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ワークライフバランスと能力マッチング

及川さんの「ワークライフバランスなんか考えると日本の産業は更に弱体化する」という言葉を見て、見た瞬間に思った事。

「IT業界の前提で考えてるよね?」

息を吸って吐くように仕事する人たち

ワークライフバランスという概念の前提には「無限に働き続けて居られる人は存在しない」というある種当たり前すぎるぐらい当たり前の話がある。

実はこの前提は部分的には間違っていて、一部の業界には無限に働き続けても普通に生きていられる人というのが存在する。それが最も顕著に出てくるのがIT業界であると思っている。

PCの前に無限に座って無限にプログラミングしていられる人というのは実際に存在する。
動かしている器官が殆ど手と脳しかないのだ。

ひたすら脳を駆動させ、それを画面に表現してゆく作業という物にドハマりする人が居る。
そういう人にとって「仕事」とは「呼吸」と殆ど同義であるので、ワークライフバランスとかいう謎の言葉で仕事を奪われると皆やる気を無くして海外に流出したりする。

同様の事が成立する人材というのは、多少なりともクリエイティビティを発揮する必要がある分野の仕事では実はそれなりの数が存在している。その人たちが各産業分野でトップランナーを走っている人たちであるし、または起業家と呼ばれる存在になって現在の日本経済を支えている。
かつてはそういう人達が世界に誇るメイドインジャパンの伝統を創り上げたというのも事実だったりする。

ワークライフバランスの前提

問題になるのはそういう人は「極めて少数である」という事だ。

そもそも大半の人間はクリエイティビティなんて微塵も使わないようなルーティンワークに従事しているわけだし、となればやはり仕事を無限にやり続けるなんて事は苦しくて不可能なのである。
こういった人たちの事を救済するためにワークライフバランスという概念が用意されているのだ。

つまりワークライフバランスという言葉の前提には、「ワーク」とはとても苦しいものであるという理解があるんだな。
もしも仕事が楽しくてずっとやってられるようなものだったら、そもそもワークライフバランスなんて概念は不要なのだ。

"Work as Life"の理想と現実

この前提からして覆す事が出来れば、落合陽一とかが唱えているような"Work as Life"の世界観が真の意味で実現できるだろうとは思う。

つまり仕事が楽しくて仕方がなくてストレスなんか無ければ、わざわざワークライフバランスなんていう概念を持ち出して生活中で「仕事によるストレスを調整しましょうね」なんて意味わからん事を言いだす必要は無いのである。

それが可能にならないのは何故かと言うと、人材マッチングの技術が未だに不完全で未完成な物であるからだ。

個々人それぞれに「私はこういう仕事がしたい」と思ってはいても、「こういう仕事をしてくれる人を募集します」という企業をそのまま見つける事は難しい。実際その仕事に就いてみたら能力的に付いていけなくて寧ろ苦しいという事だってあり得る。

「やりたい仕事が有る人材」を、「やってほしい仕事が有る企業」と結び付けて、しかも実際に能力的にもワークさせるという事は容易ではない。

原始労働社会の夢

"Work as Life"という話を聞くたびに思うのは、ある意味ではそれは「原始社会への回帰」なのではないかという事だ。

遥か昔、文明がここまで発達する前の時代には、人はそれぞれ自分の能力的に得意とする事を勝手に見つけて、それを使って集団生活の中で集弾の生産性に寄与する事で社会に貢献していた。

それは就活して決めていた訳でもないし、企業からの業務命令で自分の担当する業務を決定していたわけでもない。
純粋に自分のやりたい事と、集団の中における能力的問題として処理していたのだ。

「俺はマンモスを狩りに行くぜ!」と思っていても、身体が弱くて弓矢を作る方が得意だったかもしれない。その逆もまたしかり。
能力が有る者がその能力によって誰かの役に立つことのみが承認され、個々人もまたそれによって社会的達成感を得てゆく。

そういう世界観に物凄く似た話をしているような気がするんだ。

それは確かに何というか、人が「やりがいのある仕事」みたいな訳の分からない幻想で悩む事が無い分非常に良い世界観だなとも思う。

ただ、それが生産性の向上につながるのかと言うと、それはそれで別問題のような気がする。

個々人が自分の能力によって何事かを自由にやれる世界というのは、確かに自由度は非常に高いけど、カネになる世界ではないと思うのだ。

色々な情報が溢れかえって楽しいかもしれないが、それが金銭的価値を生み出して生産性を高めるのかどうかという話は別次元の問題だと思う。

凡人のためのワークライフバランス

多分、社会のごく少数のド天才たちにとってはワークライフバランスなんて概念はクソの役にも立たんクソ邪魔概念なんだと思うけど、大多数の凡人にとっては極めて重要な事なのである。

それは何故かと言えば、自分にはどのような能力が宿っているのかは自分自身でもよく分からないし、どのような場所で働くのがベストマッチングなのかすら殆ど分からないからである。

それがAIか何かを使って全部明瞭に判別できるようになる時代が来ればワークライフバランスなんて概念は廃止して良いと思うけど、それまでの過渡期には必ず必要になる考え方なんだと私は思う。

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