“鉄人”のもう一つの記録

衣笠祥雄氏は4月23日に亡くなられた。死因は上行結腸がん。初めて目にした病名だったが、盲腸から上に向かって伸びる腸部分の癌で、大腸癌の一種だという。

肉や動物性の油を多く摂取する食の欧米化によって、最近とみに増加しているらしい。また、喫煙によっても発症率は増加するという。

広く知られるように衣笠さんは、大の肉好きだった。しかも野菜は苦手。魚介類には箸もつけなかった。また喫煙もされていた。この癌の「原因」にピタリとはまる生活習慣だったのだ。

カープトレーナーの福永富雄さんのお宅で初めてお会いしたとき、手料理を振るまう福永さんが「サチは肉しか食わないからね」と苦笑いしながら言っていたのだが、そのとき嫌な感覚に襲われたのを憶えている。

ちょうど脳腫瘍で早世した元カープ投手の津田恒美をはじめ、プロ野球選手の病気やケガについてルポした「ダメージ」を執筆していたときで、津田に関してもそのテーブルでは話題になった。

津田の悪性腫瘍については、「肉好きの野菜嫌い」が発症の原因のひとつになったのではないかと言われていたから、衣笠さんが同じような趣好であることに想像したくもない予感を抱いたのだった。

それが現実のものになってしまった。

もしあのとき「野菜は摂った方がいいですよ」と冗談まじりに言ったところで、衣笠さんは例の高笑いで「あーはっはっ」と軽くいなされただけだったろうが…。

それからも衣笠さんとは何度か食事を共にさせていただいた。相変わらずの肉食ぶりだったが、「まさか」の気持ちはこちらにもあって、そのうち気にもしなくなった。それどころか、こちらが接待するときには迷いもせずに「おいしい肉を喰わせるところ」に席を用意していたものだった。

どうも衣笠さんが癌らしい。そんな情報が入ってきたのは2014年9月のことだった。そのとき、あの夜の嫌な予感と、後悔がよみがえった。

あの一報のときすでに発症していたのだとすれば、衣笠さんは3年半あまり癌と戦いながら命を長らえたことなる。

病魔との戦いに休息はない。息の抜けない闘病の日々の1300日あまり。それを衣笠さんはまっとうされた。

その意味では、やはり衣笠さんは“鉄人”だった。





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