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日記あおにさい

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写真家 工藤葵による日記
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音楽映画「A Film ''Celebration at home''」の発表によせて

「Celebration at home」とは、自宅を舞台にマリンバ奏者の野木青依が、時報の音楽(*)に合わせて即興演奏をし、写真家の工藤葵(わたし)が、その様子を記録した映像作品を1時間に1回ずつSNS上で発表する「音楽を通して生活を祝福する」インスタレーション作品です。 4月26日 7時〜24時に発表した全18篇の映像作品を再編集し、音楽映画「A Film ''Celebration at home''」として発表いたします。私は、撮影・監督を担当しました。今回、映

老人ホームの看護師 スローグッバイ

老人ホームの看護師として働く傍ら、写真・映像のお仕事、架空の酒屋「あおにさい酒店」としてイベント開催、老舗の地ビール会社「横浜ビール」と共に新成人、大学生へエールを贈る「カンパイ・ニュー・ワタシ」プロジェクトの進行、来春自費出版する「雑誌あおにさい(テーマはビールのある場所、振り返ればハレの日)」の制作などをしてきた2019年の私。 精神的な意味で「結局何がしたいのか?」を考えた1年だった。感情に訴えるような話ではなく「結局何で生きているのか?」って話だし、私のポップな「死

彼女と私の大喜利合戦

職場の老人ホーム、夜勤の記憶。 ①母乳 センサー反応にて訪室。「チビをやっと寝かしつけたんだ。」と言う彼女。とりあえず、起きたついでにトイレへ寄るか確認するも「行かね。」と。更に「おめの妹の子だろ?」「ミルクやったよ。」と言い放たれる。「いつも妹がお世話になってます。ゆっくり休んで下さい。」と伝えると「ハッハッハ!」と笑い満足されたのか臥床。 ②山菜取り センサー反応にて訪室。「ぜんまい採りに行きたいんだけど、どうすれば良いかなって…。」と。「今は夜中なので山へ行くに

光のはなし

今、生きる感覚がしっくりきている。女子高生時代、陸上に命をかけていた私を超える熱と光を持っている。それはもう、楽しくて楽しくて悔しいことばかり。青春と呼べる出来事は走ることが全てだった。走る事が好きで、跳ぶことは気持ち良い。中学まで長らく中距離を専門にしていた私は走り幅跳びに転向した。本能レベルで刻まれた助走のリズムは14歩。徐々に加速し最後の3歩で空へ舞う。瞬く間にふと身体が浮く感覚が忘れられない。これは多分、光。 己の感覚で気持ちの良い瞬間を越えていく陸上が好きだった。

慣れない化粧

80を超えたと思えない肌はツヤっとしていてシンプルに羨ましいと思った。彼女が愛用していた保湿ジェルをたっぷり染み込ませ、優しく肌に触れていく。化粧下地とファンデーションクリーム、ほんの少しピンク色の紅を合わせる。また、触れていく。今更、手が震える事も無かった。 「母はすっぴんを見せてくれなくて。」 「体調を壊して、ここ(老人ホーム)に来てからです、化粧をしていない母を見たのは。」 彼女が息を引き取るまでの数時間、共に過ごした娘さんがぽつり呟いた。そうか、知らなかったな。も

家が燃えた。

その日、私は夜勤だったので朝に急ぐ必要もなかった。何だか早くに目覚めてしまい、二度寝をする前にと携帯画面に目を落とすと札幌の友人から「若葉ちゃん大丈夫?Instagramのストーリー見たけど葵の家じゃないよね?」と連絡が。訳もわからず妹のInstagramのストーリーを見ると「家燃えた」と私の実家が確かに燃え焦げた跡。火事じゃん。突然の事に頭が追いつかないのと、POPに投稿している妹の無事とそのメンタルの強さにとりあえず笑った。後に本人に聞けば「若いからさ。」と言っていた。

物語れない生きる眩しさは。

⑴母親のはなし  高校三年生の春、母親を癌で亡くした。母親を亡くすまでの一年間、記憶は乏しくどのシーンを思い返しても色彩は薄暗い。まるで私が死んでいたかのように思う。 「母親が死んでしまう」  という漠然とした恐怖から自分を守る為、心の感度をシャットダウンしてしていた。一人で母親の見舞いに行った帰り道、母親が見たがっていた振袖をまとい二人きりになった病室。どんな顔をすれば良いのかわからなかった。  どうにか心を保とうと必死だったので、私しか見えていないし、私すら見えて

脱したいのは、あおにさい。

「あおにさい酒店は最終的にどうなりたいの?」とよく聞かれるが、答えを見つけられずにいた。その上、根が人見知りで口下手な私は、自分の活動にも関わらず納得がいく説明が中々出来ない。そういう場面で「この子気持ちはあるんだろうけど浅い…。」みたいな表情で返されてしまうこともあった。 苦手なんだよな、コミュニケーション。架空の酒屋に、ありもしない胡散臭さをプンプンさせてしまった今宵の私は「最高のビール達に申し訳ない…。」と哀しくなるのだ。 私は「あおにさい酒店」をどうしていきた

純度の高いギャルの話。

私は職場で「だから若者は〜」と言われる事がまぁ多い。そのせいか「若いね〜」と言われる事に過剰に嫌気を感じるようになっていた。 車の免許を持つ予定が無いこと。昼ごはんにカップラーメンばかり食べていること。結婚ってのがよくわからないこと。朝にシャワーを浴びて、髪を濡らしたまま出勤したこと。私のがさつな性格もあるけどさ。そして「だから若者は〜」に対して「まあ知らんし」と、ストレスになり得ることは聞き流す事で、私は何かを保っていた。 ある日、そんな調子の社会に純度の高いバ