セネガル代表視点で分析する日本代表対セネガル代表

プレビューでセネガル代表を分析する人はいても、レビューでセネガル代表視点で書いている人はいないようなのでやってみようと思う。

まずセネガル代表について軽くおさらいしておこう。

セネガル代表の基本フォーメーションは4-3-3。センターラインに肉体派の巨漢選手が揃っており、彼らのボール奪取から、推定市場価値7000万ユーロというマネを始めとするスプリンターらの速攻につなげるリアクション型のチームだった。

攻撃には無駄なショートパスをつながず、ロングボールを多様。サイドアタッカーが中央へ絞り気味にポジショニングし、ボールを失ってもすぐさまゲーゲンプレスで奪い返すことを重視していた。

しかし、シセ監督は、初戦のポーランド代表戦では戦術を変更していた。

ポーランド代表もリアクション型のチームだったからだろう。ボールを持たされる展開を予想し、フォーメーションを4-4-2に変更し、両サイドアタッカーをサイドに開かせて、より遅攻に重点を置いたスタイルで試合に臨んだ。

けれども、この戦術変更は空振りに終わる。

ポーランド代表のナバウカ監督も、フィジカルで優るセネガル代表相手に中盤のプレス合戦となるの避けようと考えたのか、両サイドバックが高い位置をとった遅攻重視の戦法を採用してきたのだ。

試合はセネガル代表が、不慣れならポゼッションサッカーで攻めきれなかったポーランド代表をカウンターで仕留め2-1で勝利した。

ナバウカ監督は、セネガル代表の守備の弱点である19歳の右SBワゲ、20歳の右SHサールという若いコンビを狙い撃ちにして何度かチャンスを作った。

が、レバンドフスキ、ミリクという高さと機動力を兼ね備えた自慢の2トップが、セネガル代表の超人系CBペアに抑え込まれてゴールを割ることができなかったのである。

この試合でセネガル代表のディフェンスのウィークポイントは明らかであった。

サールが最終ラインに下がって5バック化して守りを固めても簡単に突破される有り様で、シセ監督としては早急に修正する必要があった。

そして日本代表戦で採用されたのが4-3-3。

GKにベテランのカディム・エンディアイエ、最終ラインは右から攻撃的SBのムサ・ワゲ、守備的MFが本職の巨漢サリフ・サネ、世界最高峰のストッパーのひとりカリドゥ・クリバリ、フランスの年代別代表の常連だったSBユースフ・サバリ。

左右非対称の3センターは、中盤の底にCBもこなす肉体派アンカーのアルフレッド・エンディアイエ、左インサイドハーフにバランサーのイドリッサ・ゲイエ、右インサイドハーフにカウンターの切り込み隊長バドゥ・エンディアイエ。

エンディアイエが多すぎて紛らわしいので、以下はファーストネームのみで表記する。

セネガル代表では逆だったが、3センターは左右非対称に右に守備的な選手、左にトップ下兼任の攻撃的な選手を配置するのが一般的だ。

本田圭佑もオランダでプレーしていた頃は、左インサイドハーフでトップ下気味にプレーしていた。

3トップはこちらも非対称、右に長友をスピードで圧倒した韋駄天イスマイラ・サール、左にサディオ・マネ、1トップにスピードとパワーを兼備したセカンドストライカーのエムバイ・ニアングが入った。

バランサーのゲイエが後方にいたことから、左サイドのマネがよりFW的にプレーし、右サイドのサールはサイドミッドフィルダーとしてプレーすることで左右の均衡をはかっていた。

おそらくは試合前日の全体練習を欠席し、コンディションに問題を抱えていたと思われるマネの守備負担を軽減する狙いもあったのだろう。

シセ監督の工夫がうかがえたのがアンカーのアルフレッド・Nのプレー。右サイドの守備をケアするため、CBもこなすアルフレッドが適時DFラインへカバーに下がり5バック化して守っていた。

アルフレッドが最終ラインに下がっても、中盤にはゲイエとバドゥの2人の守備的MFがいる。日本代表が右サイドを狙ってきても5-4-1になれば十分に対処できるという計算である。

机上論としてはよくできていたが、このシセ監督の戦術変更はいろいろと不具合を起こすことになる。

試合開始直後はセネガル代表が試合の主導権を握ることができていた。

前記の通りセネガル代表も右サイドの守備が弱点だった。一方、日本代表の守備は右サイドの原口、酒井よりも左サイドの長友、乾のほうが弱かった。

互いに相手の守備が脆いサイドに狙いをつけ、右サイドアタック主体のセネガル代表の攻撃と、左サイドアタック主体の日本代表の攻撃が、真っ向からぶつかりあう形となった。

将棋で言うなら居飛車対振り飛車の対抗型である。

8年前の南アフリカW杯の日本代表対カメルーン代表でも見られた文字通りのワンサイドゲームは、空中戦を不得手とする昌子にロングボールを放り込みつづけたセネガル代表が試合のペースを奪った。

昌子はスピードがありカウンターを潰させたら日本一のCBだが、現在の日本代表CBの中で最も空中戦に弱い選手でもある。J1のCBの中でも標準レベルだろう。

ニアングもどちらかというとスピード系でヘディングが苦手な選手だが、それでも昌子よりは強い。ニアングはパワーの差を活かして昌子の身体を押さえ込み、何度も前線でボールをキープして右サイドを切り崩していた。

ただ問題は1トップのニアングに攻撃の組み立てを任せたことで、ゴール前のフィニッシャー不足に陥ってしまったことだ。右サイドの突破に人員を割きすぎてしまい、ゲイエもゴール前に入ってこなかったことから、ゴール前にマネしかいないというシーンがたびたび見られた。

そんななか前半11分にゴールが生まれる。サールが単独で右サイドを突破してからショートパスをつないで左CBクリバリへサイドチェンジしたところをクリバリがもう一度ロングパスでサイドチェンジ。

2度のサイドチェンジを経たことで、バドゥと左SBサバリがゴール前に侵入する時間が生まれる。そして原口と川島のミスにつけこみマネがこぼれ球をゴールへ押し込み先制。

この先制ゴール以後、セネガル代表の守備が機能不全を起こす。

一部のメディアではセネガル代表が足元の技術に劣る昌子にボールを持たせようとしていたという話があったが、実際にはそういったプレーは見られなかった。

ただ昌子がボールを持った際には、バドゥに厳しくチェックに行くよう指示があったように見えた。

しかし、リードしたことによりニアングらの守備意識が低下していたため、連動したプレッシングが行われず、バドゥが単独でボールを奪いに行っては簡単にパスでかわされるというのを繰り返していた。

このバドゥのプレーによりセネガル代表の守備がおかしくなる。バドゥが前に出ていったあと、バドゥの空けたスペースを埋める選手がいなかったのだ。

サールとマネはそれぞれ長友と酒井にマンマークする役割があり、ゲイエは左サイドのバランサーだったため動けず、アルフレッドも最終ラインのカバーの仕事があるため前に出られない。

そのためバドゥの空けたスペースに香川、乾、長友に侵入され、攻撃の基準点を作られてしまっていた。

仕方がないので右CBサネが前に出て潰しに行くが、そうするとアンカーのアルフレッドが最終ラインの穴埋めに奔走せざるを得なくなり、余計に守備の混乱に拍車がかかってしまう。

大迫のポストプレーが話題になっていたが、はっきり言ってしまうと、あれだけCBの前にスペースのある状況では、どれだけ優秀なCBであっても止めようがなかったりする。それが例え世界最高峰のCBクリバリであってもだ。

守備は個人が優秀でも守れない、組織として整備されなければまともに戦えない、という現実をまざまざと見せつける試合展開だった。

ただセネガル代表にとって幸運だったのが柴崎が右ボランチでプレーしていたことだ。

当初、日本代表のダブルボランチは、左サイドの攻撃を重視して柴崎が左ボランチでプレーしていた。しかし、セネガル代表の右サイドアタックに対応するため、長谷部が左ボランチにポジションを入れ替え、守りを固めようとしていた。

このポジションチェンジは試合が途切れるたびに、セネガル代表の攻撃に合わせて何度も行われていた。

柴崎ではなく組み立て能力の劣る昌子、長谷部では、香川らがフリーでも効果的なパスを供給することができない。そのためセネガル代表は縦パスを入れられる割にはピンチを迎える回数自体は少なかった。

話は変わるが前半21分の日本代表のCKからカウンターの守備は本当にひどかった。

酒井が帰陣をさぼった上になぜか自陣ゴールではなく右サイドに戻ろうとしていた。吉田もフルスプリントで戻るのは良いが、なぜかゴール前ではなくボールを受けたマネへ突撃。

あっさりと後方から駆け上がったサバリにパスを通され、そのサバリにダブルマークで潰しに行った長友、昌子がクロスを許す。

ゴール前に戻ったのは長谷部だけでDF4人全員が右サイドに大集合というできの悪いジョークのような状態に陥っていた。

長友と昌子はともかく、吉田と酒井の対応はありえない。特に酒井は、あれで失点していたなら、即刻ベンチに交代されても文句の言えない怠慢プレーだった。

前半25分ごろからセネガル代表の戦術がさすがに修正される。役割分担を一旦リセットし、フォーメーションを4-4-2に変更し、不自然な中盤のスペースが生まれないようにした。

そして左サイドに固定され、ゴールを決めたものの試合に絡めていなかったマネに自由を与え、流動的に攻めさせ、両SBに高い位置まで攻め上がらせて攻撃の幅を確保する。

ただセネガル代表はもともとリアクション型のチームのため遅攻は得意ではない。守備は修正されたが攻撃はいまいち機能せず、一時的に膠着状態に陥る。

次に試合が動いたのは前半31分にマネが負傷し、試合が止まったときの出来事。おそらくはコーチングスタッフから日本代表の選手たちに2つの戦術変更の指示があったのだと思われる。

日本代表は長谷部が最終ラインに下がり、3バック化してビルドアップしようとしていたが、こういった場合、トップ下の選手がおりてボランチのスペースを埋めるのが一般的だ。

しかし、セネガル代表の守備がバイタルエリアに大穴を空けていたことにより、香川が下がらなくてもボールを受けられる状況だった。

セネガル代表の守備が修正された後も、日本代表は香川、大迫、乾がバイタルエリアに大集合。原口も中央に絞り気味にポジショニングしていたため攻撃の幅も消されていた。

そこで給水タイムに戦術変更が行われた。香川を中盤の底まで下がらせてビルドアップに参加させ、原口を右サイドに張り付かせた。これによって乾と大迫が動き回れるスペースが確保され、パスの流れがスムーズになった。

実質的に香川、柴崎のダブルボランチによる変則3-4-3がいきなり効果を発揮したのが前半34分の乾のゴール。

セネガルはオーソドックスな4-4-2に変更したことにより、弱点だった右サイドの守備が放置される結果となった。そこを柴崎にロングパスで狙われて切り崩されたのだ。分かっていてもやられてしまった。シセ監督としては痛恨の出来事だったろう。

前半はそのまま1-1で終了した。

後半開始直後にセネガル代表はポジションを大幅に流動化させて攻勢を仕掛ける。開始直後の混乱を狙ったのだろう。

ただこれはすぐに終了し、守備時は4-4-2、攻撃時に左SBサバリが高い位置をとり、マネが中央よりにポジショニングすることで変則的な3-4-1-2になる可変フォーメーションへと変更された。攻撃も前半とは異なり左サイド中心となった。

それに対して日本も長谷部が左、柴崎が右にポジションチェンジ。前半に機能した変速3-4-3は自動的に終了。

なお、ニアングが昌子から逃げたという話があったが、単純に攻撃が左寄りになったので吉田の方に移動しただけだったりする。普通に吉田のほうが昌子よりも強いのだから、吉田の方に逃げるわけがない。

柴崎と長谷部が入れ替わったことで守備が逆に不安定化する。マネがタメて逆サイドに展開すると、日本代表の左サイドは乾、柴崎、長友というディフェンスに難のあるトリオが守りきれず、簡単に突破を許していた。

対する日本代表も香川が右の低い位置まで下がって柴崎とバランスを取るようになる。パスの流れがスムーズになり、繰り返しセネガル代表の両サイドを切り崩した。

セネガル代表はマネをよりオフェンシブに運用した結果、弱点の右サイドだけでなく、左サイドの守備も不安定化してしまったのである。

シセ監督は後半20分にアルフレッドに変えて、超人系セントラルMFのシェイク・クヤテを投入した。疲れの見えるゲイエを右に移し、クヤテにマネのカバーを任せるで守備にテコ入れをはかる。

後半26分に均衡が崩れる。セネガル代表の左サイドの深い位置からのスローインに、日本代表のダブルボランチがふたりともサイドに引きずり出された。そのカバーリングを香川と乾が怠る。

左SBサバリのクロスを右SBワゲがねじ込み2点目のゴールを奪った。

けれども、この2点目のゴールによって、またもセネガル代表の守備が崩れる。複数の選手が集中力を失い、守備に戻らなくなった。

途中投入のクヤテさえもサボりだす有り様で、香川と原口に変えて、本田と岡崎を投入した日本代表の攻勢に耐えられず、後半33分にあっさりと同点に追いつかれた。

後半36分にシセ監督は走れなくなっていたバドゥに代えて、おそらくセントラルMFとしては空中戦の強さでは世界一のシェイク・エンディアイエを投入した。

シェイクはどう見てもCBにしか見えないマッチョな大型選手だ。運動量があるため中盤で起用されているが、日本で言うなら走れる闘莉王。エアバトルに滅法強く、中盤での空中戦では文字通り無敵だ。

シェイクは左サイドハーフを基本ポジションとしていたが、攻撃時にはゴール前に入ってロングボールのターゲットとなり、吉田を高さで圧倒していた。

代わりにマネが2トップに入った。

さらにケガのニアングに変わってマメ・ディウフが入りパワープレー。しかし、結局その後はゴールが生まれずに2-2のまま試合終了。

個人的には本職のCBを起用して3-5-2にでもしておいたら良かったのではないかと思う。戦力豊富なウイングを外せなかったのかもしれないが、無理な起用でデメリットのほうが多く見えた。

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