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世界の真実にてジジ孫に絶望する(リックアンドモーティ考察)

リックアンドモーティシーズン5エピソード10までのネタバレがあります。

*また、英語の訳に関して間違いがありましたら、教えていただけますとありがたいです。

また、同名人物が大量に出てきてややこしいので、一旦呼び名を整理しておきます。
リック=C-137のリック(主人公のリック)
モーティ=C-137リックのモーティ(主人公のモーティ)
大統領モーティ=悪モーティ
リックたち…不特定多数のリックたち。
モーティたち…不特定多数のモーティたち。
26歳モーティ…C-137モーティの分身。

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シーズン5エピソード10において、リックアンドモーティは今までの伏線が一気に回収されたと共に、大きな変換を遂げました。

2人はついに大統領となっていた悪モーティと出会い、モーティはリック要塞とモーティの真実、そしてリックの過去を知ります。

そしてラスト、悪モーティは要塞全てを犠牲にして、ついにリックから自由になれる世界へ飛び立とうとします。
その一方主人公のリックとモーティは崩れゆく要塞から力を合わせて逃げ出そうとします。


ForTheDamageCodaの壮大なアレンジBGMを背景に、自由な世界へ飛び立つ悪モーティから感じる爽快感、そしてリックとモーティが力を合わせて崩壊する要塞から脱出し切るシーンは本当に激アツで、最高のシーンです。

モーティはリックの所業を許し、リックと共に歩むことを選んだ!!!そして2人はついに対等なパートナーになった!!!
というのが初見の感想でした。

ところがよく考えてみると、2人の関係性は改善されたというよりも、その実はもっと恐ろしい深みにハマったのではないかと思えるのです。

実はシーズン5エピソード10は、エピソード全体でリックとモーティの関係性の異常さをしつこいほどに言及しています。そして最後までその関係性が解決されないまま、シーズン5は終わっているのです。


明示されるリックとモーティの関係の歪み

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リックは中年となったモーティを拒絶する
まず前話、リックはモーティと喧嘩をし、当てつけのようにカラスをパートナーにします。ところがリックは心優しいカラスに情が移り、そしてモーティに対して自分と一緒にいると酷い目に合うばかりだと言って本格的に別れようとします。

ところが今度はモーティの方がリックに執着を見せるようになります。実はこれまでモーティはリックに対してあまり執着するような描写はありませんでした。ところが今回のモーティのリックに対する執着心は凄まじいものです。
最終的に人生に絶望した汚い中年男になったふりをして、リックに揺さぶりをかけようとします。ところがそれに対するリックの反応は冷酷なものでした。むしろ「こんなお前を見たくない」と言って逃げ出そうとする始末です。

“First off, the will-they kill-they is everything to my guys. And second, fuck you for trying to undermine my happiness.
「まずワシ達は戦いが全てだ。そして、お前はワシの楽しい生活をぶち壊そうとしやがってる。」

“This may be the last time you lay eyes on me!”
「僕に会えるのはこれで最後かもしれないんだよ!?」

“I hope that’s not true, Morty. Because you look like shit, and this is not how I wanna remember you.”
「そうならないことを願うよ。今のお前を最後の思い出にしたくないからな

リックがスミス家に戻ったのは、誰のため?

Rick, did you really leave the crows for me? Or did you come back because they dumped you? 
「リック、本当に僕のためにカラスと別れたの?それともカラスにフラれたから戻ってきたの?」

結果的にリックはスミス家に戻ります。しかし、後ほどモーティから「カラスと別れたのは僕のため?それともカラスにフラれたから戻ってきたの?」と聞かれた時の反応から、戻ったきっかけはモーティのためではなく、カラスに振られたことだと思われます。

一方でカラス達はリックがモーティを切ってカラスと組んだのは、モーティを嫉妬させてヨリを戻そうとしていたからと指摘しています。

“You feel like I was using you as a rebound too? Well shit, this lost all meaning. Guess it could’ve been worse. At least ‘adventuring’ was just a metaphor for romantic partnership so it’s not a real breakup.”
「ワシもヨリを戻すためにお前達(カラス)を利用しただと?クソ、これじゃあ意味がない。いや、もっと悪い。少なくとも「冒険」は恋愛関係のメタファーでしかないから、破局しないはずだ。」


ベスはリックとモーティの関係性の問題に言及する
さて、リックが帰ったことでモーティは喜び、自分が老化薬を飲んで嘘をついたことを白状します。
リックと元の関係に戻れると喜ぶモーティに対し、ベスは「元の関係に戻るのではなく、貴方にもちゃんと尊厳があるとお爺ちゃんに分かってもらって、扱いを変えてもらわないと」と忠告します。ところがモーティはその忠告を拒否します。

“Well no, honey, not a reset, okay? Tell your grandpa that you’re worthy of his respect and you wanna be treated differently from now on.”
ダメよ、元通りになるのはダメ。あなたには尊厳に値する価値があることと、そしてこれからは違う扱いを受けてもらいたいとおじいちゃんに言いなさい。」

“I refuse to do that, I’m desperate to get back together.”
「嫌だよ。僕はどうしても元通り一緒になりたいんだ。」

ここでベスによって、モーティとリックとの関係性の問題が客観的な視点から明確に示唆されました。
そして何よりも問題は、リックとモーティの関係は、客観的に見て不健全なものであるにも関わらず、モーティはリックとのこれまでの関係を望んでいるのです。

リックは26歳モーティを破棄させようとする
そのあと2人はモーティを元の14歳に戻すためにリック要塞に行きます。要塞の「モーティ復元所」で40歳になったモーティを14歳に戻す際、副産物として「26歳のモーティ」が生まれます。その26歳モーティの処分を、「連れて帰る」「保管する」「破棄する」の3択の中から選ぶとき、なんとリックは26歳モーティがウザい性格という理由で「破棄」を選ぼうとします。
結果的には26歳モーティは復元所前の通りの小競り合いに巻き込まれて命を落としますが…。

リックはモーティに毒味をさせる
その後リックとモーティは大統領のモーティに食事に誘われます。
大統領モーティに不信感をもっていたリックは食事に毒が入ってないかどうか、なんと自分のモーティに毒味をさせます。

シーズン5最終話の前半は、ここまでにリックのモーティに対する扱いの酷さはかなり明確にかかれているのです。
…まあ、いつも通りの扱いとも言いますが。


明かされるリックアンドモーティの真実

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明かされるモーティの真実
ここから先は大統領となっていた悪のモーティにより、いささか唐突な怒涛のネタバラシ展開が押し寄せてきました。
モーティたちと要塞の秘密が明かされ、そしてリックの過去が判明したのです。

モーティたちはリックたちの脳波を打ち消すカモフラージュ用品として作られ、そしてリック達に従うように育てられていたことが判明します。つまりはモーティのリックに対する愛情は、作られたものなのかもしれないのです。

“You sell-out Mortys kill me. I’d hate you more than the Ricks you worship if there was any point. But you can’t help it; you were bred for it. Wanna see?”
「君みたいな自尊心を犠牲にするモーティにはうんざりするよ。もしそれに理由がなければ、君が尊敬するリック以上に嫌いだったかもしれない。でも君たちはどうしようもないんだ。そうなるように育てられたんだからね。見るかい?」

そして悪モーティはリックたちをこのように評価します

“There aren't infinite versions of our grandfather, Morty. He's an infinite smear of one shitty old man. And he's attached to us infinitely through his weakness and our forgiveness.”
「モーティ、奴らは僕たちの無限のじいちゃんじゃない。奴らはクソジジイという無限の染みだ。奴らは自分の弱みと僕たちの許しを利用して僕達に染みついているんだ。」

この言葉で思い出せるのは、シーズン3でリックがジェリーに対して放った言葉です

That all ended because she felt sorry for you. You act like prey, but you're a predator! You use pity to lure in your victims! That's how you survive! 
「お前が結婚できたのは、ベスがお前を憐れんだお陰だ。お前は餌食のふりをしているが、捕食者だ!哀れな被害者という立場を利用しているだけだ!それがお前の生存戦略だ!」

皮肉にも、リックが普段見下しているジェリーに対して指摘したことが、ここではそのままリックに対して指摘されてしまうのです。
ジェリーが無能なダメ人間であることで人々の慈悲に寄生して生き延びているのと同じように、リックたちもカモフラージュ用品であるモーティたちの許しに寄生して生き残っているのです。

明かされるリックの真実。被害者であることは免罪符になるのか
そしてモーティはリックの過去を知ります。別の次元のリックに本当の妻と娘のベスを殺されたリックの悲しい過去。リックの悲しい記憶を見て、モーティはリックに対する怒りを忘れて共感をします。

そんなリックに共感をするモーティに対し、悪モーティは「リックは自分を被害者だと思い込むことで、それを免罪符にしようとしているにしか過ぎない」と指摘します。

ここでのモーティはリックの悲しい過去に同情する視聴者の役割を担っています。そして悪モーティはそれを俯瞰的に批判する役割を担っています。


“Of course that’s the case. In their minds, they’re the underdog. And that’s how they justify this.”
「奴らは自分たちは負け犬のつもりなんだ。それが奴らが自分を正当化させるための理屈だ。」

“Morty, I’m not responsible for every fucked up Rick out there.”
「モーティ、ワシはこんなイカれたリック共とは関係ない」

“They literally all say that. They all have that excuse; it’s part of their system. None of them have to be responsible, they're all victims of themselves. Oh, it’s so hard to be a genius. Couldn’t you just die?”
「皆そう言って弁解しようとするよ。それが奴らのシステムなんだ。奴らは責任を負う必要はない。奴らは自分自身の被害者だからね。天才って大変だね。さっさと死ねば。」

この辺のことに関しては、脚本を担当したジェフ・ラブネスも以下の動画でリックの過去を、悪モーティが「切った」と発言しています。

Jeff Loveness(Writer)
"we give what you want, show a badass man broken by time multiversal terminator against yourself kind of thing.
but then, we immediately undercut it by evil morty showing you that like.
no, that`s only half of it and in fact you rooting for something that you never should have rooted for in the first place.
ジェフ・ラブネス(ライター)
「我々は視聴者が望むものを見せた。マルチバース間の自分自身を殺すターミネーターに人生を壊された、カッコいい男の物語だ。だがその直後それを悪モーティが根本から切ってしまった。
いや、それはたったの半分だ。事実、君たちは最初から、根付いてはいけないものに根付いてしまっているんだ」
https://youtu.be/f4tPUPcoB2I?t=15

ちなみにシーズン3では悪モーティはリック達の被害者意識を見事に突いて選挙戦に勝利しています。
悪モーティは「リック達もモーティ達と同じく、格差に苦しんでいる」と演説してリックからの支持を得ました。
その反面、モーティ達からは「おべっか野郎」と言われ、モーティ達の支持を大幅に失います。要塞に住むモーティ達にしてみれば、リック達の苦しみとモーティ達の悲惨な境遇を同じ扱いにされたくなかったのでしょう。
結果的に悪モーティ自身も本心は要塞のモーティ達と同じような考えを持っていたということになります。

明かされる悪のモーティの真実。彼は悪ではない?
そして悪モーティは、自分自身のことを悪ではないと言い出します。

Every version of us has spent every version of all of our lives in one infinite crib, built around an infinite fucking baby.
And I’m leaving it. That’s what makes me ‘evil’, being sick of him. If you’ve ever been sick of him, you’ve been evil too.”
「僕らはみんな無限のクソガキのために作られた無限の揺籠の中で生きているんだよ。
だから僕は(中央有限曲線から)出ていくんだ。リックにうんざりしているから、僕は「悪」なんだよ。リックを嫌えば君も同じ「悪」だよ。」

皮肉なことに、悪モーティのリック達に対する批判はそのまま本人に跳ね返っています。何しろ悪モーティ本人も、シーズン1からリック以上に擁護できないような犯罪を犯し続け、モーティ達に対しても酷い仕打ちをしているのに、今回はそれをリック達のせいにしているのですから。

ただ、悪モーティに対する見解としては、脚本家達はこのような見解をしています

Jeff Loveness(Writer)
Evil morty is this product of a fucked-up system.
He`s a zoomer growing up in late-stage capitalism, and he realizes this whole thing is bad, it has to burn down.
And he has to break the Central Finite Curve. He has to break the toxic relationship between Rick and Morty that Mortys have been manufactured into.
ジェフ・ラブネス(脚本)
「悪のモーティはこの狂ったシステムの産物だ。彼はZ世代で、晩期資本主義の中で育った。そして彼はすべてが間違っていることに気が付いた。それを燃やし尽くさなければならない。そして中央有限曲線を破壊しなければならない。モーティたちが組み込まれた、リックとモーティの歪んだ関係を破壊しなければならない。
https://youtu.be/htSNvtqat7o?list=PLQl8zBB7bPvL6GycjAtAibVp6FsLWvMcY&t=66
Scot Marder(Writer/ShowRunner)
I think evil morty would make the argument that it`s like very unfair to call him evil morty
because he like every other morty is a huge victim of circumstance 
スコット・マーダー(脚本/ショーランナー)
「私が思うに、悪モーティを悪のモーティと呼んでいいのかどうか議論されるものだと思っている。なぜなら彼は悲惨な境遇に置かれていた他のモーティと同じだからだ。」

https://youtu.be/f4tPUPcoB2I?t=38

今までの悪モーティのやらかし度合いを考えると、いささか同情的すぎる見解ではあると個人的に思いますが、ここでは悪モーティはリックとモーティの関係にメスを入れて真実を暴く存在として語られています。そして無理やり作り出された関係から逃げ出す、覚醒した者として語られています。

不公平な愛は免罪符になるのか
C-137リックがモーティのことを気にかけているのは間違いありません。他のモーティに対しても、要塞中に溢れるポータル燃料からモーティ達を逃すために電車のドアを開けたりもしました。しかしそれでリックが今までにモーティに対して行った仕打ちが正当化される訳でもありません。

 そもそも警官リックやスズメバチリックなど、モーティたちに対してC-137リックよりもまともな対応をするリックも何人か登場しています。なんだかんだでC-137リックは、「比較的マシ」レベルのリックでしかないのです。

 そして今回、モーティたちのリックに対する敬愛が少なからず人工的なものだと判明したことで、リックのモーティ達に対する愛情は不公平なものである可能性ができてしまいました。リックたちにはモーティを愛する自由はありますが、モーティたちはリックを愛しなければならないのです。

モーティたちにはリックは必要ない
一方でリックたちには自分の身を守るためにモーティが必要なのに対して、モーティたちはリックを必要としないという不公平さもあります。

だからリックたちは無理やりにでもモーティたちがリックを敬愛するように教育し、脅し、縋りつき、そしてモーティ達を量産するのです。

とはいえ、しばらくリックがモーティから離れてカラスと一緒に過ごしていたことから、ある程度はモーティを必要としていないかもしれません。

程度の差はあれ、モーティを必要とするリックたちとは違い、本来はモーティたちにはリックへの愛情もリックからの愛情も必要ないと思われます。
 モーティがデトックスされたとき、モーティはリックを捨ててニューヨークへ家出をしました。シーズン3の最終話では、モーティはリックではなく、家族を選びました。アシッド回でモーティが作り出した世界では、リックの存在が無視されていました。

 そして悪モーティは、いずれ全てのモーティ達はリックのいない世界へ行くことを示唆します。

Sooner or later we all are, on this side of the curve.
「遅かれ早かれ、僕たちはみんな中央有限曲線のこちら側に来るはずだ。」


モーティが自由よりもリックを選んだのは、なぜ?

シーズン5の終盤において、家族であり、友人であり、相棒であるリックアンドモーティという夢想は完全に打ち砕かれました。
リックアンドモーティはシステムでしかありませんでした。モーティはリックの弱さを突きつけられます。そしてモーティのリックに対する敬愛も、人工的なものでしかありませんでした。

それでもモーティは自由よりもリックを選びました。

その部分で感動すると共に虚しくなるのが、結局リックはモーティの「許し」に寄生し続けて生き延びたようにしか見えないことなのです。モーティは、自分自身に組み込まれたシステムから逃げることができなかったように見えるのです。

このことについて、ライター達はこのように述べています。

Scot Marder
and mortys has to choose whose side am I on this morty that is technically me but like quote unquote evil or rick who I have a thousand issues with,
Despite learning all of the bad backstory,he still choose rick,

スコット・マーダー
「モーティは選択しなければいけない。実質自分自身であり、いわば悪である悪モーティにつくか。自分との関係に問題が山ほどあるリック側につくか。
結局モーティは、恐ろしい真実を知ってもなお、彼はリックを選んだ。」

https://youtu.be/f4tPUPcoB2I?t=38

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今後の2人はどうなる?
話の前半でモーティはリックに対して異常とも見えるような執着を見せます。
そしてリックはモーティに対してどこまでも自己中心的な態度をします。それどころか虐待とも言えるような行動をとっています。(と言っても毎回が酷すぎるので、今回は大したことはないように思えてしまうのですが)
さらに2人の関係が少なからずとも不自然に作られたものであることが判明しました。

そしてその関係の改善は現状では明確に示唆されていないのです。

メインクリエイターのダン・ハーモンはこのように発言しています

DanHarmon(CO-Creator)
The final of season five is a story about advancing the relationship between Rick and Morty to be one that involves a little more trust.
What challanges can we throw at two peaple willing to commit to working together?
ダン・ハーモン(COクリエイター)
「シーズン5の最後は、リックとモーティの信頼関係が少しだけ深まり、関係性が前進する話だ。彼らが協力し合うためには、どんな試練を与えられるだろうか?」

2人が真実を知ったことにより、今までにないなんらかの大きな変化は起きたはずです。まだ2人の関係性は改善されるのかどうかはわかりませんが、おそらく今後は2人の関係の変化がどんどん明確になっていくのでしょう。
要塞から逃げるために2人が協力し合うシーンは、それを示唆するものです。

一方で、モーティが自由よりもリックを選んだことにより、リックとモーティの歪んだ関係がより深みにハマってしまったようにも思えてしまうのです。
ハーモン氏は「前進」と発言したのですが、それを伝えるには描写上の説得力がいささか弱いようにも見えるのです。


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