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終わりにできない関係

「終わりにできない関係」というのがある。
はじまってもないから終わりにもできない関係。

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最近、あらゆる余分な「関係」を終わらせすぎ気まずい相手もいなくって、イライラする相手もいない。つきあうのが不毛な人とは付き合わないようにしたら、無菌状態のようになった。

という生活をしているなか、すこしだけ気まずい相手ができた。
その人は薬剤師さんで、彼は息子達がいつもいく病院のとなりの薬局で働いている。息子たちがインフルエンザとRSウィルスとノロに感染した先月なんて、一週間に4回も、その薬剤師の彼と顔を合わせた。

そんな彼はとても声が低く、低すぎて渋すぎて聞き惚れるくらいのバリトンで、わたしはいつもその声に聞き入り薬の説明が頭に入らなくなりそうなときが何度かあった。

雪が降っていたある日、他にお客さんがおらず、しんとしていたなか、名前を呼ばれ、薬の説明がはじまった。その日ははじめてつかう薬もあったからか説明はやけに長く、低い声はさらに響き続け、もう途中からこれは曲なのではないかというくらい癒され始めたが、なんとか集中しようと耳を傾け続けた。完全にわたしが悪いのだが、一通り説明を聞いたあと、ほんとうに気軽なきもちで、わたしは「いい声すぎて説明があたまにはいってこないですね(笑)」とその人に言った。

いや、まず大前提としてわたしは基本的に知らない人に、褒める癖がある。いい声の人、いい顔の人、かわいい服をきている幼稚園の先生、などなど。いい部分を発見して褒める癖がある。これをすると相手に急速に好かれることを知っているからだろう。そしてそれは無意識に、ノリが良さそうな人や顔見知りにするものとしており、つまり、そう、相手を選んだ上で媚を売るためにする何気ない癖なのだけど
まさか、その薬剤師の彼(45歳くらい・長身・髭)は、どうみてもノリが良さそうだったその彼は、蓋を開けたらノリが超悪く、もう、明らかに憮然とした顔をしたのだった。

「、、、、、、、、はい?、、、、もう一度説明いたしましょうか?」
と言われた。わたしは目が覚めた。久々だったのだ。冗談が通じない相手に冗談を言ってしまって高い壁を見せつけられたのが久しぶりだったのだ。若い頃は見誤って何度もこういう経験をしたけど、社会にでて31にもなってこんなことするなんてなかなか無くって、こんな些細なことなのに、わたしは固まってしまって、「あ、すいません大丈夫です」しか言えず薬を受け取って逃げるようにそこを出た。

帰り道、久々の「人間関係の失敗」に泣きそうになった。
子供に熱が出続けて看病し続けている母親は超絶ナイーブだからわたしが泣きそうになるのは見過ごして欲しいのだけど、ここに、うっすらみつけた、"別の感情"にわたしは驚いた。

ちょっと、愛おしかったのだ。この、ちょっとめんどくさくて困っちゃう自分の失敗が、ああつぎ薬もらいに行く時マスクしていこうかなとか声変えていこうかなとか、そんなくだらない悩みを持ち始めてる自分が。10代の頃なんて毎秒あったような些細なばかみたいな自意識の果てのそんな悩みが。そう彼こそが、何もはじまってもいない、なんでもない、ただの面倒臭い相手。

わたしにとってそれって、一周回って新鮮だった。なのでそれからその薬局にいくとき、自分がどんな反応をするのか楽しみにして行っている。彼はわたしのことなんて気にもとめず、また低い声で説明してきている。そしてわたしは、ああこんなこと気にしてたのわたしだけだったか、なんてまたかわいい嘆きを心で歌っている。そのきまずい薬局にいかないという選択もできる。あえて行きまくるという選択もできる。
なんだって選べる。

という話をかきました!
ここからが本題だから!!ここからを読まないと意味わかんないと思うけど!

cakes最新話!!!かきました!よんでね!!!
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Q.メンヘラにパワーを奪われてつらいのですが…

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