折り込みチラシの有用性

演劇の制作に関しては素人だが、仕事で情宣関係のこともやっているので、その視点からいわゆる「折り込みチラシ」の有用性について考えてみた。

情宣手段の有用性とは?

有用性を語るためには、なにを目的にそれを行うかを明確にする必要がある。
芝居の情宣の目的は観劇者数を増やすことにある。
観劇者数は以下の公式で導き出される。

 観劇者数=その公演の情報を知っている人数×転換率

転換率とは情報を知っている人の中で実際に観に来た人の比率で、人気劇団は転換率を上げる努力を何らかの形でしている。(内容の向上から会員制からファンへのフォローからその他諸々)転換率が高ければ、情宣活動の効果は相乗化される。それが理想。
でもそうは簡単には行かない。
転換率を上げる努力は、普通の情宣活動の何倍もの時間と労力とセンスが必要とされる。そして、人気のない劇団はもともとこの3つが不足している場合がほとんどで…

閑話休題。折り込みチラシの話だった。

折り込みチラシは、その公演の情報を知っている人を増やすための一手段である。

とすれば、折り込みチラシの有用性は折り込んだチラシの枚数に対する実際に見た観客数の比率で捉えることができるだろう。
理屈の上では。
しかし、現実には折り込んだチラシの枚数はともかく、それを見たことが要因となって来場したお客さんを厳密にカウントする手段はほぼ無い=数値的に有用無用を語るのは難しい。
なので、ここでは他の手段との比較により、折り込みチラシという手段の比較優位性とその限界を見ていきたい。

インターネットとチラシの対比

http://www.dnp.co.jp/cio/trend/project/mediavalue/teiten/

大日本印刷が2001年から毎年行っている「コミュニケーション接点に関する調査」によると、折り込みチラシを参考にすると言う人は2001年初頭には90%近くだったのが2016年には70%を切っているのに対し、インターネットを参考にすると言う人は2001年には40%程度だったのが2016年には90%を超えている。
もちろんこの「折り込みチラシ」は新聞などに織り込まれるスーパーなどのチラシを対象としていると思われるので、演劇にそのまま当てはめることは出来ないが、体感的には演劇においてもなんとなくあっている様な気がする。

インターネットメディアは、お客さんが手元のデバイス上のアプリから指示を出し、その指示がネットワークを通じてサーバーに届き、サーバーがその指示に応じた情報をネットワークを通じてデバイスにコピーし、アプリがその情報を表示する…という仕組みになっている。
ケータイ・スマホの登場でデバイスはいつも持ち歩かれる様になり、ネットワークやサーバーの拡充で場所や時間に関わらず瞬時に文字だけでなく絵や音や動画まで含めた大きな情報のやり取りが可能となった。

一方チラシは、情報を紙上にデザインし、印刷されたものを物理的に届けることで情報を届けることが出来るのだが、物体を媒体とする時点で、印刷や配布の手間、物理的に届いた人にしか情報が行かないなどの制限がある。

対比すれば、インターネットの方がチラシより、遥かに早く、広く、安く情報を届けることが可能なメディアと言える。しかも上記したようにそれを重視する人間が増えてもいる。
なら、チラシを止めて、インターネットに情宣を絞り込んでも、それなりに集客は出来るのではないだろうか。
これは、出来るだろうと思う。
ただ、いくつかの点でチラシはインターネットにない強さを持っている。
その強さをインターネットも持てなければ、完全に置き換えとなることは当分難しいのだろうと思う。
その強さとは?

チラシの強さ

1.ハード的なメリット
上に書いたインターネットメディアの仕組み、あれらが全て問題なく稼働した時だけインターネット上の情報にアクセスが出来る。逆に言えば、一つでも欠けたらアクセスできないのだ。
デバイスのバッテリー、アプリのバグ、ネットワークの不調、サーバーのメンテナンス、ウィルスやマルウェアによるトラブルその他諸々。
一方チラシはどうか?
チラシは手元に届かなければなんにもならない。だが一旦届けば、電気が無くても四六時中、デザインされた情報を表示させ続けるのだ。
(この強さは電子書籍に対する紙の書籍の強さにも通じる)

2.見るという行為の違い
確かに、インターネット上に情報を上げることはチラシを印刷するより遥かに手間が少なくて済む。
だが、インターネットメディア上には膨大な情報が飛び交っている。
お客様にその公演の情報を知ってもらうには、お客様が、デバイスを立ち上げアプリを立ち上げ、膨大な情報の中から私達が伝えたい情報に関連するなにかにアクセスしてくれるのを待たねばならない。
(インターネットマーケティングと言われるものは徹頭徹尾、お客様が自分たちが伝えたい情報にアクセスしてくれる様にするためになにをしたらいいかという話である。)
一方チラシはどうか?
チラシは手に取って見てくれれば、情報が表示される。
もちろん、チラシの中からその一枚を選び出し、中身を読んでくれるようにするためには色々なセンスや技術がいる。だが、お客様の能動性に期待しなければならない部分は、インターネットより少ないと思う。

うん、書いててほとんど難癖に近いなあと思う。
ただ、ことお客様の手元に届けば、チラシはインターネットに負けないメリットも持っていると思うのだ。


チラシを届ける手段の違い

やっと折り込みチラシの話に戻ってきた。
まあとりあえず、チラシは今後も作るとして折り込みチラシは有効なのだろうか?
それを考えるには、チラシを使う他の手段と比較してみるのが良いだろう。

チラシを使う情宣は大きく分けて5つくらいあると思う。

1.協力してくれる施設や店にチラシを置かせてもらう(置きチラシ)
2.各種メディアに取り上げてもらうために企画書などと一緒に送る(プレスリリース)
3.自劇団や他劇団の公演時の配布物に封入する(折り込みチラシ)
4.劇団員や協力者が配布する(撒きチラシ)
5.自劇団や劇団員、協力者が把握しているお客様に郵送する(DM ※昨今ははがき形式で別に作成することがほとんどか)

2はやや特殊なパターンなのでこれを除く1・3・4・5で、チラシが届く確実性で比べてみよう。
1はそこに来た人がたまたまそのチラシを見かけて興味を持った時にだけ手元に届くので、極めて相手任せ・運任せな部分の強い手段だと思う。
対して3~5は、相手が意図的に受け取ったものを破棄しない限り相手に届くという点で1・2よりは確実性が高い手段だと言える。

では、自分たちが把握していないお客様、いわゆる「潜在顧客」に届く可能性で比べて見るとどうか。
5はすでに把握している顧客にしか届かない。
3の場合他の劇団を観に来る潜在顧客へ、4の場合関わる役者やスタッフに関係する潜在顧客へ届く可能性がある。1は届く先のほとんどが潜在顧客だと言っていいと思う。

以上から、折り込みチラシは「その公演を観に来る潜在顧客に半強制的にチラシを届けられる手段」ということが出来る。

折り込みチラシをすべきか否か

とすれば「折り込みチラシをすべきか否か?するとしてどこまでするべきか?」は、「それぞれの公演を観に来る潜在顧客に半強制的にチラシを届ける必要があるのか否か?」という問題だと言えるだろう。
ここで考えなければならないのは、制作の人的・経済的・時間的リソースは有限であるという点だ。
折り込みチラシだけにかかずらわってはいられない。

もちろん、潜在顧客へは少しでもリーチした方が良いに決まっているが、同じ手間をかけるなら、潜在顧客より既存の顧客の方が転換率は高めになりやすい。既存顧客対策をせずに折り込みチラシをするなら無駄が多いと言わざるを得ない。

また、折り込む先と自分たちの顧客が傾向的に重なるなら、同じ人に二重三重にチラシが渡る可能性がある。特に演劇公演はなぜか、無い時には全然無くて、ある時にはやたらと重なる。当然、重なる時期には折り込み作業も重なる。
人間心理には「接触する回数が多いほど相手への印象が強まる(ザイオンス効果)」という傾向があるが、とは言え、有限のリソースを使うという点で、繰り返しになるのをどこまで許容するか。
(ちなみに強化されるのは10回程度までとされ、また、与える印象がマイナスの場合マイナス方向に強化されるそうだ。)

「折り込みチラシをすべきか否か」という問いに正解は無いと思う。
しかし、行わない場合をスタート地点と考え、公演毎に「この公演に折り込むことで掘り起こせる顧客」がいるかどうかを考えることは、十分意味があることだと思う。
インターネットが普及した現代では、情報配信だけならインターネットだけでもある程度出来る世の中だと言える。
それをベースに、効果を考えながら可能な範囲で折り込みチラシを追加していくという感じの方が、情宣のコストパフォーマンスを上げることが出来るのではないだろうか。

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