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「可愛い!」には意味がある?

父母ちちははが かしらで さくあれて 言ひしけとぜ 忘れかねつる

息子イメージ

巻二〇 四三四六  丈部稲麻呂 

一般訳
父母が私の頭を撫でながら、無事でいておくれ、といってくれたことばが忘れられないことだ。

解釈
これから防人として九州へと赴任するじぶんを、父母が頭を撫でながら「無事に帰ってきておくれ」と送り出してくれたと詠んだもの。なんの巧緻もない親を慕う歌です。
しかし、どこか胸をうつ。その理由は、この歌が味わい深い方言で詠まれているからでしょう。
駿河の国の防人部領使布勢朝臣人主ひとぬしが天皇に献上した歌と左注にあります。20首のうち稚拙なものは取らなかったとありますから、この歌もギリギリでセーフだったのかもしれません。

この歌の味わいを支えているのは、方言の独特の語感。それで同じ内容であっても魅力が加味される。ことばの力というものでしょう。

当時は、いろいろなおまじないがあって、頭を撫でるのもそのひとつだったとか。どこかからだにふれながら願うと、その子は幸せになると。
それは現代人も無意識にしていることです。こどもの頭を撫でるとき「いいこだね」と、そうあるように願っているはずです。きっと記憶の底で、その呪術的なはたらきを無意識に信じているからでしょう。

ただ可愛いから頭を撫でるのではない。万葉の父母は意識的に願をかけていたのでしょう。きっとしあわせになってくれますように、と。

そういう私もやってましたね、朝の食卓についた息子に「おはよう」といいながら。

直感訳
じぶんの無事を願いながら頭を撫でてくれた父と母。もう長く会ってはいないが、こうして無事にいられるのも、あのときの両親の祈りのおかげにちがいない。そうおもって、いまもふたりの愛に感謝しているのだ。


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