カープ球団、本日も“無罪放免”御礼!

日本野球機構のアンチ・ドーピング調査制裁委員会は9月3日、禁止薬物を使用したとして広島東洋カープのサビエル・バティスタ選手に来年3月2日まで6か月間の出場停止の制裁を科した。
球団側には異議申し立ての機会が与えられれているが、申し立てはしない意向で、これで機構側の制裁は決まったことになる。

この結果を知っての思いは、それぞれだろう。
処分の軽重については、当然のこと賛否わかれている。カープファンは「賛成」の側につきたいのが人情だろうし、その中にはバティスタの復帰を望む声も根強い。

とはいえ、この処分を妥当なものだと全面的に擁護する意見は少数派だ。
故意か過失かはさておき、禁止薬物が検出されたのは事実であり、真っ黒とはいえないとしても、バティスタ選手が限りなく黒に近いグレーであることにちがいはないからだ。

いっぽう、否定派についてはかなり強硬であり、またその数も多いようだ。処分の6か月の出場停止期間が来年の開幕前までであり、実質は今シーズンの残り試合のみで、昨日の試合を含めてもたったの17試合。ちょっと調子を落として2軍で調整しましたという程度で、ほとんどペナルティーになっていなのだから。

とくにバティスタ選手の超ド級ホームランに煮え湯を飲まされた他チームのファンにとっては、この生ぬるい裁定には納得できかねるだろう。

個人的には後者に与する。
バティスタ選手には何の恨みもないし、安易に選手生命を奪うことには反対だ。

しかし、今回のケースは当事者であるバティスタとともに、カープ球団に対して、どうしても「悪質」という印象が拭えない。

また、その両者に対するNPBの処分も甘すぎるのではないか。カープ球団の監督責任、さらにドーピングが発覚してからもバティスタ選手を出場させていた不見識を問うことなく、スルーしていることにも疑問を禁じえない。

かつてグッズ納入業者に消費税の増税分を転嫁しないように要請したとして公正取引委員会から勧告を受けた際に、また、今シーズン前にチケット販売の不手際で社会に多大な迷惑をかけたときも、機構から球団にペナルティーらしいものが課されることはなかった。

不祥事のたびに責任が問われることもなく「無罪放免」になってきたために、カープ球団がいつまでも襟を正すことがないことを思うと、機構の及び腰には失望するばかりだ。

サプリメントの謎

ここで、あらためてコトの経緯をふりかえってみたい。

6月 7日 ソフトバンク戦後にバティスタから検体を採取
7月24日 先に採取した検体から禁止薬物のクロミフェン検出と報告
7月26日 委員会がバティスタと面会
8月16日 バティスタの希望で同日に採取した同じ検体も検査
8月17日 陽性反応が出たと報告
      球団がバティスタのドーピングを公表・出場選手登録を抹消
8月21日 バティスタに弁明の機会が与えられる
      検査の正当性に異議のないことをバティスタに確認し制裁決定
9月 3日 NPBの調査制裁委員会が6か月の出場停止処分を科すと公表

      
公式に発表された出来事を時系列に並べると、このようになる。
しかし、きょうの中国新聞の掲載された記事によると、ここには重大なエポックがもれていた。

その内容を紹介してみよう。

処分が発表されたのを受けて鈴木清明球団本部長が取材に応じた。
それによると、バティスタ選手は3月に自ら購入した海外製の2種類のサプリメントの使用を球団に申請し、それをトレーナーが調べたところ、問題はなかったという。

そして…、

「6月のドーピング検査で陽性反応が出た後、球団がサブリメントを再調査。…」

つまりカープ球団は7月24日のずっと前の6月時点で、バティスタ選手のドーピングを知っており、それでもなお公式戦に出場させていたということになる。

「悪質」な対応は、すでに6月からはじまっていた。否、それは3月のサプリメントの調査時点からはじまっていたのかもしれない…。

サプリメントの再調査の結果、1種類からは検出されなかったが、他のものは「すでに消費されており、調べられなかった」と鈴木本部長。

が、ここでも「悪質」の匂いがプンプンしてきはしないだろうか。

バティスタ選手がサプリメントを使うにあたって、2種類摂取するのであれば何か月分にしろ同じ摂取回数分をセットで求めるのが普通だろう。
一方のサプリメントだけが球団が調査すときに都合よく消費されているなど、通常では考えられない。

よしんば、もしそれが事実であったにしても、あらかじめ調査したサブリメント、そのメーカーも銘柄も把握していたはずで、それを取り寄せて検査することは可能だろう。

「やばい方のサプリメントを隠蔽した?」
そう推測されても抗弁はできないだろう。

「妊娠したかったのか?」というツッコミ

バティスタ選手の検体から検出されたのはクロミフェンだった。これは排卵誘発剤などのホルモン調整薬として使用されるが、筋肉増強剤によってホルモンのバランスが崩れる副作用を抑えるために使用されることがあるとして世界反ドーピング機関によって禁止薬物とされている。

もしバティスタ選手が筋肉増強剤を摂取していなかったのであれば、「彼のサプリメント使用は排卵誘発を目的にしたのものか?」と、あの長い黒髪と相まってネット界ではジョークのネタにもなっている。

もちろん「そんなことはありえないだろう?」というツッコミであることはいうまでもない。

バティスタ選手は、「意図的に摂取はしていない」と弁明している。
しかし調査裁定委員会は「(クロミフェンは)体内で自然に生成されないもの」と、彼の主張を一顧だにしなかった。
どちらかといえば、「この程度で済ませてやったんだ」というニュアンスさえ感じる。

残念ながら、バティスタ選手の筋肉増強剤の使用は、限りなく黒に近いグレーだったのではないかという印象は拭えない。

となるとカープ球団の対応は、生ぬるいとというより、もはや共犯ともいえそうだ。

ドーピングが発覚してからも、平然と試合に出しつづけていた責任を問われて鈴木球団本部長はこうコメントしている。

「もし(2回目の検査が)陰性だったら、名誉を傷つける。最終的に確定という段階を踏まないと、発表できない」

6月に発覚してからほぼ2か月、対応を先送りにしてきての弁明が「当人の名誉」というのも寂しい限りだ。
しかも、最後は発表した時期の遅れの言い訳に巧妙にすり替えているのはいただけない。

最初にA検体が陽性であったと知ったとき、即座に登録を抹消していても、バティスタ選手の名誉とはまったく関係がない。
それまでだって調子を落として再々2軍で調整していたわけで、鈴木誠也選手のような不動の主力選手が不可解な登録抹消になるのとはわけがちがう。

顔をのぞかせた「カープクオリティ」

また鈴木球団本部長は処分を受けて、「人柄もいいし、そこも見て考える」とバティスタ選手との契約を続行する含みを見せた。

直近でドーピング違反を問われたオリックスのメネセス選手の場合、1年間の出場停止処分がされたその日に、球団は彼の契約を解除している。
その処分と比べると、カープ球団の対応は、あまりにもゆるゆるだ。

今回のドーピング問題は、球団内部の不祥事ではない。球界を巻き込んだ社会的なスキャンダルなのだ。
その当事者である選手の処遇を考慮するにあたって「人柄もいいし…」はないだろう。
あまりの危機感の欠如にめまいがする。

契約に含みを持たせるにしても、せめて「ファンの声を聞き、関係者とも相談した上で」くらいのタテマエを吐く腹芸ぐらいは欲しいものだ。

これを「カープクオリティ」というのだろう。
チームを私物化している傲慢さが、ついこんなところにも出てしまうようだ。

これだけの不祥事でありながら、カープ球団はチケット販売の大騒動のときと同じく誰も責任を取らず、何事もなかったかのように済ませようとしているらしい。
もはや、いまのカープ球団に自浄能力は期待できないのだろうか…。

カープ球団には、自らを見つめ直してファン目線の経営に舵を切って欲しいとの思いから「ズムスタ、本日も満員御礼!」を執筆したのだが、まだ関係者にはお読みいただけてないのか、その労苦は当分報われそうもない。




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