日本女性の上昇婚志向

 前回のnoteでは、「男性のつらさ」の原因として女性が男性に経済力を高望みすることにより性役割から降りられないことがあるため女性の意識改革(女性が自立心をもち男性に経済力を高望みしないこと)が必要だと提案した。

 ところが、女性が男性に経済的に高望みしていること自体を認めなかったり、高望みには合理性がある(「本能だから」、「賃金格差があるから」など)という批判的な意見がたくさんあった。

 そこで今回のnoteでは「日本の女性は男性に非合理的な高望みをしているのかどうか」について検討していきたい。

 本noteの結論は「日本の女性は非合理的な高望みをしており、女性が意識改革をすることで男女双方の幸福につながる」というものである。

0.上昇婚とは
1.上昇婚は存在するか
  (1)大卒女性は大卒未満の男性を選ばない
  (2)女性は学歴が高まると結婚相手に求める条件が厳しくなる
 ⇒上昇婚は存在する
2.日本女性の上昇婚志向は”高望み”なのか
  (1)日本女性の上昇婚志向は世界的にみて強い
  (2)男女の賃金格差は改善したのに上昇婚志向が強まった
  (3)現在、女性が求める年収水準の男性はほとんどいない
 ⇒日本女性の上昇婚志向は"高望み"である。
3.女性の"高望み"が男女関係のミスマッチングを引き起こす
4."高望み"を認識することが幸福への第一歩
  (1)女性:博打を打つより確実な利益を獲ろう
  (2)男性:未婚男性は九州に行こう
5.フェミニズムは誰も幸せにしない

上昇婚とは

 女性の高望みについて分析するためには「上昇婚」という概念を用いるのが有効である。

 現代日本の上昇婚問題の先駆者である赤川学(2016)によると、「上昇婚」とは「(女性が)自分よりも経済的・社会的に有利な立場をもつと期待される男性との結婚を求める傾向」である。したがって上昇婚を数的に測定するためには「学歴」や「収入」という変数を用いることになる。本記事でもこの定義をもとに分析をする。

 なお本noteではこの上昇婚の傾向が非合理的に高まっている状態を「高望み」と表現している。

上昇婚は存在するか

 まずは、日本における上昇婚の有無について検討する。「上昇婚があるのは当たり前だ」と思う人もいるかもしれない。しかし今回のnoteを書く前の下調べで「上昇婚」という言葉をGoogle検索にかけると「上昇婚なんて存在しない!」という主張のブログがたくさん出てきた。そこでまずは事実確認をしておきたい。

【上昇婚は存在する①】大卒女性は大卒未満の男性を選ばない

 「出生動向基本調査・夫婦調査」(2015年)によると、大卒以上の女性は、大卒未満の男性を選ばない。

 夫婦の学歴の組み合わせをみると「女性計」では「配偶者が大卒未満」は56.9%であるが、「女性・大卒以上」だと「配偶者が大卒未満」が23.0%になる。一方「男性計」では「配偶者が大卒未満」は76.9%であるが、「男性・大卒以上」だと「配偶者が大卒未満」が59.0%になる。「大卒以上」になると「配偶者が大卒未満」の比率が低くなるという傾向は男女共通だが、低くなる程度が、女性(33.9%減)は男性(17.9%減)よりもかなり大きいのである。

【上昇婚は存在する②】女性は学歴が高まると結婚相手に求める条件が厳しくなる

 「出生動向基本調査・独身者調査」(2015年)によると、女性は学歴が高まると結婚相手に求める条件が厳しくなる。

 「結婚相手に求める条件(重視)」について「大卒以上」と「高卒」で比較すると、「高卒」よりも「大卒以上」の方が条件が厳しくなる傾向は男女共通だが、「男性」よりも「女性」の方がその傾向が強い(増加率の合計は女性>男性であるため)。また項目ごとの違いでは、女性は「学歴」「職業」「経済力」など経済的価値に関わる項目が厳しくなるのに対して、男性は「趣味」「人柄」など精神的価値に関わる項目が厳しくなる。

結論:上昇婚は存在する

 ここまでをまとめると、以下の2点の事実が確認できる。

①大卒女性は大卒未満の男性を選ばない
②女性は学歴が高まると結婚相手に求める条件が厳しくなる

 つまり、上昇婚は存在するのである。

日本女性の上昇婚志向は"高望み"なのか

 さて、ここからが本題である。ここからは「日本女性の上昇婚志向は非合理的な"高望み"なのかどうか」という点について検討していきたい。まずは、反対論の論拠の弱さから指摘しておきたい。

①「女性の上昇婚志向は本能なのだから仕方ない」

 上昇婚志向が本能であること自体は否定しない。上昇婚志向は日本以外の様々な国でもみられるし、日本国内においても東京でも地方でもみられる普遍性の高い女性の傾向だからだ。しかし、本能だからといって「仕方ない」と許容すべきかどうかは程度によるだろう。日本は男女平等を志向する先進国である以上、過度な上昇婚志向は性役割の維持・強化につながるため是正するのが政治的に正しいからだ。

②「賃金格差がある女性差別的な社会では男性に経済力を求めるのは仕方ない」

 男女の賃金格差の多くは女性が自分よりも経済力の高い男性と結婚した後に夫婦合意のもと女性の方が就業調整をすることによって生じる。この場合差別ではなく合意によって生じる格差であるし、経済力の高い男性を選択した"後に"賃金格差が発生するという時間的順序なので「賃金格差が原因で女性が男性に経済力を求める」という因果関係は成り立たない。

【高望みである理由①】日本女性の上昇婚志向は世界的にみて強い

 ISSP(2012)によると、日本は世界的にみて女性が自分よりも低い学歴の男性を選択しない傾向が強い。25〜54歳の大卒以上の女性が大卒未満の配偶者を選択する比率(下方婚率)は、日本は先進13か国中10位と下位であった。

 また、同じくISSP(2012)では、日本は世界的にみて女性が経済力によって男性を選別する度合いが強い。「既婚男性と未婚男性の年収の差」をみることで上昇婚の説明要素の一つである「結婚相手の選別で経済力がどれほど重視されていたのか」をみることができる。「既婚男性と未婚男性の年収の差」は日本は先進24か国中2位であった。

 以上のように、日本は世界的にみて「女性が自分よりも低い学歴の男性を選択しない」「女性が経済力によって男性を選別する」度合いが強い、つまり上昇婚志向が強い国だといえる。男女平等を志向する先進国として「本能だから仕方ない」では済まされないだろう。

【高望みである理由②】男女の賃金格差は改善したのに上昇婚志向が強まった

 たしかに世界的にみて日本の女性は上昇婚志向が強い。しかし「賃金格差がある女性差別的な社会では男性に経済力を求めるのは仕方ないのではないか」という反論があるだろう。しかし、これをみてほしい。

 日本では1997年から2015年にかけて男女の賃金格差は9.1ポイント改善したのに女性が結婚相手に「経済力」を重視する比率は6.3%高まったのである。常識的に考えれば「女性が経済力をつけたならば、男性に経済力を依存しようとしなくなる」と思うだろう。しかし実際は逆の動きが起きたのである。つまり「賃金格差があるから上昇婚志向になる」という主張は事実ではないどころか、むしろ逆に「賃金格差の改善が上昇婚志向を強める」と解釈できるような結果になってしまっているのである。

【高望みである理由③】現在、女性が求める年収水準の男性はほとんどいない

 現在、女性が男性に求めている年収の水準は現実的なのだろうか。内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」(2018年)によると、7割強の未婚女性(20~49歳)が男性に求める年収として年収400万円以上を望んでいるのに対して、それを満たす未婚男性(20~49歳)は3割弱しかいない。つまり、女性が求める年収水準の男性はほとんどおらず、現実離れした期待なのである。

結論:日本女性の上昇婚志向は"高望み"である。

 さて、ここまでをまとめると、以下の3点の事実が確認できる。

①日本女性の上昇婚志向は世界的にみて強い
②男女の賃金格差は改善したのに上昇婚志向が強まった
③現在、女性が求める年収水準の男性はほとんどいない

 つまり、日本の女性の上昇婚志向は非合理的な"高望み"なのである。

女性の"高望み"が男女関係のミスマッチングを引き起こす

 日本において女性の高望み傾向が進んだ時期に男女関係に関する様々な指標が落ち込んだ。

 「出生動向基本調査・独身者調査」(2015年)の「結婚相手の条件で重視する点」をみると1997年から2015年にかけて、未婚女性の「学歴」「職業」「経済力」が上昇しており、高望み傾向が進んでいる。

 この高望み傾向が進んだ時期(1997年→2015年)の「未婚率」(35~39歳)、「交際している異性はいない率」(20~24歳)、「性交未経験率」(20~24歳)の推移をみると、すべて抑制方向にむかった。

 以上から女性の高望みによって男女関係のミスマッチングが起こっていることが推測できる。高望みは人口再生産にとってもマイナスなのである。

"高望み"を認識することが幸福への第一歩

 日本の女性が高望みをすることは本人のせいばかりにはできない。なぜなら成熟社会においては本人が「普通」だと考えていた豊かさへの期待が知らず知らずのうちに「高望み」になっているということがおこりやすいからだ。

 親との会話、親が用意した生活水準・教育水準を経験することで、私たちは無意識的に親世代の豊かさの感覚を共有する。

 例えば、2018年の20~30代の親世代は、20代に高度経済成長やバブル景気をむかえ日本のGDPは5%以上の水準で成長し続けた。また当時は共働きよりも専業主婦が多数派だった。その当時の感覚を少なからず持ち越している。

 親世代の「経済は成長するものだ」「専業主婦という生き方もある」という感覚が子に継承されているのだとしたら、経済が低迷していく時代では、今まで「普通」だと考えていたことが「高望み」になっていたとしても不思議ではない。特に近年は親子関係が親密化しておりこのような”継承”の度合いは強くなるだろう。また就職氷河期やリーマンショックなど「厳しい現実」を経験する機会が少なかった20代では特に「高望み」を修正する機会が少ないだろう。

 そのようなバイアスを理解し高望みを認識することが幸福への第一歩だといえよう。

【高望みを超えて:女性編】博打を打つより確実な利益を獲ろう

 では今後女性が幸せになるためにはどのような行動をとるのが適応的だろうか。「出生動向基本調査・独身者調査」(2015年)では、未婚女性の年齢が高いほど「理想の相手を待つ」と回答する比率が高い。男性にも同様の傾向があるが、女性の方が顕著である。つまり女性は高望みをするほど、未婚になってしまう確率が高まるのである。

 未婚であるよりも既婚である方が幸福度が高いのは男女共通である。未婚になるかもしれない博打(高望み=高年収男性探し)を打つよりも確実な利益(既婚になる)を獲りにいくほうが賢明なのではないだろうか。

 「高望み(=高年収男性探し)をしない」ということは「魅力的ではない男性を選ぶ」ということを意味しない。確かに男性において「高年収であるほど人間的に魅力的である」という経験則があるかもしれない。しかし日本型雇用慣行が崩壊し非正規化が進んだ結果、もしバブル崩壊以前の社会経済環境に生まれていたなら高給を稼げていたはずであろう「人間的に魅力的な男性」が、現在の非高年収の未婚層に多く含まれているはずである。年収にこだわらずそのような男性を選べば、仕事も、家事・育児も、協力し合って幸せな家庭を築いていけるのではなかろうか。

【高望みを超えて:男性編】未婚男性は九州に行こう

 次に今後男性が幸せになるためにはどのような行動をとるのが適応的だろうか。婚活市場において選ばれる側の男性の適応行動は女性のニーズによって規定される。ここでは女性が高望みをやめなかった場合の婚活戦略を2つ紹介しよう。(婚活市場から撤退する場合の方法(男性同士のコミュニティ構築、現実逃避)については前回のnoteに書いた)

 一つは、女性が期待する性役割を満たそうと努力することである。しかし前回のnoteで述べたように、現在の社会経済状況では女性が期待する性役割を満たそうとすることは「男性のつらさ」につながりやすい。日本型雇用慣行が崩壊しており高年収の座をめぐる競争の難易度が増しているからだ。

 もう一つは、社会移動をすることである。以下のグラフをみてほしい。男性35~39歳の東京と九州の未婚率と年収構成比である。東京も九州も、年収が低いほど未婚率が高まるという上昇婚の傾向があることは共通している。しかし九州は東京よりも未婚率が低い。これは九州には高望み傾向が低くなる何らかの要因があるからだろう。

 仮説ではあるが、年収分布の形態がそれだと考える。東京では様々な年収階層に分散しているのに対して、九州では200~299万円に集中している。つまり「もしかしたら高年収男性が探せるかもしれない」という期待が持てる東京では女性は年収条件を妥協しにくいのに対して、「高年収男性なんていない」という諦めがある九州では妥協がしやすいのではなかろうか。

 もちろんすべての男性が九州に行くべきだとは思わない。若い時期に自分の能力を試すために東京に行くことは社会の活力になるし、東京で成功した人は居続けても幸福になれるからだ。

 しかし東京で十分な結果が出せず、周囲の人たちの「輝き」をみてつらくなってしてしまう人は九州で配偶者をみつけ幸福になるという生き方もあるのではないか。

フェミニズムは誰も幸せにしない

 近年フェミニズムが主張していることは、女性の高望みを維持・強化し、男女のミスマッチングを促進し、幸福度の低い未婚者を増やしているのではなかろうか。

 フェミニズムの言説では未婚化・少子化の原因を、女性の幅広い子育てニーズを満たせていない社会の責任にする。女性が結婚相手に高年収男性を選んだとしても、子育てで、肉体的負担も少なく、経済的負担も少なく、自由時間も確保しながら、周囲が温かくサポートしてくれ、仕事で自己実現もしながら…など、多くのことを社会を期待するのである。

 経済成長が横ばいで歳入が大幅に増加する見通しもなく、増加する高齢者の社会保障費に歳出が優先される財政状況の中で、女性にこのような非現実的な期待を抱かせるのは適切なのだろうか。

 それよりも女性が現在の社会経済状況を踏まえて高望みを認識、修正し、男女で仕事、家事・育児をシェアし合っていく方がより多くの人を幸福にするのではなかろうか。

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202

すもも

男性社会の幸福な女性たち

日本は「男性社会」だといわれるが、女性の幸福度は高い。なぜそのようなことが起こるのか。
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コメント11件

社会学者も感じるところがあるのか、似た議論を展開している方もおられるようで。
下のリンク先の記事、まさに白饅頭氏の議論を一部先取りするかのように2014年の日付で出ているのが奇跡的です。


‪働く女性が〈子どもを産む自由〉を得られる日は来るのか?――社会学者・水無田気流インタビュー https://www.huffingtonpost.jp/planets/woman-baby_b_5314579.html?ncid=other_twitter_cooo9wqtham&utm_campaign=share_twitter
「相手に高望みをしている」というより、「自分を安売りしなくなった」の方が現実に近いと思う。
経済力のなかった昭和の女たちは理想的な相手でなくても多少のことは目をつぶって結婚しなければ生きていけなかったが、経済力を手にした現在の女たちは「理想的な相手が現れないなら、別に結婚しなくてもいい」と考える者が増えたのだろう。
結婚の最大のトリガーは子どもを作ることだが、高齢者に手厚く子育て支援の薄い今の政治環境下では、経済力のない相手と結婚することは「子育てに金をかけられない」ということ。経済的中間層以上で育った女性は大抵、自分が育ったのと同等かそれ以上の環境を子どもに用意してあげられないのなら子供を作りたくない(=結婚する意味ない)と考える。自身の収入だけでそれを達成できるほどの高収入を出産適齢期までに叩き出している女性は圧倒的少数だ。
結局、低収入でも結婚させたいと思うのなら、子育て支援・夫婦優遇(税制とか)をメチャ厚くするのが一番なのでは。
力作お疲れさまでした。個人的にはおっさんのせいか、もう少し先の事を考えてしまいます。ひきこもりに関しては男性が多いと言われますが、少しマイルド(?)なニート=独身無業者に関してはなかなか良い資料がないのですが内閣府のH17青少年の就労に関する研究調査によると2002年段階でわずかながら女性が多く、かつ1990年代を通じて女性の割合がわずかながら増えているようです。そしてパラサイトシングルで経済的に自立できていない、と言った人に関しては更に女性の比率は上がっていくと思います。そしてパラサイトシングルが言われだした頃の若者世代が大体50代に突入していることを考えると今後、結婚と言う枠組みにも、雇用と言う枠組みにも入らず親元でモラトリアムを過ごした元「若い女性」達がどうなっていくかと言うのは大きな社会的なリスクのように思います。
http://blog.livedoor.jp/brothertom/archives/74869947.html
すでにコメントで指摘されていますが数値から読み取れる状況の分析としてはほぼ正しくても因果関係の読み解き方、そこから来る心理的な分析に我田引水の感がありますね。
定量的でない情報を含めて考察とかされると説得力が増すのでは。
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