演に繋がったと思われる。ただ、振り付けのシンプルさや人数の少なさなどアイドル戦国時代を勝ち抜くにはインパクトに欠けたのか、大きなブレイクには繋がらなかったのが残念だった。

アイドリング!!!もアイドル戦国時代以前から活躍していたグループだ。当時フジテレビでの冠番組が活動の軸にあったため、局を飛び出してNHKに登場するという点には意義があったように思う。前年にAKBアイドリング!!!としてコラボシングルを発表したAKB48がその後大ブレイクし、続けて勢いに乗りたいタイミングではあったが、なかなか大きな結果は残せなかった。この日披露した「目には青葉 山ホトトギス 初恋」はストリングスを擁する爽やかなポップチューンで、”ドゥドゥドゥビドゥ”のフレーズが耳に残る佳曲だ。今回の「RAGAZZE!」でスタジオの朝日奈央が当時の映像を見ていたのも感慨深かった。

トリを務めたのが、AKB48だ。当時最新曲だった「ポニーテールとシュシュ」を披露した。既に個人活動も増えてきている頃で、シーンのトップランナーとしての貫禄すら感じさせるステージだった。後に国民的な知名度を獲得するメンバーがステージに何名もおり、その華やかさは圧巻の一言だ。

しかしこの日、感度の高いアイドルファンが目をつけたのは、ももクロだったように思う。この放送が2010年代のアイドルシーンの空気を最初に作ったと言っても過言ではなく、かなりの反響があったはずだが、同企画の第2弾が放送される事はなかった。あれから10年が経ち、制作された実質的な続編が今回の「RAGAZZE!〜少女たちよ!」なのである。この話は、また次回。

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