カザリンチーム

カザリンの手ぬぐい

きのう、取り置きしてもらっていたある書籍を引き取りにアカデミイ書店紙屋町店に寄ったときのことだ。

「カザリンって、どんな会社なんですかね?」

カープの初代エース・長谷川良平さんのイラストを染め抜いた記念手ぬぐいを手にして、スタッフのHさんが訊いてきた。

昭和30年に長谷川さんがシーズン30勝をあげて最多勝利投手になったときの記念品。掘り出し物がある、と言ってカウンターの下から取り出して見せてくれた日本手ぬぐいの裏に、その名があったのだ。

最近は古書店というよりカープのグッズショップと化しているアカデミイ書店紙屋町店。様々なグッズが持ち込まれるが、確かにこれは「掘り出し物」だろう。

「ぼくの本(全身野球魂 長谷川良平)、読んでないね!」
そう茶化して差し上げたが、カザリンというのは、長谷川さんが現役当時に入り浸っていた喫茶店の店名。この店のまわりに長谷川さんのファンの輪ができていた。

店のママはタニマチのような存在で、物心両面で長谷川さんを応援されていたそうだから、長谷川さんの快挙を祝って個人的に作られた記念品。それをみんなに配って、共に喜び合ったということのようだ。

長谷川さんを中心にこの店の常連で「カザリン」という草野球チームを作っていて、今では考えられないことだが、シーズンオフには長谷川さんも混じって試合をしていたのだ。

今でいえば黒田博樹と同じチーム、同じユニフォームで、ファンがゲームを楽しんでいたのだ。
そんな当時のカープ選手とファンとの距離感を伝えるグッズとしても、この手ぬぐいは貴重なものだろう。

この年からちょうど10年後に衣笠祥雄氏はカープに入団しているが、そのとき長谷川さんは現役を引退して投手コーチとなられていた。そしてシーズン途中から白石勝巳に代わって監督をつとめている。

もちろんカープ選手とファンとの距離感も変わっていたはずで、その頃はかなり遠いものになっていただろう。

埋蔵経といえば大げさだが、60年余りのときを経て世に出てきたこの手ぬぐいが、当時の長谷川さん、そしてカープの消息を伝えることになった。
これから50年後、100年後、はたして衣笠さんはどんなものによって、どんな形で蘇ることになるのだうか…。

その手ぬぐいを見つめにがら、そんなことを思っていた。


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