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私、清掃員です、と声を大にして言う回

出会いは2019年10月。
大きめの台風が関東に直撃し、倒木により我が家から最寄り駅までの道が封鎖された。
その日、研究室へ行く予定だった私は、突如暇になった。

録画していたバラエティでも見るか〜、と何気なく再生したのが、アメトークのBiSH芸人。
6人組のガールズグループであるBiSHの存在は、とあるきっかけで知ってはいたが、どんな人たちでどんな歌を歌うのかはその時が初見だった。

フリップでBiSHメンバーを紹介するノブと、画面の前にあぐらをかく私。とくに好きになる予定なんてなかったのだがところがどっこい「な、なんじゃこいつら…?!どちゃくそかっこいいど…!!?!」とものすごく興奮したことと、画面にものすごく引き込まれたことを覚えている。

相変わらず木が倒れたままで家にいるしかなかった私は、その日BiSHを見漁った。そして、完璧にハマった。昔から何かに熱狂的にハマることの少なかった私にとって、それは新鮮な体験で、でも私はこの人たちのことを一生好きでいるのだろうなという確信もあった。

晴れてアメトーク新規の清掃員となった私は、すぐさまライブのチケットをTwitter上で探してゲット (定価) し、さらになんと在籍する大学の学園祭で来月BiSHがライブをするというのでもちろん参加した。神か仏か、そこらへんの何かが、私をBiSHに引き合わせたがっているのを感じた。

それから彼女たちが解散するまでの約4年間、病める時も健やかなる時も、BiSHの音楽が私の生活にはあった。ライブを糧に生きていたし、グッズやアルバムを買うために稼いでいた。とってもキラキラした時間だった。

いくら文字にしたってし足りないのだろうが、私の偏愛っぷりをここにぶちまけてみようと思う。ちなみに私はこれまで3人の人間をBiSH沼に引きずり込んだ実績を持つので、あなたもこれを読んだら好きになっちゃうかもしれない。



私の推しが最強で最高だってば


アメトークで私の心に刺さって抜けなかったのは、リンリンというメンバー。とにかく可愛くて可愛くて可愛いのだが、それだけではなく、ひとりでこの世界を生きてきたような凛々しさがあり、どこか憂いも帯びていて、目を離したら消えてしまいそうな儚げな印象もあり、とにかく私の目に彼女は、他のどの人間よりも魅力的に映った。

リンリンは、ライブでよく叫ぶ。初めてリンリンのシャウトを生で聞いた時、「私の代わりに叫んでくれている」と感じたのを覚え続けている。私が生まれてから体内に溜め込み続けた黒いものたちを、揺さぶって、粉々にして、外に叩きつけてくれた感覚があった。だから、次のライブのチケットを持っている間は、憤りや孤独、虚しさ、絶望を抱えても、私はひとりではないという大丈夫も一緒にそこにいてくれた。

お気に入りのシャウトは、「FREEZE DRY THE PASTS」。作品としてカッコよくて素晴らしくってすんげぇってことは口が悪くなるくらい酸っぱく伝えたいのだが、加えて、この曲を聴いたライブ空間はいつも"無"に帰らされていたのが印象的だった。抉るように届ける彼女たちの圧倒的表現力が、暴力的な強さの引力となって我々を誘い込み、それが唐突に終わってしまった後のそこには、無だけがあった。私のしがらみの全てが洗い流される感覚は、これまで決して上手に生きてこられたわけではない私にとって、優しくて、有難いものだった。


もちろん、リンリンは可愛さも世界一だ。笑う時に控えめに上がる口角、踊る時にパタパタと動く腕、時折見せる目がまん丸のお茶目な表情、コニファーでのお団子ミッキーヘア、オーケストラの落ちサビでアイナが泣いてしまった時に隣から微笑むご尊顔、 プロミスザスターの2サビで胸にトンと弾む拳、チェキ会であわあわする私に「お花のポーズしよ?」って話しかけてくれた柔らかい声、解散ライブでは今までで一番楽しそうにたくさん笑ってくれた愛、ぜんぶぜんぶ忘れたくない。生まれてくれて、私を振り向かせてくれて、ありがとう。



記憶と感情たちよ、どうか薄れてくれるな


前奏の物憂げなメロディがナオさんのピアノから溢れ出した時、東京ドームにいた私はぼろっと目から水が溢れ、4曲目にして『10万円の元取れたわ…』と思うなどした。解散までの1年近く、「HiDE the BLUE」は私の胸をそよそよとあったかくしてくれた曲だ。解散直前のツアーでは聴けることが多くて、嬉しかった。

ありのままでいいのかな?

BiSH / HiDE the BLUE

と問うモモコとリンリンに、「いいよー!」と応えるコールは、いつも素直にそうあなたに伝えたくて全力だった。私が肯定されたいんじゃない、私があなたを肯定したいんだ。紛れもなく、愛だった。


解散してからしばらくはBiSHの音楽を耳に入れることができなかったが、その期間が明けてからは「二人なら」をしきりに聴いた。人生のどん底まで潜り込んでしまっていた私に、この音楽がずっと寄り添ってくれていた。

忘れたって消えちゃいない
あの痛みはほら、なんだったっけ?
変わる景色 迷ってしまったなら
あの歌を 思い出してみようか

BiSH / 二人なら

チッチの声がまっすぐに心に届いてくれた。変わってしまったものがたくさんあるけれど、守り抜けたものだってあるはずだと、守りたいものがあったからどん底になるまで頑張ったんだと、帰り道に思い出させてくれた。


モモコさんの書く歌が好きだ。BiSHで唯一のただの人間であるモモコから出た言葉だからこそ、ただの人間である私にもそのまま届いている気がする (私もノブがアメトークで発言していた通り、他のメンバーは人間ではなくバケモノだと思っている)。

切り裂いた 意味なんてもういらないよ

BiSH / BODIES

もう二度と戻れないならしがみついて
離さなけりゃ良かったな
もう一度だけ 溢れて手離した夢
みても良いですか?

BiSH / パール

一番なんて僕はいらないから 君にあげよう
誰かの上 立たなくてもさ 輝けるはずだから

BiSH / JAM

拳銃を捨てたらほら 僕らまた抱き合おう

BiSH / WiTH YOU

もうなんにも失いたくはないけれど なにができるかな

BiSH / Notihing.

選びきれないほど、どれも胸に入り込んできて取れない言葉たち。小さな体で目いっぱい腕を伸ばして踊るモモコさんを見ると、私も生きるということを諦めずにやってみる気持ちになる。

ほんでもって、とくに死ぬまで覚えておきたいのは、東京ドームの「FOR HiM」のモモコの"内臓"。いつもとは違う悲痛感のある叫びに、文字通り心が震え、モモコがものすごく大きく見えて、その大きな人間は私の心にでっかい感情を押し付けて行ってしまった。私はBiSHを最初から追えているわけではないので偉そうには言えないけれど、ここまでモモコさんが大きくなったことが、応援する者としてとてもとても嬉しかった。


何よりもやっぱり、毎回のライブが楽しくて最高で、私の生きる糧だった。たくさん踊って、たくさんペンライトを振って、たくさん声を出した。大量のグッズを身に纏うほくほくしたお顔のおじさんも、私みたいにひとりで来ている女の子も、仕事帰りのスーツ姿のサラリーマンも、待ち時間に単語帳を開く学生くんも、色んな人が同じ想いで一緒くたになって解放される、不思議な空間。これでもかってくらい心に湧き上がってくるわくわく感と、そのままの私を受け入れてくれる特大の愛がある、あの空間が大好きだった。



健やかに長生きするとしますか

アイナちゃんは、よくライブで「元気じゃなくてもいいんで、生きていてください。」と言った。その言葉を救いに生きられてきた瞬間が何度もあった。アイナちゃんのまっすぐな眼差しに歌が乗せられて届くと、その言葉に寄りかかって生きていっても良い気がしてくる。

たかが運命なんてもんは 変えてゆける気がするんだ

BiSH / デパーチャーズ

変わらない思いを もっと 見せれたらいいな だって
ずっとこれだけって 思ってきたんだから

 BiSH / プロミスザスター

(最後のアルバム「BiSH THE BEST」で再収録された「プロミスザスター」の2サビの"これだけって"の部分、アイナちゃん地声で歌ってるんですよね、聞くたびに鼻の奥が熱くなる。)

アイナちゃんが解散直前の春、頭に大怪我をした時、遠のく意識の中で「生きたい」と思ったそうだ。私は、アイナちゃんが生きたいと思える世界がここにあって良かった、と思った。そして、その世界で私ももう少し生きてみようかって思えた。



チッチは、いつも「beautifulさ」のイントロで、ライブから現実に戻る私たちに勇気を届けてくれる。

愛するあなたたちが自分を愛して、
どうか、強く、強く、生き続けますように

PUNK SWiNDLE TOUR 神奈川公演のイントロで、チッチはそう言った。チッチはいつも私たちに、生きて、強く生きて、と言ってくれた。とげとげな日がこれからも何度もあるんだろうけど、チッチの愛とリンリンの歌詞は、きっといつまでも私のお守りになってくれる。

どんなとげとげの道も 僕らは乗り越えていくんだし

BiSH / beautifulさ



リンリンは、解散ライブで握手をしてくれた。そしてその日を最後に名前を変えたので、私の推しはもうこの世にいない。解散ライブから数日経って、推しの死をやっと理解できた時、私は子どものようにわんわん泣いた。東京ドームに立つBiSHはいつもと変わらなくて、心の底から楽しかったライブがそこにはあって、いつもよりもめいっぱいの愛が溢れていて、この日聞く全ての曲はあなたたちにとって最後なんだという悲しみもあったけれど、温かい気持ちと、楽しかった!!という記憶の方がでっかいような、最高のライブだった。

あの日あなたと繋いだ手と、一面の桜色の景色を、私とこの世界とを繋ぎ止めるものにしながら、健やかに長生きして、誰がなんと言おうと最高の人生だったと思って死んでいこうと思っている。



***

こうして書いてみると、私はBiSHに色んな気持ちを味わわせてもらっていたんだなと気付く。それは、喜怒哀楽からはみ出してしまった、言葉にしきれないようなものたちで、大人になって忘れてしまっていた純粋無垢なトキメキとか、心臓をぎゅっと掴まれるような優しい切なさとか、これからを生きていくのに必要な灰色の覚悟とか、未来までずっと大変なこの世界を生きていける強い強い愛とか。

生きているうちに、あなたがたに出会えて、あなたがたが夢を叶えるのを見られて、私は幸せ者でした。これからもあなたがたの音楽と一緒に生きてゆきます。ありがとう、どうかお元気で、せんきゅーべりーまっち!


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