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恩師・片山恒夫との出会い #4

 片山恒夫(1910~2006)という開業歯科医が居たことを知っている人など、今や皆無だろう。
明治43年生まれ、大阪府豊中市の開業歯科医で、重症歯周病の歯を抜かずに治す名人として有名だった。
ここでは、経歴などは省略するが、「日本初」を幾つも実践してきた人だ。
少々長くなるが、私が歯科臨床の全てを教わった恩師・片山恒夫との出会いについて、記録しておきたい。

片山恒夫・医博

 片山恒夫のことを知ったのは、大学6年生の頃。
朝日新聞の連載「歯無しにならない話」が世間を騒がせていた。
大阪に「歯ブラシひとつで重傷歯周病の歯を抜かずに治してしまう凄腕歯科医が居る。」

 当時、我が母校・日本歯科大学新潟歯学部には、歯周治療科が開設されて間もない頃。
教科書は、たった45ページのモノクロで文字だけのペラペラのテキスト。
「歯周治療の要点」
もう一つ、渡された教授の著書は「臨床抜歯学」だ。

ペラペラのテキスト

これが私の歯周病治療の入口だった。
「臨床抜歯学」って何だ?
歯の抜き方を教えるのが歯周治療学なのか?
臨床のイロハも分からない学生ながら、どうも腑に落ちない。

一方世間は「ブラッシングで重症歯周病を治す名人がいる」という話題で喧しい。
「俄に信じられないが、朝日新聞が大きく伝えているんだし、本当なんだろうな」
当時、歯周病治療に関する文献は少なく、欧米に倣った外科手術を主体とする治療法が流行していた。

 そんな学生時代、忘れられない口腔外科インストラクターの一言が、
「世間では、片山なにがしとかいう大阪の歯医者が話題になっているが、
未来ある君たちは、あんな街の入れ歯師の様になってはいけないよ」
「街の入れ歯師」・・・チョット心に火が点いた。

大学卒業直後の昭和59年(1984年)の春
「片山恒夫先生に臨床を聞く会」@大磯アカデミーハウスに参加した。
いわゆる片山セミナーだ。
まだ手元に歯科医師免許証が届く前のこと。

そこで見た膨大な数の症例写真は、大学で学んだ歯周病治療と大きく異なっていた。
余談だが、学生時代、歯周治療学の試験で、ブラッシングについての設問があった。
「歯周病に対するブラッシングには、
治療のためのブラッシングと予防のためのブラッシングがある」
とタイトルを付けて、小論文形式で解答したところ、見事に赤点を頂戴した。
教授から「治療の為のブラッシングなんて教えていない。」
と一喝された。
この日、大磯で目の前に展開される症例スライドを見て、
私の答案は否定されていない、少なくとも赤点ではないな、と確信した瞬間だった。

初診時に抜けそうだった歯が、10年、20年、30年、それ以上に残っている。
それだけでなく、年年歳歳キレイになっているのだ。
当時、新米歯科医師には「キレイ」と映った歯や歯肉、入れ歯など。
後で気づくのだが、キレイ=健康度が上がっているということなのだ。
そう、年々良くなっているのだ。
そのために必要なことは、「臨床抜歯学」ではなく、生活習慣の改善を主体とした歯科治療であるということを教えられた。

セミナーのスライド写真集より

片山方式のアウトラインを簡単に言うと
「歯槽膿漏‐抜かずに治す」のまえがきに書かれている通り

・・・患者さんが「丹念に歯を磨く」「歯の実力に合わせてよく噛む」「従来の生活の改善」などを、医師の指示に応じて実践する。
同時に医師は取り敢えず「歯の安静を保つ処置」をした後、治り方に応じて「回復の活性を図る上下のかみ合わせ」を実現、「仮義歯(治療義歯)を使って、歯周病の歯を治してゆく」などの工夫をします。・・・

ということになる。

詳細は追々テーマを毎にお話ししていこうと思う。
今回は、片山との出会いについてのお話に止める。

昭和61年(1986年)1月、籾山歯科医院を開業し、その直後から、春と秋の年2回・計4日間の片山セミナーに度々参加する様になる。
大磯、京都、箱根と会場を変え、ストーカーの様に追っかけた。

「同じセミナーに何で何回も参加するの?」

開業して、偉そうに「院長先生」などと呼ばれるようになっても、片山の前では、何も出来ない私、何も知らない私、を思い知らされる。
そして、何とかあの爺さんに笑われないようになりたい一心で参加を続けた。

平成4年3月8日から数年間
大阪府豊中市岡町の片山歯科研究所で、直接片山から指導を受ける機会に恵まれ、研究員として活動。
毎月豊中まで通う事となる。

片山歯科研究所の入り口で

指導や講義といっても、毎回「お説教」の連続だが、歯周病学会や口腔衛生学会、公衆衛生学会等の学会活動や
企業健診などを通して、「街の入れ歯師」にとって貴重な経験を積ませていただいた。

研究所での研修風景

その後のエピソードについては、片山方式の実際や臨床ケースを通して、色々お話していきたい。
そんじゃあ、また。


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