オタク表現は本当に現代の浮世絵になるのか?

まあ浮世絵や鳥獣戯画をオタクの起源とする与太話は廃れないですね。何度否定されてもオタクは繰り返す。
浮世絵は江戸時代の大衆文化ですね。廉価に大量生産されインスタントに消費され、そして未練なく捨てられた。海外に茶器を輸出する際の包み紙として再利用されたその浮世絵をヨーロッパ人らが再発見し、ヨーロッパの美術とは違う価値観、斬新な構図などにショックを受けて他の日本のカルチャーらと共にジャポニズムブームをヨーロッパに巻き起こした。
そしてオタクもそんな浮世絵とよく似た現代の大衆文化だから、きっといずれ浮世絵のように欧米で美術として再発見されるに違いない。そうアートコンプレックスなオタクたちが期待してる。
それはあくまで仮説、妄想の域に過ぎないのだが、まるで既成事実かのようにオタクたちは吹聴する。現実と虚構の区別がつかないので(ゲーム脳だから)。

浮世絵のメインモチーフはまず美人画、そして観光気分を味わう為な風景画ですね。
美少女・萌えはオタクでも大本命なコンテンツ、そしてキラキラなラッセン風の風景をそこに加えれば新海誠になる。そして春画はHENTAI。
まあいつの世も大衆の興味はあまり変わらないということで。多少モチーフには類似性がありますね。

やはりヨーロッパにとって浮世絵はネタ的な消費だったと思います。オリエンタリズムそのもの。だから「ヨーロッパで浮世絵が評価された」というのはやや過大評価し過ぎでは。
当時ヨーロッパの美術界でサロンという保守に対し、印象派という新しいカウンターとなる流派が出てきた。そのカウンターな流派が旗印とするイデオロギーの元ネタに浮世絵を利用した訳で。つまりタイミングだった訳ですね。
そしてソレは搾取ですよね、オタクコンテンツを搾取して現代アートにした村上隆みたく。一世紀前にも、やはりヨーロッパの印象派が日本の浮世絵を搾取していた。
最近のニューヨークで日本のジャンキーな豚骨ラーメンが流行るみたいなトレンドさだったのでは。それくらいな温度感、また軽さで。
浮世絵の「キッチュなジャンクフード感」という手頃さがよかった。ヨーロッパ白人のマッチョイズム「上から認めてやる」、そんな欲望をかなえるものとして。同じオリエンタリズムでも(より正しい絵画である)日本画より搾取するのに都合が良かった。
そしてまだポリティカルコレクトネス意識の無い近代化以前な時代だから許されたナイーブなオリエンタリズムで。
もし今の時代なら、例えば白人モデルが日本の着物を着た印象派絵画などはもうNGな訳で。もはや搾取は同じ国の人間でないと許されない。だからより辺境のオリエンタリズムな国で、なおかつ欧米先進国の教育などを受けてグローバリズムを内面化した同国の人間が搾取をすると神になれる(例えばそれは現代アートなら村上隆だし、ファッションならデムナ・ヴァザリアやゴーシャ・ラブチンスキーなどである)。
つまり仮によしんばオタクが現代の浮世絵だったとしても、既に近代化されたポリコレな時代に移り変わってるので浮世絵のようなワンチャンというのは無いのだ。同じやり方はもう使えない。

あと浮世絵の特徴としては「半絵師と半職人」というのがある。
絵師が木版画用に描いた絵を職人が木版画に彫り直す。半クリエイティブ半エンジニアリングとも言える。まずリミテッドで、その中での創意工夫がある。リミテッド、そして絵師と職人との間のせめぎ合いらからなケミストリーが生まれる。非プレイヤー的に生まれたもの(あるいは生まれて"しまった"もの?)。
それはアートでは無いものへの見立てですね、民藝以前の民藝が浮世絵。
木版画という制限されたローファイなので、その制限内で何を代わりに盛り込んで、豊かにしていくか。
そんな創意工夫。あの大胆な構図などが生まれたのも、絵の解像度が低いのでレイアウトのコントラストをピーキーにする方向へと向かったのだ。
これは日本のプアーなテレビの商業アニメがディズニーのようにリッチなフルアニメが出来ないため、限られたリミテッドの中でケレン味に溢れるダイナミックでコントラストの強いアニメートを発明したのとも似てる。
「制約の中での創意工夫」という方向性にはある程度な正解があり、それが性質的に似てくる。ほぼ同じような条件下での最適解だから。
もし金田伊功が江戸時代に生まれていたら浮世絵絵師となり、(金田アクション的なケレン味に溢れた)大胆な構図やアクションの浮世絵を描いてたかもしれない。
そういう想像が働く。また逆に北斎も現代にもし生まれていたら暴れ作画系のアニメーターになってたかもしれない。
ただ念を押すが、これは制約などが似ている事により生じる類似性という話で、やはりオタクと浮世絵には何の継承性も無い。あくまで他人同士なコンテンツである。
更に補足すれば、ローファイな中で非アートな製作者がクリエイティブしたものを民藝チックに見い出すのは、ゲームならドット絵や黎明期のミニマムなゲーム(パックマンなど)もそうかもしれない。

続きをみるには

残り 2,099字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

儲かったらアートな服のブランドでもやります