睡羊軒 @suiyouken

ハルヒSS集 『令嬢ハルヒの密かな愉しみ』

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ハルヒSS集 『令嬢ハルヒの密かな愉しみ』

最近の記事

ハルヒSS『転調変奏曲』

「今日は暑いわね……」 「だな」 「……はあ」 「なんだよ」 「ヒマねえ」 「……飽きたのか?」 「ちょっと」 「ふーん」 「キョン」 「んー?」 「そこのプリッツ取ってー」 「おらよ」ポイ 「……」 「……」 「あ、それチー」 「……」 「あがりー」 「…………うーい」 「ねーねー、なんかしゃべってよ、キョン」ポリポリ 「俺は噺家じゃないんでな」 「なーんでもいーいーからー」ボリボリボリ 「やれやれ」 「それにしても、さあ」 「マジ今日はあっついなあ」 「ね。ス

    • ハルヒSS『花麒麟綺譚』

       それは夏の初めのある日の事で、俺はその瞬間までハルヒの淡紅色の唇の事など微塵も考えてはいなかった。  暑い。  薄暗く湿っぽい部室棟の階段はまだしも、廊下に入るとムッとする空気が充満していて辟易する。なぜ校舎の廊下なんぞで、中華街の軒先で蒸しあげられる肉まんの心境を味わねばならんのだ。 (部室は更に暑いんだろうな) と考えるも、二本の足はなんの迷いもなくスタスタと文芸部室───という名の涼宮ハルヒの要塞に向かっているのだから、全く度し難いったらありゃしないね。  そうだ、

      • ハルヒSS『雑掌録断章』

        古泉「書けましたか?」 キョン「出来るわけねーだろ。どだい無理だ。そもそも俺に恋愛小説なんぞを書かせようとする、編集長サマが悪い」 古泉「まだ時間はありますからね」 キョン「書き出しだけは山ほどあるぞ、ほれ」ポイ 古泉「『県境の長いトンネルを抜けるとそこは田舎だった』、 『俺はその人を常にスカポン団長と呼んでいた。だからここでもただスカポン団長と書くだけで本名は打ち明けない』、 『ある朝、部長が気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な竈馬に変って

        • ハルヒSS『日々是坦々』

          「あっ」 と、後ろからハルヒの声が聞こえ、俺、隣の佐伯、斜め後ろの豊原が、ほぼ同時にハルヒの方を向いた。     四角い手鏡を手に持ったハルヒが、頰にもう一方の手を当てながら、恨めしげな顔で鏡を覗いている。 「どうした?」     手をどけ顔を上げたハルヒを見て、俺は吹き出し、豊原は気の毒そうに忍び笑いを漏らし、佐伯が「あーあ」と苦笑いした。 「油断したわ」と、ハルヒ。     午後の日差しをなめてるからだ。     昼休みに唐揚げ親子丼(大盛)なる学食新メニューを

        ハルヒSS『転調変奏曲』

          ハルヒSS『ホットケーキのconte』

          ハルヒ「あああああーざぶぶぶふ゛い゛いいいいさっぶいさっぶいー!」 キョン「風強いなあ」 ハルヒ「さ゛む゛い゛」 キョン「言うな……言葉にすると余計寒い」 ハルヒ「耳が寒くて冷たくて痛いいいー」 キョン「とりあえず早いとこ坂下りようぜ、コンビニかどっかに避難を……何やってる?」 ハルヒ「キョンを壁にしてる」 キョン「するな」 ハルヒ「がんばれ、ぬり壁」 キョン「おのれ、鬼太郎」 ■□■ ハルヒ「あっコラ! 風除けが動くなっ」 キョン「誰が風除けだ」

          ハルヒSS『ホットケーキのconte』

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの決闘』

           青々とした牧草が風に吹かれ波打ち、糸杉の緑の枝先が爽やかに揺れる昼下がり。     ちちちちぴっぴっぴっ。涼しげなキビタキの鳴き声を追えば、空にはぽっかりとシュークリームのような白い綿雲。  どこからどう見ても美しき日本の春の高原風景にしか見えないが、実はここは開拓時代の西部の荒野なのである。  ほれ、それが証拠に、びゅおおおおーと突風の効果音が唐突に鳴り響き、右手から砂煙をあげてタンブルウィードがガサゴソと……おい、転がってないぞ。糸でズルズル引きずってるのが丸わかりじゃ

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの決闘』

          ハルヒSS『キョン「♪はじめーてーの」 ハルヒ「♪チュウ///」』

          ─市内不思議探索中─ 【公園】 ハルヒ「はひー、あっついあっつい」 タッタッタッ ピトッ ハルヒ「ひゃいっ冷たっ! ってコラー!」 キョン「おまっとさん。アクエリとミニッツメイド、どっちがいい?」 ハルヒ「ペプシ」 キョン「じゃあな」 ハルヒ「あーゴメンゴメン、そっちのグレープフルーツのヤツちょーだい」 キョン「ほい」 プシッ ゴクゴクゴクゴク ハルヒ「あーおいし」プハッ キョン「……美味そうに飲むなぁ」 ハルヒ「喉乾いてたもん。結構歩

          ハルヒSS『キョン「♪はじめーてーの」 ハルヒ「♪チュウ///」』

          ハルヒSS『甘酒のconte』

          ハルヒ「はぐれた」 キョン「マジですか」 ハルヒ「さーてどうしよっか」 キョン「知らんがな」 ハルヒ「多分、皆はこっちのような気がするわ」 キョン「そっちは本殿だ。今お参りしてきたんだぞ。もう向こうに行ってるだろ」 ハルヒ「正直に言っていい?」 キョン「お前はいつも本音しか言わないだろうが」 ハルヒ「あっちに行きたくないです」 キョン「わかる」 ハルヒ「檄混みだもん……」 キョン「人がゴミのようだ」 ハルヒ「うわ、ヒドいわ。キョンさ

          ハルヒSS『甘酒のconte』

          ハルヒSS『ハルヒ「暇ね」 キョン「暇だな」』

          【部室】 キョン「……」ペラ ハルヒ「……皆遅いわね」 キョン「そんな日もあるだろ」 ハルヒ「……」 キョン「……」ペラ ハルヒ「そのマンガ面白い?」 キョン「まあまあ」 ハルヒ「……ふーん」 キョン「……」ペラ ハルヒ「……」 キョン「……」ペラ ハルヒ「あーたーしーにーかーまーえー!!」ビシビシ キョン「チョップすんな!」 ▼△▼ ハルヒ「この子が主人公?」 キョン「そう」 ハルヒ「おさげの子は?」 キョン「友達だな」 ハ

          ハルヒSS『ハルヒ「暇ね」 キョン「暇だな」』

          ハルヒSS『即興・冬日小芝居』

          『実はキョンのマフラーはハルヒが縫ったものだったってSSはまだか?』 ─冬─ 【部室】 キョン「ひぇっくしょい!」 ハルヒ「あんたは顔だけでなく、くしゃみも面白いわね」 キョン「ひでぇな」   ハルヒ「いつもしてたマフラーはどうしたの?」 キョン「妹とシャミセンがこないだズダボロにしやがったんだ」 ハルヒ「ふーん」   キョン「お気に入りだったんだがな。まあ仕方ねぇさ」 ハルヒ「寒いんじゃないの?」 キョン「そうだな、今度買いに行くかな」   ハ

          ハルヒSS『即興・冬日小芝居』

          ハルヒSS『麻婆豆腐のconte』

          ピンポーン ハルヒ「あら? ──」 ハルヒ「……誰かしら」 パタパタパタ……ピ ハルヒ「はーい、どちら様?」 キョン妹<あ、ハルにゃん? あたしでーす。こんばんは ハルヒ「あら! いらっしゃーい。今ロック開けるから」 ピ、ウィーン ハルヒ「どーぞー」 キョン妹<ありがとー ……… …… … ガチャ キョン妹「こんばんわー」 ハルヒ「急にどうしたの? ま、いいか、上がって上がって」 キョン妹「はーい、お邪魔しまーす……お兄ちゃんは

          ハルヒSS『麻婆豆腐のconte』

          ハルヒSS『ハルヒ「ウッキー!」』

          ◆◆ 第一幕 ハルヒ大地に立つ! ◆◆    むかしむかし。  東州傲来国花果山に仙石があり、これが日夜天地精妙の気を浴びているうちに、いつしか精を蔵し卵を産んだ。  卵は風に吹かれているうちにやがて……    ピキ、パキ、……ピシピシッ ハルヒ「ウッキー!」パリーン    中から一匹の石猿が孵った。名を孫“ハルヒ”悟空! 後の斉天大聖、SOS団団長爆誕の瞬間である。    さてその後ハルヒはえらい美人に成長し、名だたる名士、地仙、妖怪共の求婚を退け、或る平凡な一般ピープ

          ハルヒSS『ハルヒ「ウッキー!」』

          ハルヒSS『黒種草綺譚』

          ハルヒ「なによ…」  俺、実はポニーテール萌えなんだ。  ハルヒ「なに?」  いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則的なまでに似合ってたぞ。  ハルヒ「バカじゃないの?」  俺は、睨むハルヒを強引に抱き寄せ、唇を重ねた。  ハルヒの温もりと柔らかい感触が伝わってくる。  鼻腔をくすぐる甘酸っぱいハルヒの香り。  そっと俺の頬を撫でるハルヒの細い髪。  ハルヒがもらす微かな息が俺の膚を震わせる。  熟れた桃のように柔らかいハルヒの口唇の感触。  温かな人肌が

          ハルヒSS『黒種草綺譚』

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの夜行/余話 七不思議の夜』

          「さて終わったな」      俺は腕を上に上げ、背伸びをした。     「やれやれ、疲れたよ」  「お疲れ様でした」      古泉が言った。探索開始時と全く変わらない、相変わらずのスマイル。こいつも結構体力あるよな。俺や朝比奈さんとは対照的だ。     「そんな事はありませんよ。僕も結構疲労してます」  「こんな時間で無けりゃあ、喫茶店かファミレスにでも誘うところだが」  「ふふ、遠慮しておきましょう」  「そうですねぇ。はぁー、それにしてもいろいろ怖かったです」     

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの夜行/余話 七不思議の夜』

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの夜行/最終話 ハルヒ、坂を下る』

           背の高い球除けの金網フェンスを回り込み、テニスコートに入る。   コートは手前と奥に二面あり、その奥側のコートの、更に奥のライン際に三人は立っていた。   妙に狭苦しく感じる。金網が周りを取り囲んでいるせいだろうか。   三人が立っているコートはプールと近い。──さっきのやりとりを聞かれてなければいいんだがなぁ。     「よ、待たせたな」  「プールはいかがでしたか?」  「結局は成果なしだ」      ハルヒの奢りなんてレアイベントのフラグは立てたけどな。無論、こいつに

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの夜行/最終話 ハルヒ、坂を下る』

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの夜行/第四話 古泉、躊躇する』

           部室棟から再び北校舎を抜け、渡り廊下を過ぎ、南側の校舎に入った。    羽根付サンダルを履いたペルセウスのような軽快な足取りで、ハルヒはスッタカと進んでいく。   坂を上ってすぐに階段を上ったり下りたり、校舎をぐるぐる歩き回ったり、正直俺は疲れてきたんだが……。   こいつのスタミナはホントに無尽蔵だな。     「四階のトイレだったな」  「そうよ」      あそこのトイレか……奇しくも俺たち五組の人間が頻繁に利用するトイレだ。  『あなたは何故、我々みたいな存在がこの

          ハルヒSS『涼宮ハルヒの夜行/第四話 古泉、躊躇する』