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大谷翔平のような二刀流選手の価値を評価する方法について考えてみた

2022年、大谷翔平とジャッジのMVP争いが連日報道される中で、投手とバッターの価値を比較できるWARという指標があることを知った。この指標を使うと大谷選手には若干不利なようで、現に2022年のMVPはジャッジになった。WARは“Wins Above Replacement”の略で、「そのポジションの代替可能選手(Replacement)に比べてどれだけ勝利数を上積みしたか」を数値化したもの。大谷が不利になってしまうのは、打者としてのWARの「ポジション」がDHとなるからのようだ。WARは異なるポジションの選手を比較できるようにするため、ポジションごとに補正が行われる。この補正がDHでは大きなマイナス査定となっており、バッター大谷のWARはその活躍から受ける印象と大きく乖離して低く出てしまう。WARで用いられる「代替可能選手」は、実在する特定の選手ではなく、あくまで統計的に導かれた仮想の選手だ。大谷のような二刀流の選手は前例がほとんどなく、故に統計が苦手とする対象で、その価値を割り出すことが難しい。「そうか、ならば作ってしまおう。」と思い立ち、無謀なことを今回やってみます。ちなみに野球未経験。

投手と野手の成績を単純に比較するのは難しい。それは、見てるものが違うから。投手なら防御率、奪三振数、勝利数、セーブ数、ホールドなど、これらは野手の成績を評価するのには使えない。その逆もしかり。

ならば、比較できるように共通の単位を見つける必要がある。G-SHOCKと松茸を無理やり比較するなら、共通の単位、例えば「価格」「重さ」なんかを組み合わせて、「グラム単価」で比べたりできる。野球の場合、攻撃も守備もアウトの数は1試合27個ずつで共通、失点や得点も「点」という単位で共通だ。これらをうまく使えば、いける!(はず)

とりあえず「点」について見てみよう。以下の表は2022年の日本プロ野球の試合結果について、得点を各点数ごとに出現した回数とその出現率を表したもの。こう見ると0点~6点に集中してて、試合の決着はだいたい6点以内でついているのがわかる。

点ごとの出現率がわかったので、出現率に応じた理論上の勝率が導ける。たとえば、自チームが1点のときは、相手チームが0点の場合だけ勝ちになるため、勝つ確率は0点の出現率と同じ12.1%になる。同様に自チームが2点のときは、相手チームが0点か1点の場合だけ勝ちになるため、0点と1点の出現率を足した25.3%が理論上の勝率になる。各点ごとに理論上の勝率を計算し、表にすると以下のようになる。

一応、理論上の勝率と実際の勝率をグラフにして比較すると以下のようになる。同点の場合は延長で決着をつけるため、頻出する4点以下は理論値より高めになるが、概ね似た感じ。理論上の勝率を基に話しを進めても良さそうだ。

理論上の勝率の表を見ると、1点目を取るだけで、勝率が0%から12%にハネ上がる。2点目だと勝率は25.3%になり、1点目より13%も勝つ確率が上がる。これに対して、11点目を取ると10点取った段階ですでに勝率が96.1%であるため、1.8%しか勝つ確率が上がらない。この各点目ごとの勝率増加を表とグラフにすると以下のようになる。

こう見ると、13点目以降の得点は勝利にほぼ貢献しないことがわかる。これを言い替える形で野球というゲームの原理原則を導くと以下のようになる(実際は「2022年の日本プロ野球」についての原理原則ですが、分かりやすくするため“野球”にします)。

「13個の得点を、攻撃で奪いにかかり、守備でそれを阻止するゲーム」

※「13個の得点」の部分はシーズンやリーグごとに、データから算出して決めて下さい

この原理原則を基に、先に挙げた統計資料から以下のことが導ける。

①    各点目は勝利への貢献という視点で見ると同じ価値ではなく、勝率増加分に応じた価値を有する。例えば1勝の価値を1と置くと、1点目の価値は勝率を12.1%増加させるため0.121の価値、7点目の価値は勝率を7.8%増加させるため0.078の価値、といった具合。この各点目ごとの勝率増加に応じた価値を「個別点貢献値」と呼ぶ(※14点目以降の価値は0)。同様に総得点の価値もその勝率に応じたものにする。例えば総得点が1点の時の勝率は12.1%であるため価値は0.121、総得点が7点の時は勝率86.1%であるため価値は0.861、といった具合。この総得点に応じた価値のことを「勝利貢献値」(0~1の間の値)と呼ぶ(※総得点が13点以上から勝利貢献値は1)。

②    13点という事実上の上限が存在することから、守備にも仮想の得点が導けるようになる。それは以下の式で表せる。

[自チームの守備の得点] = 13点 - [相手チームの得点]

③    守備の得点が導けるようになると、この得点を基に守備の勝利貢献値も以下の式で導けるようになる。

[自チームの守備の勝利貢献値] = 1 - [相手チームの攻撃の勝利貢献値]

例えば相手が3点のとき、残りの4点目から13点目を相手に奪われるのを阻止したことになるので、4点目から13点目の個別点貢献値を合計したものが、守りきった守備の貢献値を意味する。そのためこのような式になる。

以上の前提から、1試合のチーム全体の勝利貢献値は以下の式で表せる。

[自チームの勝利貢献値] 
= [自チームの攻撃の勝利貢献値] + [自チームの守備の勝利貢献値]

この自チームの勝利貢献値が1を上回れば、その試合に「勝利した」とほぼ同義となる(両チーム13点以上の乱打戦は除く)。

さて、チームの勝利貢献値を定めることができたので、次はこの値を選手にどんな方法で割り振るか?の問題になる。ここで用いる方法は、大谷選手のような前例がない選手も評価できるものにしたい。となると膨大なデータの蓄積頼みの「プレーやポジションの重み付け」的な手法は使いたくない。そしてできるだけその試合内のデータで導出できて、ある程度機械的に計算できるものが望ましい。この方向性に沿うものとして思いついた一つのアイデアは以下の通り。

「試合で入った点ごとにその発生要因を分解する」

「分解した要因ごとに選手の関与した回数を数える」

「関与した回数に基づいて、選手ごとに関与割合を計算する」

「関与割合から選手ごとの貢献度を計算する」

「貢献度を集計し、選手ごとに勝利への貢献度を導き出す」

という手法を用いる。

幸い野球は得点の要因が明瞭だ。どう明瞭かというと、必ず1点は1人の選手が4つのベースを踏むことで成立する点で明瞭だ(代走は例外)。「4つのベースを踏む」とは「4つの進塁」と言い換えて問題ない。さらに幸いなことに、この進塁も要因が明瞭だ。進塁は選手が好き勝手できるものではなく、必ず盗塁とか後続のヒットとか、何らかのプレーがあって成立する。つまり野球の1点は、4つの進塁に分解することができ、それぞれの進塁について直接関与した選手が必ず1人以上いるため、得点に至った進塁ごとに関与した選手の数を数えることができる。あとはこの関与した選手の数に基づいて貢献値を割り振ればいい。

ここで1つ考えなくてはならないのが、何をもって「関与あり」とするのか?になる。
進塁の成否は走者がボールより早く塁に到達するかで決まるので、進塁における攻防とは「ボールと走者の競走」を意味する。競走ということは、競走有意(競う上で意味があること)な「時間」、具体的には、「競走に有利な時間を作る」や「競走のため時間を有効に使う」プレーに貢献値を割り振るべきだろう。
例えば一塁に選手Aがいる状態で、後続のBが送りバントをした場合を考える。このときAが一塁から二塁に到達する「時間」が短ければ短いほど進塁の成功率は上がる、つまり競走に勝つ上で有効なため、Aはこの進塁の関与者となる。Bもバントでボールを転がす位置が良いとAが進塁に使える「時間」が長くなり、競走に有利なため、「時間」への関与者となる。Bは「時間」を作り、Aは作ってもらった「時間」を使う、いずれも「時間」に関わる者ということになる。

何をもって「関与あり」とするかが決まったので、実際に割り振ってみる。
例えば、ある1点について、2塁から3塁への進塁にAとBの2選手が関わっていたとしたら、Aに0.5進塁値、Bにも0.5進塁値として進塁の貢献値を均等に割り振る。そして、この1点は何点目の1点なのかで、その個別点貢献値が決まっているので、選手の攻撃の勝利貢献値は以下の計算式で求めることができる。

$${\boldsymbol{[ある選手の“攻撃”の勝利貢献値]}}$$

$${\boldsymbol{={\sum_{n=1}^{13}{\frac{Kn×Ln}{4}}}}}$$

※この ∑ は1点~13点の各点目の和の意味
※Knは[各点目(n)の個別点貢献値]のこと
※Lnは[ある選手の各点目(n)の進塁値]のこと
※1点は4つの進塁から構成されるため4で割る

攻撃の勝利貢献値は案外サクッと考え方を構築できそう。次は守備の勝利貢献値。守備にも仮想ではあるが得点を出せて、この得点から勝利貢献値も導けるようにした。ただ厄介なのは、守備の(仮想の)得点はその成立要因が不明瞭だということ。さて、どうしよう?・・・行き詰まったら原理原則に立ち返るのがセオリー。野球の原理原則は

「13個の得点を、攻撃で奪いにかかり、守備でそれを阻止するゲーム」

と設定した。ここでいう「守備でそれを阻止」とは何だろう?これを考え易くするため、「アウト」を各進塁の成否に紐付けて、進塁とアウトの関係を考えてみる(※アウトのすべてを進塁に紐づけて考えるので、三振は「一塁への進塁失敗」とみなします)。すると、

「ある選手の進塁が成功した」
ならば
「その選手の進塁がアウトにならなかった」

と言い切れる。この命題の対偶もまた真なので、

「ある選手の進塁がアウトになった」
ならば
「その選手は進塁に失敗した」

となる。進塁は得点の発生要因なので「進塁 = 攻撃で奪いにかかり」だ。そしてアウトを取ることは先の命題の対偶から「進塁 = 攻撃で奪いにかかり」を阻止するもの。つまりアウトへの貢献は守備の(仮想の)得点への貢献と考えられる。そして野球は27個のアウトを取らないと「攻撃で奪いにかかり」が終わらないので、「27個」も重要。

これで守備の貢献値の方向性が決まった。守備の貢献は、27個のアウト奪取にどれくらい関与したかになる。幸いアウトの要因も明瞭だ。アウト成立時は必ず守備プレーヤーの1人がボールを保持しており、このボールは必ず1個で、ピッチャーが起点となって放たれたものだ。つまりピッチャーがボールを投げてからアウト成立までに、ボールに触れた選手を時系列で列挙できる。

ここで1つ考えなくてはならないのが、何をもって「関与あり」とするのか?になる(デジャブ)。ここではまず動作の質に着目してみる。野球の守備の動作は、「走る」、「投げる」、「捕る」の三種類の動作から成る(※タッチは「走る」に含めます)。うーん、案外シンプル。この中で「捕る」は、さらに「打球を捕る」と「投・送球を捕る」に分けることにする。守備動作の分類ができたので、次は「攻撃で奪いにかかり」を「阻止する」とは何なのかについて、まずは野手の守備から考察する。進塁の成否は走者がボールよりも早く塁に到達するかどうかなので、野手の守備における攻防とは「ボールと走者の競走」を意味する。競走ということは、競走有意(競う上で意味があること)な「時間」、具体的には、「競走に有利な時間を作る」や「競走のため時間を有効に使う」プレーに貢献値を割り振るべきだろう。つまり「送球を捕る」だけのプレーは「時間」を作り出すものではなく、「時間」を使用するものでもないため、「ボールと走者の競走」の勝利に貢献したとは言えないことになる。そのため「阻止する」プレーには含めない。次に投手の投球について考える。投手と打者の攻防は、捕手がボールをキャッチした時点ではすでに終了している。つまり「投球を捕る」も「阻止する」に貢献しているとは言えない。
以上から「投・送球を捕る」は、アウトへの貢献に直接関与しない補完動作とする(※アウトの成立要件なので重要な動作ではあります)。これに対し「打球を捕る」は、フライのキャッチなどそれだけでアウトが成立する場合があり「攻撃で奪いにかかり」を阻止するための核となる動作と言える。そのため「走る」、「投げる」と同様にアウトへの貢献に関与する主要動作と捉える。「投手の投球」は、打球の挙動を決定する大きな要素であるため、当然に主要動作となる。さらに「投手の投球」は守備の開始動作として全てのアウトに関与する。以下「投・送球を捕る」を「受球」、「打球を捕る」を「獲球」と呼ぶ。
以上より守備の動作は、「走る」、「投げる」、「獲球」、「受球」の4要素に分けられ、「走る」、「投げる」、「獲球」の主要動作が含まれるプレーを「関与あり」とする。
※「受球」を関与に含めないことには次のようなメリットがある。アウトは一塁やホームベースなど特定の場所に集中して発生する。この発生要因のほとんどは「受球」であるため、「受球」を省くことで特定の場所で生じるアウト数の偏りをある程度緩和できるようになる。

さて「関与あり」についての基準も定まったので、具体的にどのように貢献が割り振られるか見てみる。例えば、ある1つのアウトについて、A、B、C、Dの4選手が「関与あり」となっていたら、A、B、C、Dそれぞれに0.25アウト値としてアウトへの貢献値を均等に割り振る。そして最終的に試合で関与したアウトへの貢献値を、選手ごとに、A選手は4.5アウト値、B選手は3.25アウト値といった具合に割り出す。
以上からある選手の守備の勝利貢献値は以下の式となる。

[ある選手の守備の勝利貢献値]
 [自チームの守備の勝利貢献値] × [ある選手のアウト値]÷[27]

※27はアウトの数が1試合27個だから。そのため、さよならゲームの場合は24になったり、延長戦の場合は27+αになったりする。

よしっ!これで選手個々の勝利貢献値が出せるぞ!・・・と思ったが、プレーには「貢献」になるものと、その逆の「阻害」になるものがある気がする・・・イヤ、ある。例えば守備のエラーとか。エラーで生じた進塁は、守備プレーヤーに阻害として割り振る方が実態に合っている。走塁ミスで生じたアウトは、走塁ミスをした攻撃プレーヤーに阻害として割り振る方が実態に沿っている。

ムムッ?・・・ちょっと待てよ・・・阻害の概念を拡張して「三振」とか「外野フライ」でアウトになった場合など、全てのアウトも攻撃での阻害に含める方が実態に沿っている。守備なら全ての失点も阻害に含める方が実態に沿っている。なぜ実態に沿っているかというと、勝利貢献値を算出する上で、より多くのプレーを算出要素に含めることができるから。例えば、得点に至らなかった進塁(残塁のこと)もアウトを回避したプレーとして間接的に算出要素に加わる。これまで作ってきた数式の内容にかなりの修正が加わるが、致し方無い。

まずは式の修正から。1試合のチーム全体の各種貢献値の修正後の式は以下のようになる。

[自チームの攻撃の勝利貢献値] 
=[自チームの得点に基づく勝利“貢献”値]-[自チームの攻撃の勝利“阻害”値]

※[自チームの攻撃の勝利“阻害”値] 
= 1 - [自チームの得点に基づく勝利“貢献”値]

 
[自チームの守備の勝利貢献値] 
=1-[相手チームの得点に基づく勝利“貢献”値]-[自チームの守備の勝利“阻害”値]

※[自チームの守備の勝利“阻害”値] 
= [相手チームの得点に基づく勝利“貢献”値]

 
[自チームの勝利貢献値] 
= [自チームの攻撃の勝利貢献値] + [自チームの守備の勝利貢献値]
 

この「自チームの勝利貢献値」が0を上回れば、その試合に「勝利した」とほぼ同義となる(両チーム13点以上の乱打戦は除く)。

ではまず攻撃の勝利阻害値について考える。1つのアウトは一つの進塁の失敗と紐づけることができ、この失敗した進塁には必ず直接関与した攻撃の選手が1人以上いる。つまりアウトごとに関与した攻撃の選手の数を数えることができ、守備の勝利貢献値と同様に選手ごと、例えばA選手は4.5阻害アウト値、B選手は3.5阻害アウト値といった具合に試合内で関与したアウトの数を割り出すことができる。この阻害アウト値を算出するための関与者に、“塁上”の進塁義務を有する選手まで含めるのは酷なので、この場合は関与者としてカウントしない。また走塁ミスでのアウトの場合は、ミスをした選手のみが関与者となる。以上から、ある選手の攻撃の勝利阻害値は以下の式となる。

[ある選手の攻撃の勝利“阻害”値]
 (1 - [自チームの得点に基づく勝利“貢献”値]) × [ある選手の阻害アウト値]÷[27]

※27はアウトの数が1試合27個だから。そのため、さよならゲームの場合は24になったり、延長戦の場合は27+αになったりする。

これを基に、ある選手の攻撃の勝利貢献値の計算式を修正すると以下のようになる。

$${\boldsymbol{[ある選手の攻撃の勝利貢献値]}}$$

$${\boldsymbol{={\sum_{n=1}^{13}{\frac{Kn×Ln}{4}}}-[ある選手の攻撃の勝利“阻害”値]}}$$

※この ∑ は1点~13点の各点目の和の意味
※Knは[各点目(n)の個別点貢献値]のこと
※Lnは[ある選手の各点目(n)の進塁値]のこと
※1点は4つの進塁から構成されるため4で割る
 
次に守備の勝利阻害値について考える。1つの失点は4つの進塁から構成されており、それぞれの進塁に直接関与した守備の選手の数を数えればいい。ただ、進塁成立時に守備プレーヤーがボールを保持しているとは限らない。ピッチャーがボールを投げてから進塁成立までに、ボールに触れた選手を時系列で列挙することはできるが、阻害の責任を誰に振り分けるかは決めにくく、厄介だ。
例えば、ライト線を破る三塁打で考えてみる。ライトの選手がボールにたどり着いたとき、三塁打を打った選手がすでに二塁を回っていたとする。このとき二塁までの進塁の責任の一部をライトの選手が負うべきだろうか?ライトからの返球を中継したショートが二塁から三塁への進塁の責任を負うべきだろうか?明瞭な線引きは難しいように思える。

エラーの取り扱いなんかを見ると、少々乱暴では?と思えるほどバッサリと線引きしている。まず打球を、野手が「なんとかなる」ものと「どうしようもない」ものとにバッサリ分け、「なんとかなる」ものの中で野手がミスして進塁を許したもの等をエラーにしている。先の例で挙げた三塁打だと、野手はミスをしておらず、どう頑張っても三塁までの進塁を阻止できない「どうしようもない」ものになる。よってこの例の場合、三塁までの進塁の責任を野手が負うことはない。よしっ!守備の勝利阻害値はこの考えをそのまま使ってしまおう。つまり、ある1点の中の1進塁について、エラーが原因ならエラーをした野手に阻害進塁値を割り振り、エラー以外の進塁はすべて投手に阻害進塁値を割り振る。以上から、ある選手の守備の勝利阻害値は以下の式となる。

$${\boldsymbol{[ある選手の守備の勝利阻害値]}}$$

$${\boldsymbol{={\sum_{n=1}^{13}{\frac{In×Jn}{4}}}}}$$

※この ∑ は1点~13点の各点目の和の意味
※Inは[各失点目(n)の個別点貢献値]のこと
※Jnは[ある選手の各失点目(n)の阻害進塁値]のこと
※1点は4つの進塁から構成されるため4で割る
 
これを基に、ある選手の守備の勝利貢献値の計算式を修正すると以下のようになる。

[ある選手の守備の勝利貢献値]
= [自チームの守備の勝利貢献値] × [ある選手のアウト値]÷[27] - [ある選手の守備の勝利阻害値]

ようやく全部出揃った!思い立ってから約半年、様々な紆余曲折、苦心惨憺、阿鼻叫喚(?)の末に産み出した選手の勝利貢献値は以下の通り。

[ある選手の勝利貢献値]
= [ある選手の攻撃の勝利貢献値] + [ある選手の守備の勝利貢献値]

ただこのままだと、弱いチームに在籍しているだけで値が小さくなってしまう。と、言うのも、この値は「“理論上の勝利”への貢献を数値化して、これをプレーへの関与に応じて割り振ったもの」なので、負けやすい弱いチームだとそもそも振り分けられる勝ち星が少なくなってしまう。そこでこれを少し修正するため、「ある選手の勝利貢献値」を、この選手が出場した試合のうち「勝った試合」の数で割ることにする。

[CPW] 
= [ある選手の勝利貢献値] ÷ [出場試合のうち勝った試合の数]

この値をCPW(1勝あたりの貢献度)と名付ける。このCPWを実際に使いたい方は、ご自由にお使いください。CPWというネーミングが気に入らない場合は勝手に変えちゃってOKです。
夢を語るなら、大谷選手のCPWのキャリアハイ(or現役全期間)を1として、「大谷翔平何人分の貢献」みたいな使い方で、S.s(SHOW score)という新指標の計算基礎値として使ってもらえると最高です。S.sも自由に使ってOKですが、ネーミングは気に入らなくてもこのまま使ってください。

CPWの発展として、次のようなものが考えられる。今回は1試合ごとの得点に応じた勝率を貢献値の基礎に置いたが、これを1試合ごとから「1回」ごと、もっと進めて「1アウト」ごとの得点に応じた勝率で貢献値を出す方法も考えられる。というのも、1回の裏が終わった段階で1-0で負けている場合と、8回の裏が終わった段階で1-0で負けている場合とでは、同じ1-0でも価値が異なる。1回の裏が終わった段階だと「まだ8回も攻撃できる。イケる、イケる。」とまだ前向きだろう。一方、8回の裏が終わった段階だと「さすがにちょっとヤバイ」となるはず。より細かく区切って考える方が実態に沿っているかもしれない。

おまけ
(例題その1)
Aが三塁打を放ち、後続のBが内野安打でAを生還させた場合の1点について、A、Bそれぞれの貢献値を計算せよ。ただし、この1点の個別点貢献値は0.12とする。
〈解答〉
打席から一塁までの進塁を「1進」、一塁から二塁までの進塁を「2進」、二塁から三塁までの進塁を「3進」、三塁からホームへの進塁を「4進」とする。
この1点についての各進塁の関与者は以下の通り。
・1進:A
・2進:A
・3進:A
・4進:A、B
これよりAの進塁値は、1進=1、2進=1、3進=1、4進=0.5 の合計3.5進塁値
Bの進塁値は、1進=0、2進=0、3進=0、4進=0.5 の合計0.5進塁値
以上よりAの貢献値は以下の通り。
0.12 × 3.5 ÷4 =0.105
Bの貢献値は
0.12 × 0.5 ÷4 =0.015
となる。

(例題その2)
Aが内野安打で一塁へ、後続のBが送りバントでAは二塁へ(Bはアウト)、Cが二塁打を放ちAが生還した場合の1点についてA、B、Cそれぞれの貢献値を計算せよ。ただし、この1点の個別点貢献値は0.05とする。
〈解答〉
この1点についての各進塁の関与者は以下の通り。
・1進:A
・2進:A、B
・3進:A、C
・4進:A、C
 ※Cの二塁打は、Aが2塁から生還するまでの「時間」を作ったため、3進、4進とも関与者になる。
これよりAの進塁値は、1進=1、2進=0.5、3進=0.5、4進=0.5 の合計2.5進塁値
Bの進塁値は、1進=0、2進=0.5、3進=0、4進=0 の合計0.5進塁値
Cの進塁値は、1進=0、2進=0、3進=0.5、4進=0.5 の合計1進塁値
以上よりAの貢献値は以下の通り。
0.05 × 2.5 ÷4 =0.03125
Bの貢献値は
0.05 × 0.5 ÷4 =0.00625
Cの貢献値は
0.05 × 1 ÷4 =0.0125
となる。

(例題その3)
Aが相手ピッチャーDによるフォアボールで一塁へ、後続のBが送りバントでAは二塁へ(Bはアウト)、Cが二塁打を放ちAが生還した場合の1点についてA、B、Cそれぞれの貢献値とDの阻害値を計算せよ。ただし、この1点の個別点貢献値は0.09とする。
〈解答〉
この1点についての各進塁の関与者は以下の通り。
・1進:A
・2進:A、B
・3進:A、C
・4進:A、C
 ※Cの二塁打は、Aが2塁から生還するまでの「時間」を作ったため、3進、4進とも関与者になる。
これよりAの進塁値は、1進=1、2進=0.5、3進=0.5、4進=0.5 の合計2.5進塁値
Bの進塁値は、1進=0、2進=0.5、3進=0、4進=0 の合計0.5進塁値
Cの進塁値は、1進=0、2進=0、3進=0.5、4進=0.5 の合計1進塁値
以上よりAの貢献値は以下の通り。
0.09 × 2.5 ÷4 =0.05625
Bの貢献値は
0.09 × 0.5 ÷4 =0.01125
Cの貢献値は
0.09 × 1 ÷4 =0.0225
となる。
この1点の4つの進塁にエラーはなかったことから、4つの進塁の阻害進塁値はすべて、ピッチャーであるDが負う。よってDの阻害値は0.09となる。

(例題その4)
投手のAと捕手のBが打者Cから三振を奪ったとき、A、B、それぞれのアウト値とCの阻害アウト値を求めよ。
〈解答〉
守備側選手(A、B)のアウトに関わるプレーを、動作の4要素、「走る」、「投げる」、「獲球」、「受球」に分類する。
A:「投げる」
B:「受球」
このうち、主要動作をしているのはAのみなので、Aは1アウト値になり、Bは0アウト値となる。
攻撃側選手でアウトに関わったのはCのみなので、Cは1阻害アウト値となる。

(例題その5)
二塁に走者のAがいる状態で、打者のBがライトヘ犠牲フライを打った。ライトを守るCがこのフライをキャッチし、三塁手のDに向けて送球(レーザービーム)し、走者Aを差した。ピッチャーはEが務めている。このときのA、Bそれぞれの阻害アウト値とC、D、Eのアウト値を求めよ。ただし、このときの守備は通常の配置とする。
解答
犠牲フライのアウトについて
A:このアウトには関わっていないため、0阻害アウト値。
B:犠牲フライを打ったため、1阻害アウト値。
C:犠牲フライを取るプレーは動作の4要素のうちの「獲球」に該当し、主要動作になる。このアウトに関わる守備の選手はCの他はEのみなので、Cは0.5アウト値となる。
D:犠牲フライのプレーには関わっていないので、0アウト値。
E:Eによる投球は動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。よってEのアウト値はC同様、0.5アウト値となる。
三塁アウトについて
A:このアウトはAによる3進の失敗。A以外に関わった攻撃の選手がいないので、Aは1阻害アウト値になる。
B:このアウトには関わっていないため、0阻害アウト値。
C:三塁に送球するプレーは動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。このアウトに関与した守備の選手はCの他はEのみなので、Cは0.5アウト値となる。
D:三塁への送球をキャッチするプレーは、動作の4要素のうちの「受球」に該当し、補完動作になる。関与者に該当しないので、0アウト値。
※Dによる三塁ベースへ向かう「走る」動作は、位置的に、走者Aに対して"絶対優位"であるため、競走有意とは言えず(「歩く」でも間に合うため、そもそも競走の体をなしていない)、主要動作とはならない。
E:Eによる投球は動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。よってEのアウト値はC同様、0.5アウト値となる。

(例題その6)
一塁に走者のAがいる状態で、打者のBがショートヘ内野ゴロを打った。ショートを守るCがこのゴロをキャッチし、セカンドのDに向けて送球、走者Aを差しアウトにする。さらにDはファーストに送球、ファーストのEがキャッチし、Bもアウトとなる。ピッチャーはFが務めた。このときのA、Bそれぞれの阻害アウト値とC、D、E、Fのアウト値を求めよ。ただし、このときの守備は通常の配置とする。
解答
走者Aの二塁アウトについて
A:このときAのプレー(走塁)は、Bが作った時間を有効に使うものであるため、関係者となる。しかし進塁義務を有するため、このアウトの関係者ではあるが阻害アウト値の付与は免除される。
B:このアウトの阻害アウト値を割り振る唯一の関係者であるため、1阻害アウト値。
C:内野ゴロを取るプレーは動作の4要素のうちの「獲球」に該当し、主要動作になる。このアウトに関わる守備の選手はCの他はDとFのみなので、Cは0.333アウト値となる。
D:Cからの送球をキャッチする際に二塁ベースに向かって走るプレーは、動作の4要素のうちの「走る」に該当し、主要動作になる。さらに、この「走る」は走者Aとの関係で「競走のため時間を有効に使う」プレーであるためDは関係者となる。よって、このアウトに関わる守備の選手はDの他はCとFのみなので、Dは0.333アウト値となる。
E:このアウトのプレーに関わっていないため、0アウト値。
F:Fによる投球は動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。よってFのアウト値はCとD同様、0.333アウト値となる。
走者Bの一塁アウトについて
A:このアウトには関わっていないため、0阻害アウト値。
B:このアウトはBによる1進の失敗。B以外に関わった攻撃の選手がいないので、Bは1阻害アウト値(合計2阻害アウト値)になる。
C:二塁のDに送球するプレーは動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。また、この送球は打者Bとの関係で「競走のため時間を有効に使う」プレーでもあるためCは関係者となる。このアウトに関与した守備の選手はCの他はDとFのみなので、Cは0.333アウト値となる。
D:一塁へ送球するプレーは、動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。よってCとFとともにこのアウトの関係者となるので、Dは0.333アウト値となる。
E:Dからの送球をキャッチするプレーは、動作の4要素のうちの「受球」に該当し、補完動作になるので、0アウト値。※Eによる一塁ベースへ向かう「走る」動作は、位置的に打者Bに対して"絶対優位"であるため、競走有意とは言えず(「歩く」でも間に合うため、そもそも競走の体をなしていない)、主要動作とはならない。
F:Fによる投球は動作の4要素のうちの「投げる」に該当し、主要動作になる。よってFのアウト値はCとD同様、0.333アウト値となる。

(CPWの問題点その1)
打たせて取るタイプのピッチャーの評価が低く出てしまう。CPWだと、打たせて取ったアウトは、アウト値を野手と分け合ってしまうため、どうしてもピッチャーの手柄が減ってしまう。

(CPWの問題点その2)
先発投手が0点に抑えても、中継ぎ・抑えの投手が得点されると、その責任の一部を先発投手が負ってしまう。CPWでは守備の貢献値を各失点目ではなく、相手方チームの最終的な得点から算出する。そのため、自分が関わっていない失点でも貢献値が減ってしまう。これを緩和するためには、1試合ごとから「1回」ごとや「1アウト」ごとの得点に応じた勝率で貢献値を出す方法へ、発展的に移行する必要がある。

(CPWの問題点その3)
盗塁したが、スリーアウトチェンジで残塁となった場合、この盗塁による進塁は得点に至っていないため算出要素に含まれない。CPWは、ある意味徹底的に結果論に寄った指標なので、積極的で好感の持てるプレーでも得点という結果が伴わないと評価されない。

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