だったらそっちへ行けば?

『〇〇くんがね...』
自分を前にして他の野郎のことを語り始める。
『これがそうか...』と内心思うが、正直めんどくさいなと思う。
他の野郎のことを引き合いに出して、『早く口説き落とさねば』と煽る。
もしくは向こうの反応を見るという、『小細工』に。
こちらは嫉妬もしなければ、そうかといって何も反応はしない。
その時は適当な相槌を打つが、腹はその時点で決まる。

『俺じゃないんだ...』

申し訳ないがそんなことでは焦りもしない。
むしろ引く。
『俺でなくたって代わりはいるって』って言いたいんだろうから。
向こうは向こうでそれまでと見極めるんだろうし、去る者を追うこともないんだろう。
だけど、物凄いかどうかはさておき、後悔だけはするはずだ。
いや...その後悔でさえもすぐにはしないだろう。
周囲が縁付いて結婚が相次ぎ、取り残されれば、しまったということにはなるかもしれない。
優しさと度量の大きさを試すというならば、僕は小さくて上等だと言っておきたい。
そんなことをしてまで試さなければわからぬならば、何をしたらわかってもらえるのだろうか。

『あぁ...そう...』と適当に相槌を打ち続けていたら、僕は相手との距離を遠くにして壁を築き始める。
それになりより、引き合いに出された野郎を超えなければならない何かを期待されるのは辛い。
誰が考えたのか知らぬが、余計なことを考え付いてくれたものだ。
だからといって、それをしたことを責めたところで何の得にもならない。
そうせざるを得なかった、そうさせた自分にも何かがあったんだろうし。
自分はフリーで彼女いない歴を粛々と重ねているということは間違いないってことだけは伝わってる。
こちらには何も障壁はないということだけは逃げも隠れもしてない。
目の前にいる俺は俺でしかない。
他の野郎の代わりにもなれぬし、勝とうとかも思っちゃいない。
何か優れたものを持ち合わせている自信はサラサラない。

『それ...辞めた方がいいよ』とだけは言っておく。
それで上手く行ったら行ったで万々歳だが、上手く行かないリスクを考えた方が良い。
変な小細工は目の前の成功を台無しにすることが少なくはないのだ。
『そんなにソイツのことばかり話してるんだったら、ソイツのことな好きなんだね。そっちに行けば?』
鈍いんじゃない。
気があることくらい、とうに気が付いてる。
石橋を叩いて渡るのも程々にした方が良い。
叩くどころかダイナマイトを放り込んで壊してしまって渡れなくなったことに気が付かないと。
壊れる前に突っ走って渡ればいいものを。
突っ走ったら早く渡った分だけ時間に余裕が生まれる。
突っ走れる力があるんだったら、ダメだったら引き返す余力があるってことに気が付いて欲しい。

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