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東京の「形」に魅せられたイラストレーター(後編)

大学に入学する前に5年間の放浪旅のなかで、偶然日本に漂着した、イギリス出身のアンドリューさん。その後日本に移住し、日本での仕事も開拓していきます。

インタビュー前編はこちら。

(※本記事の挿画は、「The Tokyoiter」部分以外すべてアンドリュージョイスさんによるものです)

さて、冒頭でもちらっと触れたのですが、アンドリューさんと私との出会いはあるコーヒースタンド。そして今回インタビューした場所は、その上井草のSLOPEというお店です。

大きなガラスには時折アンドリューさんのペインティングが施されます

2013年頃のある日、私はこのお店ではんこのワークショップをしていました。そこに来てくれたのが、アンドリューさんと奥様。
そう、私はアンドリューさん夫妻の「hanko sensei(はんこ先生)」だったのです!(照)

その後も何度かワークショップに参加してくれましたが、アンドリューさんの作品はシンプルできっぱりした線だからこそ、素晴らしいはんこになるんです。

とにかくイラストレーションを諦めることなく「ひたすら続けてきた」ことで仕事を得てきたアンドリューさん。

アンドリューさんが魅せられた東京の街の「形」とは?それがどう仕事につながっていったのか?そんなことを伺っていきます。

東京の街が、レゴやミニチュアの集合体に見えた

ーアンドリューさんの作品は街の景観を描いたものが多いのはなぜ?

日本にきたときに、まず、スペースが少ないことに驚いたんだ。例えば電車の中で街を見下ろしたときに…とにかく小さいスペースにぎっしりと色々なものが詰まっていると感じて。僕は比較的郊外で育ったから、とにかく東京の密集具合に驚いて、まずその形がすごく面白いと思った。まるでレゴみたいで。それだけ東京の街の「形」は僕にとって魅力的で、とにかく描きたくなったんだ。

—それが仕事にもつながっていったんですね。

景観や建物をとにかく描き続けて、いざ卒業してから、どうやって仕事にできるか?を考えたときに、他の人のアドバイスもあって、「地図を描けばいいんだ!」と思って。地図を必要とする人はたくさんいるから、きっと仕事にも困らないだろうと考えて、そこから仕事が増えていったかな。今でも六本木ヒルズとか東京タワーとか、すごく高いところから東京の景色を眺めるのは大好き。以前はそういう場所で何時間も過ごして、人々や電車の動きを観察してた。なんだかミニチュアの集合体みたいにみえるんだよね。

ー仕事で描いているうちに、イラストへの変化はあった?

ここ数年はありがたいことにたくさん仕事をいただいて、とにかく仕事のために描き続けて、とても充実もしていたのだけれど。あるとき気がついたら、普段自分が何気なく描いたスケッチブックの絵と、仕事で頼まれて描いた絵の雰囲気がかなり違っていたんだ。それは少なからずショックでもあって、改めて自分がどういうものを描きたいか考え直してみたんだ。自分の描くものの好みや対象への興味が、時が経つにつれて少しずつ移っていたんだよね。

ー描くものの興味はどのようにうつっていった?

以前は紙とペンを主に使って描いていたものを、この数年でiPad PROでデジタル上で描くようになったけれど、今も昔もずっと手描きには変わりない。ただ、なにか対象をみるときに、見たままをリアルに描くというよりは、観察する中でシンプルな形を探すようになってきたんだ。必要以上に線を足さずに、2本のシンプルな線で完成、とか。そういう表現に興味が移ってきているんだ。

ー図形的な表現を好むようになってきたんですね。他にも変化は?

何かプロジェクトを始める時は、いつも完成形を見据えてから作り始めることが多かったんだ。AからZの「Z」を見据えてAを始めるイメージ。だけど最近は、何かを見てとにかくまず描くことにしたんだ。まずAを描いて、それからB。それからCを描いていって…と、とにかく描いてその先に何を作るかということを決めずにとにかく描く。それがたまったら本にしてもポスターにしてもいい。まず本を作ろう!と先に決めるよりもとても自由だし自然な過程のように思える。一見無計画で、アート寄りな発想にみえるかもしれないけど、そういう転換は面白いんじゃないかと思ったんだ。

たとえばこれも、ハイキングの途中でスケッチを集めたものだけど、これもハンコに彫りたいなあと思っているし、その他にも色々なものをつくることができる。

着地点を決めて描き始めるのではなく、とにかく描いてから着地点をつくる

ー仕事への変化は?

もちろん以前のタッチを好む人もいるし、代理店経由で仕事もしている以上、仕事をしていく過程を含め、突然無理やり方向転換するわけではないよ。ただ、以前は打ち合わせでたくさん情報をもらって、その情報を読み込んでイラストで視覚化するという仕事の流れだった。それもいいんだけど、欲しいと言われたままを絵で表現するのではなくて、イメージするものをとにかくどんどん描いてできあがったものをもとに製品を考えるとか。そのほうが創造的だし、一緒に作り上げられるから過程が楽しめる。もちろん自分の提案が絶対ではなくて、クライアントの意見も取り入れながら変えていく。そういう発想に転換していけないかということは、去年くらいから考えてる。

ー徐々に転換していきたい?

時間をかけてでも変えていきたいな。イラストレーターはじめクリエイティブな仕事をしている人は、自分の興味のある分野へと転換していけることが面白いと思うんだよね。通常の仕事だったら、飽きても数十年とやり続けないといけないこともあるけれど、僕らは変えることができる。変化は恐れていたら、同じことの繰り返しの中から抜けられなくなってしまうと思う。もしも自分の興味に近づける機会があるなら、リスクを冒してでもそのチャンスをつかんだ方がいいと思う。

ー日本でも様々なプロジェクトを立ち上げていますね。

僕が他のイラストレーターと協同で立ち上げたプロジェクトの中に、「The Tokyoiter」があるんだけど。これは、アメリカの「The New Yorker」やフランスの「The Parisianer」という素晴らしい雑誌への敬意を込めて、その東京版をイメージした表紙絵を、日本在住や住んでいた経験のあるイラストレーターに「東京」をテーマにイラストを描いてもらうというプロジェクト。日本人も外国人も混じって参加してもらってる。東京でも何度か展示を開催していて、実は今度パリでも開催するんだ。

フリーランスは、仕事と同時に旅ができる

ーどういうものに影響を受けていますか?

日本に来てから、絵本をよく見るようになった。絵本をつくりたいわけじゃないんだけど、今は自分にも子供がいるし、いろいろ本を眺めるようになって、形の単純化や色使いの素晴らしさに改めて気が付いたんだ。あと子供を楽しませる工夫がたくさんある。自分は絵本をつくるわけでもないし、やや自分の専門外だからこそ、そこに詰まっている要素に感動して刺激を受けるんだよね。

ー今後はどのように活動していきたい?

東京をもっと探検したい。今でも東京で新しい場所を開拓していて、面白いものを探してる。何を作りたいというゴールを決めるんじゃなく、とにかく面白いものをどんどん描いていきたい。それがすごく楽しいんだよね。iPadがあればどこでも絵が描けるわけだし、どこでも仕事ができる。だから仕事と旅が同時にできるね。それがフリーランスのいいところ!最近は固定の仕事場も持ちたいなと思いつつあるけどね。

ー個人的には、覚えたい日本語をタイポグラフィにしているプロジェクトが大好きですのでずっと続けてほしいです…


ありがとう(笑)

物腰やわらかで、落ち着いたしゃべりの心地よいアンドリューさん。日本でイラストレーターとして家庭を持って暮らす現在に至るまでの道のりと、これからのワクワクする展望も含めて伺い、あらためて思いました。アンドリューさんにとってはこれも旅の一つかなあと。

物理的に様々な場所を冒険しながら、新しい作品が生まれて行く。そんなアンドリューさんの道のりを、一緒にたどるのも楽しいですね。

Andrew Joyce(アンドリュー ジョイス)
1983年ウェールズ生まれ、日本在住のイラストレーター。日本やイギリスを始め各国にわたるイラストレーションの仕事をする傍ら、”The Tokyoiter”、”Japanese Words Illustrated”などを主宰する。
聞き手:絵はんこ作家「さくはんじょ」主宰のあまのさくや。誰かの「好き」からその人生を垣間見たい、表現したいという気持ちで、文章を書いたりものづくりをしたりしています。


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