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ボロボロの空き家との出会い〜北鎌倉空き家再生プロジェクト no.1〜

空き家との出会い


引っ越した家の上の山際に、鬱蒼とした緑に囲まれひっそりと建っていたかわいらしい赤いおうち。聞けば5年以上空き家になっているのだという。引っ越し前もすぐ近くに住んでいたのにこんな家があるとは気づいていなかった。車が通れない路地を入り、更に自転車も持ち上げられない階段を上がってしか辿り着けない。


子育てをするのに緑が多い土地に移住を考え始めた時から夫と思い描いていた理想がありました。広大な敷地に家が数軒建っていて1軒に住み、1軒は他の人が住み、もう1軒はいろいろな人が集う場所になっている。
今の自宅は借家ではあるのだけど大家さんの家が同じ敷地に建っていて、生垣と緑の斜面に囲まれた広い庭があります。この斜面の上の空き家に人が集う場所ができたら、あの理想にかなり近づくなぁ、と。
その頃には鎌倉の不動産会社に転職していた夫の忍が、その土地と家が売りに出たという情報を見つけ早速私達も見に行ってみました。

そこにおじいちゃんが住んでいた時のままの状態で放置された家。窓から覗くと、絵画や神楽に使いそうなお面、手描きの凧などが飾られていました。置いてある物の趣味は良さそう。片付けるのも楽しそう。でもその奥は屋根に穴が空いていて光が家の中に差し込んでいる様子。
家を直すにもトラックも重機も入っていけない場所。工務店に普通にお願いしたら建て直すにしても改修するにしても莫大な費用がかかるのは目に見えています。

私達も躊躇しましたが他の人もやはり同じようで、常に家を探している人がいるような地域なのに、1年ほどの間に価格もどんどん下がりついには売り出し情報も見なくなりました。

でも静かな山際、3方向開けていて遠くまで見渡せるロケーション、あそこがきれいに直せたら絶対素敵になるなぁ、というイメージは私達夫婦の中には描けていました。
自宅の隣りなので仕事や子育ての合間の時間にちょこちょこ片付けや改修もできるのではないか。

やってみたいという気持ちと、それにしても建物の状態が悪すぎて高い買い物になるのではないか、という気持ちがせめぎ合っている時に、一度連絡したことのあった売主さんから忍に間違い電話が入るという偶然。これも何かのご縁だとついに踏み出す決心をしたのでした。

購入に至った理由


誰も見向きをしなかった空き家。そこを私達が買い取るという決断をしたのは何故か。

・欠点と思える条件は魅力にもなる

まずは車が入らない、階段でしかアクセスできないということ。裏を返せば車の音がなく静かで、子どもにとっても安心して遊べる環境。住宅街の端っこではあるけれど他の家より一段上がることで遠くまで見渡せて眺望は良くなります。隣りに鎌倉市所有の竹林があり市では整備できていないのだけど、これも逆に捉えれば自分で整備できれば家が建つこともないし、鎌倉らしい竹林が目に入る風景を味わうことができます。

車は入らないと言っても、JRの駅から舗装された道を歩いて15分程の距離。駅からは住んでいなければ歩くこともない、北鎌倉らしい季節を感じられるお屋敷のある路地を通ります。辿りつくと鳥の囀りや葉のそよぐ音に包まれ、遠方には山の稜線も見えています。車が入らないことで体験できる静寂に出会える場所だと思います。

・やってみたかったことを試せる

夫の忍は今まで住宅の設計・造園、鎌倉界隈での不動産営業の経験を経て、いろいろな物件を見てきました。大手不動産会社が手間がかかる割りには身入りが少ないと敬遠するような、今回のように車が入らない物件、建物が古くて改修が必要な物件、こそ、何が魅力でどう手を入れると良くなるのかという「見立て」をすることが楽しいし、その一見負であるような面の解決法を提案できるだけの経験も積んできたので、今こそそれを最大限に活かしていきたい、というタイミングでした。

私は古い建物が好きで、今ではもう造る職人さんがいないような手仕事の造作だったり、その土地の風土に合わせた工夫、先人の智慧と美しさを遺していきたい、という想いが強く、この築65年という築年数の建物はギリギリ高度経済成長後の大量生産大量消費の工業化に移行する狭間の時期のもので、どうやって遺していけるのかチャレンジする機会になるなと思ったのでした。

そして材料の調達から造るところまで自分達の手でできることはなるべくやって、自分の居場所を自ら作り上げる。そんな経験ができたら生きる上で大きな自信になると思ったのです。いろいろな選択肢があるということを子ども達に見せられたら。

かといって、コツコツとDIYのスキルを上げていくことだけに興味があるわけでもなく、ワイワイと作業できる仲間が作りたいという夢も。私が参加したことがあるワークショップや学び合いの場でここがいいなと思った共通点は、1つのお題目の元に集まった人達がワーッと一緒に作業や学び合いをして、自分1人では辿り着けない高みへと行けること。そこに美味しいお昼ごはんやおやつがついていたらなお最高。1つのテーマに集まってくる人達は何かしら似たところがあるし、そういう人達と情報交換したり、世間話をするだけでも自分が深めたい世界が広がっていくものです。そういう共通の興味の仲間がいて、自分が手伝ってもらいたい時は頼れるし、助けてもらいたい人がいればスッと助けに行ける。そんな仲間づくりもやりたいことの1つです。

photo by Akane Masuda

・それでも元はとれる

この空き家はいろいろ難しい面もあり建物はほぼ使い物にならなかったので改修とは言っても新築と同じような金額がかかるような物件でした。
そして家族が住む自宅としてではなく、人が集まるコミュニティスペース的な建物、場合によっては借家として人に貸すということも考えています。なのでDIYでやれる範囲の改修ではなく、構造も補強するなどしっかりと造り直す予定でいます。
改修費用をなるべく低く抑える工夫もしていますが、借り入れをして返済をしながらでも返済額を上回る賃料で貸したり、かけた総額を回収できる金額で売ることも出来るだろう、という予測のもと購入に踏み切りました。
ボロボロの建物、ジャングルと化した庭の状態では価値が無いように思えても、この土地のいい面を最大限に活かして手を入れれば、その良さが認められる場所になるだろうと。
万人受けはしなくてもこういう所に行ってみたい、住んでみたい、という人はいるはず。

なかなか手強い現実


売りに出てもなかなか売れないような土地建物を買取り自分達で改修する一歩は踏み出したものの、よく見るとやはりなかなかタフな状態。

庭木は鬱蒼と生い茂り隣りの竹林から竹が侵食してきていて、家の中は物で溢れ冷蔵庫の中身もそのまま。屋根にかかっていた木からの落ち葉が屋根に落ちて土になりそこに雨が落ちて屋根が傷み、穴が空いて、家の中の布団に雨が染み込み家中カビだらけ。マスクをしていても足を踏み入れるのをためらうような状態でした。

ぱっと見置いてある物の趣味は良さそうだったので、ご近所さん達に宝探し気分で片付けも手伝ってもらえるかな、とも思っていましたがさすがにカビたり錆びたりしている物は自分達で捨ててある程度きれいになってからでないとなぁ、とまずは家族での片付けを始めたのでした。

次回からは空き家の片付けや改修について書いていきたいと思います。

美菜子

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