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映画「海獣の子供」の構造を図解する

映画「海獣の子供」を見ました。
すごく良かったです。
原作知らない人も、原作好きな人も
揺さぶってくれる映画だと思います。

カーニバルのシーンなど
ちょっと難解に見えるシーンもあるので
これから見る人向けに自分なりの仮説をもとに図解してみます。
(以下、ネタバレが気になる人は見ないでください。)

原作について

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原作は、五十嵐大介のマンガです。
ボールペンによって緻密に描かれた作画と
壮大な世界観やストーリーが特徴の作家です。
僕も原作ファンだったので本当に長編映画になるのかな?と半信半疑でした。
なんたって作画のハードルがやばそうなので。

五十嵐大介の作画風景は「漫勉」を参考に。

物語の構造を図解する

映画版の物語の構造を図解してみます。
原作との差異は、海くんと空くんを追いかける琉花(るか)視点の物語にして、
それ以外を大胆にカットしている点です。
この演出は成功していると思います。

主な登場人物

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映画版の主な登場人物は
空くん、海くん、そして主人公の琉花です。

海くんと空くんはジュゴンに育てられた少年で、
「海の子供」と呼ばれる謎の種族です。
人智を超えた存在として「特異点」と定義します。

映画版の主人公の琉花は
海の子供、カーニバルなどの神秘現象と人間世界との中間的なポジションです。
巫女のような立ち位置で「中間者」と定義します。
中間者ゆえに人間世界では浮いています。
能力が高いのですが、周りがついてこれない。
自分が感じている世界が周りと共有できないことに苛立っています。
だからこそ特異点の2人に惹かれるのですが
特異点にはなれない存在です。
あくまで特異点の2人と僕らをつなげる存在です。

映画の大きな構造

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①隕石が海に落下することから「カーニバル」という現象が起こる。
②それを海くんと空くんが追いかける。2人を琉花が追いかける。
③海くんと空くんが見た世界を琉花を通して観客は見る。
④琉花が2人の少年を追いかけていくことで世界の秘密がわかる。
という構造になっています。

隕石の意味①

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この物語の隕石とは=生命の種=精子です。
隕石を持っていると魚や海洋生物が群がってきます。

海の意味

この物語の海とは=生命の海=子宮です。
その象徴として、お腹に白い女神が描かれたクジラが登場します。
これは海母神です。
このクジラに隕石を腹に宿した琉花は飲み込まれます。

カーニバルの意味

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カーニバルとは、
天と海をつなぐ生命の交配、生命の誕生祭です。
隕石を受け継いだ琉花も海母神の腹のなかで受胎します。

隕石の意味②

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さらに隕石にはカーニバルにゲストとして参加するチケットの意味があります。
ゲストは隕石を取られないうように飲み込みますが、、、

隕石を飲み込んだ者は
肉体が超細かい粒子になり、世界に溶け込んでいきます。
体内でリトルビックバンみたいな現象が起こります。
細かい粒子になることで、カーニバルに集まった魚たちが自分の粒子に群がって食べていきます。
自分の肉体が他の生き物の地肉になって世界に溶け込む、世界の一部になるというのはとても東洋思想的な発想です。

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カーニバルで起こったこと

①空くんから隕石を受け継いで飲み込んでしまう琉花。
②クジラの神様の腹の中に飲み込まれる琉花。
③クジラの腹の中=涅槃の世界を彷徨う琉花。
④クジラの腹の中で受胎する琉花。カーニバルの始まり。
⑤クジラの腹のなかで隕石を海くんに奪われる琉花。
⑥琉花から隕石を奪った海くんがカーニバルのゲストになった。
⑦海くんの肉体が細い粒子になり、世界に溶け込んでいく。
⑧海くんの細胞に群がり、食べる魚たち。
⑨海くんは世界と一体化して世界の記憶の一部になった。
⑩海くんの記憶は風や海を伝わって世界中を旅する。

カーニバルのスタートシーンは
宇多丸さんのラジオでも言及がありましたが「2001年宇宙の旅」っぽいですね。
カーニバル=天(宇宙)からの招待なんでしょうか。

クジラの腹の中で空くんらしきシルエットの人から
「これは誰かの記憶だ」というシーンがある通り、
過去にもカーニバルで世界と一体化した人が複数いるようです。

図解したわけ

ここまでが物語の構造の話です。なんでこんなことをやったかというと、図解するの面白そうだなと思ったのと、カーニバルとは?というところが鑑賞の壁になってしまうかも?と思ったからです。

図解することでより多くの人が海獣の子供をナチュラルに
楽しんでほしいなという思いがありました。
あくまで巣内の仮説なので、解釈は見た人の数だけあると思ってます。

映画の魅力

じゃあここからは、駆け足で映画の魅力の話をします。

・水のエフェクト
・水の音
・海洋生物の描写
・美しい美術
・美しい音楽
・五十嵐大介のスケールの大きい幻想的な世界

すごくざっくり言うと
これらのオーケストラを感覚的に揺さぶられるレベルで観れる作品。

海獣の子供は、とことん目と耳で体感する映画になっています。
原作で「大切なことは人に言わないほうがいい」というセリフがあるんですが
この映画はすごいものを見て、体感して、
「おおお!」と言語化できないもの、言葉にならないものを得る映画なんです。
これまで話してきた構造や設定の話は
それを楽しむためのお膳たてなんです。
ぜひ映画館で見てほしいです。

スタッフ視点で紹介すると、

キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一

・ホーホケキョとなりの山田くん
・かぐや姫の物語
という長編アニメの技術革新をした作品の作画監督を務めた人。

五十嵐大介の世界をアニメにするというハードルも
この人なら、、と思ってしまった。
かぐや姫の制作の終わった2013年からスタッフインしたそうです。

ちょっと凄すぎる作画。



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原作のキャラクターの線をどの程度、踏襲するのかも気になってました。
再現性の難易度が非常に高そうと思えるところと、
長編アニメは大勢のスタッフで作るので複雑にしすぎると
クオリティコントロールが難しい。
デフォルメしつつも原作らしさをかなり残しているデザインだと思った。
原作ファンとして違和感なかったです。

美術監督:木村真二

・スチームボーイ
・鉄コン筋クリート
の美術監督を務めた人。
しかもピピラくんの監督もやってるwすげえ。

五十嵐大介のマンガは背景が主人公と
五十嵐大介も言ってる通り作画同様のハードルです。
木村さんの画集買います。

CGI監督:秋本賢一郎

監督と作画監督にメチャ揉まれたそうです。
作画や美術のクオリティがすごすぎて、
何度もリテイクを繰り返しながら、CGの制作システムも変えながら
食いついていったストーリーは、ぜひパンフを買って読んで頂ければ。
CGをエフェクトではなく、アニメーションと一体化するように研鑽していったそうです。

音楽:久石譲

宮崎駿さんとのコンビで有名ですが、
高畑勲監督の「かぐや姫の物語」でも音楽を担当しております。
かぐやの音楽は、没入型ではなく引いた視線で作られました。
海獣の子供にの音楽にも通じてるなと思いました。


スタッフが豪華すぎて凄いですね。メインスタッフは原作ファンが多かった層でだそうで、余計高いハードルを設定したようです。
また映画館で見たいw

まだ間に合う、見てない人はぜひ映画館で^^



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