(4)勾配の恋【いまだすべての恋が思い出にならない】

はあちゅうさんの新刊「いつかすべての恋が思い出になる」の表紙アイテムを、いまだすべての恋が思い出になっていない私が代表を務めるshyflowerprojectが手がけさせていただきました。

これを機に、すべての恋を思い出にしていくために、一旦思い起こせる限りのすべての恋と向き合ってみる連載をはじめました。長短、濃薄、ひどいやつ、かわいいやつ、様々な種類の恋を、眺めてってください。

※詳細をかなり省いているものもありますが、わたしの記憶を元にした実話です。
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ケース4


**勾配の恋

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自暴自棄の延長で、わたしから声をかけたのが始まりだった。

100人くらいが勉強する予備校の自習室で、異次元な格好の彼を見つけた。自習室が一旦休憩時間になり全員が部屋の外に出たとき、最後に残ったのはわたしとその彼で、荷物をまとめる背中に向け私はこう言った。


「そのパンツ、レディースですか?」

信じられないほど細身のパンツの彼は真っ赤なメガネをかけ、70年代のUKファッション...というかピストルズにモード増し増しにしたような。高校3年の受験生なのに美容学生にしか見えなかった。本当はパンツのサイズがレディースかどうかなんて興味がなくて、荒ぶる日常が少しでも楽しい方に転がるよう、わたしは暇つぶし感覚でそう話しかけていた。

「パンツ?あ、そうです。(笑)」

それは夏で、大失恋をしてから2ヶ月くらいの、蒸し暑い昼過ぎだった。
初対面の彼とわたしは、なんとなく予備校の外階段に移動して汗ばむのも気にせず2時間話していた。服のことだけでなく、好きな音楽、好きな映画、好きな小説…それらが見事にド一致した私たちは大興奮して(普段お互いが通う高校では、同じ趣味フルコンポの異性になんて一切出会えなかった)、気づけば彼の顔は西日に包まれていて、日も暮れてきたね、と話しながら、なぜか近くの展望台に登ることになった。

彼は、一瞬付き合った彼女がいたことがあると言ってたがキスもしたことがない、なんというか指紋のついてない、つやつや粘土レベルの童貞で、大失恋の心の痛みに慣れすぎ何も怖くなかったスターモードのわたしは、数時間前に出会ったばかりのその彼と天望台でキスをしていた。

確かその場で、付き合うことになったと思う。

幸運なことに好きではない彼氏と2年間やりまくっていた経験があったわたしは、セックスに関してこの彼よりは上手(うわて)だと思っていたので、出会って数日後、真昼間に誰もいない彼の実家で初めてしたその日、いちいち驚いたり、AVで見たままのことを言ったりする彼に、小動物をあやすような愛しさを感じた。


ある夜、状況が一転した。
友人のバンドで歌うことになったという彼を見に、ライブハウスに行った日だった。わたしは考えすぎていた。まず、彼の通う高校は自由な校風でおしゃ男女ばかり。その上バンド界隈となると凄まじくおしゃの頂なのでは。そこに私はどんな仲間とどんな格好で行けばいいのか。悩んだ挙句、何周も何周も回って、あえて数年前に流行ったブランドの服と小学生のようなツインテールで、中1の妹を引き連れて行った。バキバキにおしゃな格好で行くと、気合が滲み出てしまうと思ったし、圧倒的おしゃな友人はいなかったから。妹を連れていく余裕を示したかった。

ライブが始まって絶句した後、恥ずかしさがこみ上げた。普段個性的すぎる格好でおもしろ要因として男友達に囲まれる華奢な彼は、歌うと、ヒーローだった。歌ったのは学園天国と、タッチの主題歌だったと思う。キメ過ぎもせず、力の抜けた、かつ、1フレーズで掴まれる独特の声で、客を乗らせ、その日会場の盛り上がりが最高潮の渦、渦、渦。遠心力で飛びたかったのはライブ後、彼が細くかわいいおしゃど真ん中の同級生に私を見られたとき、少し集団から離れさせたときだった。

まちがいなくその日、立場が逆転した。

すっかり下手(したて)になった私は、すぐ泣いたり束縛するようになり、数週間後「ちょっと付き合うの、重い」と神社で言われ、夏の終わりに別れた。冬になりわたしは別の人に恋をしたけどそれも終わり(次の回で取り上げます)、ファッショニスタな彼とわたしは、春に再会を果たす。

同じ大学に入学していたのだ。
入学式でまた、立場が逆転する。似た晴れ着ばかりの入学式に、わたしは我ながらものすごく奇抜な格好で参加した。装飾物で囲われたひたすら派手な赤いピンヒールに、グレースコンチネンタル(パルコに入ってるがパルコの中では高めのブランド)のセットアップ。彼はなんと、その姿だけで恋を再開させ、それから数年を私に捧げることになる。

大学生活がはじまり、彼から頻繁に連絡が来るようになったが、あたらしい友人に囲まれるわたしは彼にそんなに興味がなくなっていた。
だけど、好きだと言われ続けいい気になり、夜の公園のベンチで付き合おうと言われ私は同意した。

今思い出せるのは、この頃より、鮮やかな高校生の日々ばかり。
高台にある彼の家からの帰り道、イギリス国旗が正面についてる派手すぎる彼の自転車の後ろに乗りながら、急勾配の坂で豪速の風を受けながらしがみついたシャツの分厚さと、一面オレンジだった目の前の景色。彼の親がいない時間に家に行き、親が帰宅する時間に家を出ていたから、いつも大抵同じような夕日だった。

復縁してからの彼は、もはや私の奴隷だった。
かなりハードな運動部で毎日クタクタになっていた彼は部活が終わった夜、大学から40分かけて私のバイト先に自転車で迎えに来て、我が家までの10分の夜道を送ってくれて、また自転車で60分かけて彼の家まで帰っていた。軽音楽部に入ったわたしは彼と並ぶ個性派パンクファッションとなりビビアンウェストウッドにはまり、何万円もするアクセサリーをいくつも与えられた。呼び出せば来て、帰ってといえば帰った。指示を待つ子犬みたいな、頼りない彼。言うなれば、ワイルドの正反対のところにいた。

春に復縁して主従関係がスタートしたが、その秋には私は、異常にワイルドな先輩(他の回で来るよ)に恋をして両思いになり、奴隷の彼にそれを告げ別れた。別れる直前、彼はわたしのお迎えがスムーズになるよう免許を取り大きな車を買ったばかりだった。

だけど別れても、その車は奴隷活動に活躍した。
私が色々な彼氏と付き合ったり別れたりを繰り返す間も彼が、私の要求に100%答え、いつでもどこでも駆けつけてくれた。

一度彼の女友達に呼び出され「もう彼を解放してあげて」と言われた。だけどできなかった。そうして大学4年間、彼は奴隷を全うした。

大学を卒業してからお互い就職のため別の県に引っ越してしまったけど、帰省のタイミングでドライブに行ったり、食事に行ったりした。大学を卒業して5年くらいはそんな風にたまに会い、毎年誕生日におめでとうとメールが来ていたのだけど、ある日を境に、その年の誕生日から「おめでとう」は二度とこなくなった。

最後にふたりで話したのは、真夜中の砂浜だった。
彼はその日の一ヶ月前、5年付き合ってる彼女にプロポーズしたのだという。
卒業してから彼に彼女ができたことは知っていたけど、それまではそこまで、その彼女を好きではない様子だった。だけど、そんな邪険にしていた彼女に一度振られ、失ってみて必要だと気付き、自分の方が逆に好きになってしまい、結婚したくなったのだという。君はいつもシーソーの上か。

パンツがレディースかどうか聞いたあの日から、ちょうど10年経っていた。

それまで私たちは自分たちのフェアではない関係を腫れ物のように扱い、触れてこなかった。だけどその日砂浜に両足を広げながら彼は急にこれまでのことを振り返って突然「いままで、都合のいいときに呼んでただけでしょ?」と明るく笑った。

恋は、笑えるようになったとき、完全に終わっている。

私もその時結婚が決まっていて、このとき、はじめて、シーソーが平行になった気がした。you are my sunshineという説明するまでもなく有名な曲がある。照明もない辺りが真っ暗なそこで、わたしの所有物ではなくなった彼を見たら、彼のどこが好きだったかわかった気がした。

私は彼の、強い西日くらいに濃い日差しで、いつ何時も私を照らしてくれるような所が、好きだったんだ。どんな理不尽な夜もどんな報われない朝も。いつでも。同じ困ったような笑顔で、同じ暖色で。

SNSで、彼の新婚旅行先がメキシコだったと知った。その幸せは、よく似合うなあと思った。

…という恋でした。罪悪感でいっぱいだったはずなのになあ…ものすごくキラキラした思い出になってしまった。はあちゅうさんの2/14発売の新刊、みんなも読んで、その、ヘドロみたいにつっかえた恋も、思い出に変えて欲しい。
この本、プレゼントキャンペーンもあります!詳細ははあちゅうさんのnoteでも確認!

(バナー写真 :本表紙より 撮影yansuKIMさん)


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スイスイ

いまだすべての恋が思い出にならない

はあちゅうさんの新刊「いつかすべての恋が思い出になる」の表紙アイテムを、いまだすべての恋が思い出になっていない私が代表を務めるshyflowerprojectが手がけさせていただきました。 これを機に、すべての恋を思い出にしていくために、一旦思い起こせる限りのすべての恋と...
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