ファイルの整理をしていたら、何年か前に書いたシナリオがでてきた。
当時「人生の師匠」と呼んで、とっても仲良くしていたパイセンをモデルに書いたものなんだけど。

こんなぶっ飛んだの書いてたんだな…笑

「なにがみたいかはわからない」

登場人物
　　富田林（とんだばやし）……医療メーカーの営業課長
　　芙美香（ふみか）……同社の新入社員
　　高田部長……個人病院『愛と光病院』のやり手女経営部長
 
 
〇愛と光病院・前
　　　
　　　腕時計とにらめっこしながら、ハンカチで額をぬぐう、ひと待ち顔の
　　　富田林。
　　　芙美香がゆったりと歩いてくる。
 
芙美香「……お待たせしました」
富田林「あ、来た来た。吉永さん、早くっっっ！　もう５時２０分……」
芙美香「（制するように）まだ！　５時１６分、ですけどね」
富田林「……」
芙美香「ちゃんとアイスコーヒー一杯いただいたうえに、交通費の整理もできましたよ！　あの時間で」
富田林「コホン……まあ、できるよね。あれくらい時間があれば」
芙美香「はぁっ？　（怒）」
富田林「だってそうでしょう。ボクがここで待機してると思うからこそ、キミは自分のやることに集中できたんだろうからさ」
芙美香「ふんっ」
 
　　　こっそり鼻で笑う芙美香。そして歩き出す。
 
芙美香「さ、行きましょう」
富田林「あ、ちょっと待って！」
芙美香「え？」
富田林「（腕時計をかざし）まだほら、２２分だからさ」
芙美香「……そこは丸めないんですね（苦笑）　もう行ってもよくないですか？」
富田林「いやいや、あんまり早く行ったら……ね？」
 
　　　こっそりため息をつく芙美香。行くのを諦める。
 
富田林「あ、ところでさ。あれ、持ってきてくれた？」
芙美香「え？　なんでしたっけ？」
富田林「チケットだよ、ほら、巨人戦のボックスシート。営業課に２枚だけ回ってきたじゃない！」
芙美香「ああ……あれ」
富田林「え？　持ってきてないの？」
芙美香「だって～野球とか、興味ないですし(笑)」
富田林「アナタの興味は聞いてないって！　なんでここに持ってこないかなー」
 
　　　すると、病院内から高田部長が颯爽と出てきて、富田林と芙美香に目
　　　をとめる。
 
高田部長「あらやだ。もう来てたのぉ？」
芙美香「高田部長！」
富田林「あ、大変失礼いたしました。いや、いつもお世話になっておりまして……」
高田部長「いらしてるならあがってくださればいいのにぃ、こんな暑いなか大変だったでしょう？」
芙美香「ですよね～私もそう言ったんですけど」
富田林「吉永くん！　そういうことは……」
高田部長「だまらっしゃい！」
 
　　　ピタリと止まる富田林。
　　　ゆっくりと富田林の周りを歩く高田部長。
 
高田部長「彼女は決して間違ったことは言ってないわ。そうでしょう？」
富田林「いや、しかしでも……」
高田部長「人として！　アリかナシか」
富田林「え……」
高田部長「たとえ約束の時間に１０分早く来たからといって、ワタクシが『非常識だ！』とまくしたてるように、見、え、ま、す、か？」
富田林「いやいやいやいや、め、めっそうもありませんっ！」
 
　　　額とひざがくっつかんばかりにお辞儀を繰り返す富田林。
 
高田部長「さ、入りましょ……あ、そうだった。私今、お二人にアイスコーヒーをご馳走しようと思って、外に出てきたんだったわぁ♪　（芙美香に）飲む？」
芙美香「もちろんです！　あ、私が買ってきますよ！」
高田部長「だーめ。今日は、あなたが、お客様よっ　♥」
芙美香「高田部長……」
 
　　　芙美香の目がうるんでいる。
　　　そこに割って入るように
 
富田林「さすが高田部長！　人としての大きさ、富田林深く感銘をうけましたっm(__)m
ところで……高田部長？　野球は、お好きですか？」
高田部長「（首をちょっとかしげて）　野球？」
富田林「はい～、実はですねぇ、私どもに２枚ほど……」
高田部長「キライ」
富田林「え？」
高田部長「野球はキライなの～私～」
 
　　　高田部長の高笑いが響きわたる。
 
芙美香「高田部長もですか！　私もなんです～」
高田部長「（笑いをやめて）　あら、そうなの？　じゃ、なにが好きなのかしら？」
芙美香「実は……今度の土曜日、お笑いライブに行くんです（照）」
高田部長「あらあら、面白そうじゃない♪」
芙美香「お好きですか？」
高田部長「だぁいすきよ～　新宿にも通い詰めてるもの」
芙美香「ホントですか！　じゃあ、よかったら、ご一緒しませんか？」
高田部長「え？」
芙美香「実は、彼氏と行こうと思ってたんですけどフラれちゃって……」
高田部長「はぁー？　アナタを振るオトコなんて、バッカね～」
 
　　　芙美香と高笑いの高田部長、病院内へ二人で楽しく入っていく。
　　　慌てて富田林、後を追う。
 
おしまい