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残念なカッコーさん

佐保の里イメージ

答へぬに な呼びとよめそ よぶ鳥 左保さほやまを のぼくだりに

巻10の1828 鳥を詠む 作者未詳    

一般訳
返事をする者もないのに、そんなに呼び声を響かせるなよ、カッコウよ。佐保の山辺を上に行ったり、下に行ったりして。

解釈
カッコーの鳴き声に答えるとか答えないとか、妙なことを詠っています。でも万葉人には、これがすっとはいってくる感覚だったのでしょう。

「カッコーの鳴き声を真似ると死ぬ」という迷信、いや、戒めが当時のひとびとには広く知られていたようです。つまり、この歌のテーマは死であることは明らかです。

それにしても万葉集には、カッコーがよく登場します。詠われている鳥のなかでは最多出場記録とか。うぐいすとか、ひばりとか、もっと雅な鳥はいくらもあるにもかかわらず、カッコーがよく顔を出します。それはたぶん、当時のひとびとの関心が「死」に強く傾いていた証左でもあるのでしょう。
日常の営みのなかで、幼い命が断たれる。宮中や豪族のあいだで皇位の継承をめぐる諍いや覇権争いが絶えず、庶民もいやおうなくその渦中にまきこまれてしまう。万葉の時代に生きたひとびとにとって死は身近なもの。それで死を生と等価なものとして意識する感性をかれらはまだもっていたのでしょう。

死を意識することは、生を確認すること。死が身近だった当時のひとびとには、死を思うことで生を手触りのあるたしかなものとして感じていたのかもしれません。

ところで歌にでてくる佐保山とは、どこの山なのでしょうか。ナビで調べて見ると、奈良県に佐保山というのがありました。古くはそのあたりに貴族や豪族たちの邸宅が並んでいたとか。
その佐保山で、しきりにカッコーが鳴いていた。そこで先の故事を踏まえてユーモラスに詠った戯れ歌。そんなところでしょうか。

スピリチャル訳
佐保の山辺あたりを飛びまわって、しきりに鳴いているカッコーよ。うっかりお前の声に返事をしてあの世に行くようなトンマはいないっていうのに、なぜそれほどムキになって鳴いているのだ。
いまこの界隈には諍いもなく、穏やかで平和なときをみんな謳歌しているというのに。

(禁無断転載)


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