なぜマグニフィコ王が闇堕ちしたのかという考察

個人的に色々と惜しいところも多いと思っているウィッシュですが、マグニフィコ王のキャラ作りに関しては非常に徹底的に作られていると思っています。マグニフィコ王の生い立ちや考え、言動などを見てると、マグニフィコ王が闇堕ちするのって納得しかないのです。

私としてはマグニフィコ王の思想が正しいかどうかは各自の思想によって分かれるものだと思います。
それよりもここではなぜマグニフィコ王が闇堕ちしたのかという考察をしていきたいです。

マグニフィコ王の過ちは、人を信じられなかったこと、人を幸せにするような願いを奪ってしまっていたこと、そして結果として全てを背負い過ぎたことだと思うのです。
そしてその根源は幼少期のトラウマからくるものではないかと考えています。

まずマグニフィコ王は幼少期に侵略者に領地を奪われたトラウマから、ふたつの考えが芽生えたのではないかと思っています。
ひとつは自分が体験したような不幸がなくなり、人々が幸せになれる世界を作ること。
そしてふたつめは、人は信用できないこと。
ふたつめに関してはサビーノの願いを却下した理由を述べたときの発言から、相当なレベルで人を信用していないことが伺えます。

幸せな世界を作るという理想と、人間を信用できないこと。さらに個人に備わった強力な能力。それらが合わさるとどうなるかというと、独善的な独裁と、彼自身にのしかかる負担の増加です。

本来であればサビーノの願いはマグニフィコ王の願いと合致するはずです。サビーノの他にも人々を幸せにしたいと願う人々はいたはずです。そしてそんな願いを持った人たちと一緒に力を合わせて平和な国を作り上げることができたはずです。
ところがマグニフィコ王は幼少期のトラウマからか、かなりの人間不信になってしまっていました。
せっかく自分と意思を共にできそうな人がいても、自らの手でそれを潰してしまうのです。そうなると彼を支える人はいなくなり彼の負担は増えてしまいます。

さらにそういった「曖昧な」願いを潰してしまうことによって、残された国民の願いは「分かりやすく単純で具体的な」願いだけになってしまいます。例え平和や人の幸せを願う人がいても、その願いはマグニフィコ王に差し出され、そのまま本人の心から消えてしまうのです。結果として国民はより「自分本位」なようになってしまうのです。

人間不信と自分の理想の手助けになりそうであろう人の願いを潰してしまうことで、今度はロサス王国の政治、維持、全てが彼1人にのしかかります。
それでも国民が彼を支持している間はまだ良かったでしょう。国民たちの感謝、絶賛、それがナルシズムの強い彼の支えになっていたはずです。

こうしてマグニフィコ王は自らの手で自分自身がロサスの国そのものになります。
しかし実際のところ国民が国家に期待するのは、自分自身の生活の安全や福祉です。
そしてその国家というのは、マグニフィコ王そのものなのです。

福祉というものは個人の善意で成り立つものではありません。優しくしたからって必ずしも感謝されるとは限りません。福祉が必要とする人の精神状態などによっては全く感謝が期待できないこともままあります。福祉や慈善というものは個人の善意だけでなく、組織として、そしてシステム化されてようやくまともに運営できるのです。
ところがマグニフィコ王はそれをひとりで行おうとしてしまいます。そして感謝と崇拝という見返りを求めてしまうのです。

長年マグニフィコ王を支えていたのは自分が正しいという自負と、国民からの感謝と崇拝でした。ところがそれが自分よりも強力で人々を喜ばせる「何か」に直面したこと、そして国民から疑問を投げかけられたことにより崩壊します。

注意して欲しいのは、だったら国民はマグニフィコ王に感謝し続けるべきだったというものではありません。国民にとって、マグニフィコ王は自分が住む国の政治そのものです。国民として政治に対して疑問を投げかけるのも当然です。なので国民たちは自分の国の政治そのものであるマグニフィコ王に疑問を投げかけるのです。
そしてその状況を作り上げたのは、人間不信から自分に全てを集中させ過ぎた他でもないマグニフィコ王自身なのです。さらに先述したとおりマグニフィコ王は人の幸せを願うような曖昧な願いを奪ってしまっています。なので国民に残されるものはマグニフィコ王の言う「自分勝手な」といわれるものばかりなのです。

とはいえ国民たちはあくまでもマグニフィコ王に対して疑問を投げかけただけです。なんやかんやで国民たちは自分自身の身に危険が及ぶまでマグニフィコ王を信じて協力をしていました。しかし国民たちはマグニフィコ王の暴走によって裏切られてしまいます。

マグニフィコ王は一個人のメンタルを持った国家維持機構です。おまけに強力な魔法を使えるため、暴走すると危険な存在でもあります。
そして映画ではついに彼を支えていたものが崩壊し暴走を起こしてしまいました。
疑心暗鬼に陥り、自分を支えたものが崩壊したマグニフィコ王は止まることができません。ついに禁書にまで手を出してしまい、元に戻れなくなってしまいました。
マグニフィコ王は国民に危害を与えます。いくらマグニフィコ王の庇護のもと生活していたからといって、御乱心した国王のおかげで自分の身が危険に晒されては話は別です。国民たちがマグニフィコ王の暴走から自分の身を守るためにできることは、マグニフィコ王を倒すことです。さらにどでかい爆弾を抱えたマグニフィコ王をそのままにしておくわけにはいけません。結果として倒されたマグニフィコ王は杖の中に閉じ込められたままにするしかなかったのです。

なお、人間不信だったマグニフィコ王にとって唯一信頼できるのはアマヤ王妃だけだったのではないかと思います。国家そのものであるマグニフィコ王を支えるのはアマヤ王妃ただ1人だけです。マグニフィコ王は自分のメンタルの全てをアマヤ王妃に委ねきってしまっていました。作中では終始マグニフィコ王を宥める役目を負っているのはアマヤ王妃です。ところがそれがアマヤ王妃の負担になっていたのではないでしょうか。最初的にアマヤ王妃はマグニフィコ王を見限ってしまいます。(杖から出すわけにいかなかったというのもありますが)

マグニフィコ王が闇堕ちするのも、そして国民に倒されるのも、マグニフィコ王自身の人生やロサスという国そのものの成り立ちから考えると、当然の帰結だと思います。
見事にマグニフィコ王は自らの手で破滅への道を開拓していた訳です。
本当にマグニフィコ王のストーリーアークに関しては完璧だと思うんですよね。(反面アーシャのストーリーアークが薄い感じになったのは否めませんが…。)

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