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「愛の不時着」考察/2020年のプリンセス物語<ヒロイン編>

最近Netflixオリジナルドラマの「愛の不時着」にはまっていた。Netflixはユニークで面白い作品が多いが、その中でも「愛の不時着」は少し特異な感じがする。改めてこの作品の何が面白いのか考えてみたいと思う。

以下、ネタバレ多数なので嫌な人はそっとnoteを閉じて頂きたい。

前回はドラマの設定や世界観づくりから、なぜこの作品がラブコメ的に美味しいか論じてきた。
今回はプリンセス物語としての愛の不時着を語ってみたい。


結論

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本作は、ディズニープリンセスの流れを組む、その2020年版の世界標準を見事に打ち立てた作品である。これから女性主人公を作るコンテンツ業界の人たちは、ベンチマークとして本作を考えないとユーザーにフィットするものは作れないだろう。

商業的にも、社会的にも主人公像を作り上げることが複雑化、難しい時代になっていると思う。前回「ラブコメを作るのが難しい時代」と書いたのも携帯電話のようなテクノロジー普及の問題だけでなく、主人公の構築が難しくなっているのも要因だと思う。

では、愛の不時着はどういう主人公を作ったのか?
ここをこれから語っていきたい。


主人公は経営者

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主人公のユン・セリは財閥の令嬢で、大企業の経営者でもある。
韓国社会の中でのセレブであり、成功者である。
マッチョなビジネスマンなので、韓国においては1人で生きていける人物だ。
起業家が世界的に見ても元気がよく、若い経営者が活躍する社会のトレンドの中でこの主人公に感情移入できる「働きすぎた女子」は多いだろう。

猛烈な競争、性差別、ステレオタイプ。様々な抑圧やストレスの頂点を勝ち抜いたタフな主人公がユン・セリだ。正直強い。
このタフな主人公が北朝鮮に不時着することで、韓国で無双していた時の地位、財力、権力が無効化される。無効化されることで王子様をようやく必要な状態になる。

「持ちすぎた主人公」が多い作今の中で、いったん全部捨てる。ゼロから積み上げる主人公にしたのはとてもエポックメイキングだ。東のエデンの滝沢にも通じる発明である。

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ディズニー・プリンセス問題

本作は、ディズニープリンセスの流れを組むプリンセス物語だと思う。
それは様々な女性主人公の模索の歴史でもあるが、ここでプリンセス問題を取り上げてみる。

古典的なプリンセス問題の根っこは、王子様を待っているだけの守られる存在への反感である。常にその批評や批判の矢面に立ちながら作品を作り続けてきたのがディズニーである。

例えば1960年に公開された「眠れる森の美女」はアニメーション作品としてはディズニーの円熟期の傑作として名高いが、プリンセスの描き方としては非常に批判の多い作品だ。

主人公は王族としてのマネジメントを学ぶわけでもなく、十数年の間を箱入り娘的に育てられる。王国のピンチの時も寝ており、寝ている間に王子が問題を解決してくれるという自立性が不在の物語である。
「Sleeping Beauty」だからしょうがないんだけど(笑)
僕は「眠れる森の美女」はアニメーション映画としては大好きである。
デザインも動きも完成度が高すぎで、いつ見てもうっとりする。
大好きなんだけど、プリンセス像としてはとてもドメスティックと言える。

BuzzFeedで面白い記事があったのでこちらも参照いただきたい。

近年のディズニーヒロインのヒットコンテンツは「アナ雪」である。
「眠れる森の美女」のオーロラと比べると、エルサは非常に複雑なキャラクターだ。エルサから分かることは、現代も女子は非常に我慢を強いられている、ということだ。その共感を増幅する装置として「Let It Go(ありのままに)」の主題歌がある。

物語の中でエルサは恋人をゲットするわけでもなく、感情の回復、自分の解放で自立していく。プリンセスものなんだけど、王子の不在というところまでディズニーは来てしまったのだ。

では、ユン・セリはどんなプリンセスだろう?


愛の不時着のプリンセス像

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「北朝鮮で無力化して、ようやく王子様を必要とした」と書いたが、
ユン・セリは、100%相手に守られている存在ではない。
彼女がすごいのは経営者としての才覚を応用してピンチを脱する点にある。巧みに交渉して自分の有利な展開になるように仕向ける話術と胆力はさすが。これは彼女が子供の頃から自分で状況を打破してきた突破者だからである。

北朝鮮を脱出して韓国に生還するというミッションもリ・ジョンヒョク任せではなく、2人で協力しながら一緒に達成していくという構造になっている。
本作の面白さは、無力化した主人公が1から北朝鮮で関係性を積み上げて状況を打破する所にもある。ただのお姫様ものでもないのだ。

ユン・セリが不時着後、気づいた自分に大事なことをまとめてみた。

・心のこもったご飯
・暖かい家
・十分な睡眠
・時間に余裕をもてる心
・自分を気にかけてくれる仲間
・最愛の人
・自分が打ち込める仕事

ここで言う恋愛やパートナーの存在は大事のことの一つに過ぎない。
こういった女性の主人公の恋愛との距離感は「凪のお暇」よろしく、近年アップデートされている。
自分らしいライフスタイルや自立を軸に、その人らしい要素を複数持っているという点がポイントだ。

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まとめ

愛の不時着の主人公像は、ディズニーや韓流のコンテンツが紡いできたヒロインの結晶である。

あえて「プリンセス」という名称を使っているのは下記からである。

・主人公が財閥の令嬢=貴人であること。
・同じく貴人のプリンスとのラブロマンスであること。
・2020年の最新のヒロイン像としてベンチマークになりうること。

ステレオタイプや共同幻想から脱却した多様なヒロイン像を作れることを今後のコンテンツに期待したい。
引き続き、残りの2つも考えていきたい。

・理想的な男の子像の確立。
・愛の不時着の謎

締めは「10cm」

次回もお楽しみに^^


#愛の不時着 #ラブコメ #理想の男子像 #新しいプリンセス物語  






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