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「愛の不時着」考察/僕らが見たかったラブコメはここにあった<設定編>

最近Netflixオリジナルドラマの「愛の不時着」にはまっていた。Netflixはユニークで面白い作品が多いが、その中でも「愛の不時着」は少し特異な感じがする。改めてこの作品の何が面白いのか考えてみたいと思う。

以下、ネタバレ多数なので嫌な人はそっとnoteを閉じて頂きたい。

あらすじ
主人公は、韓国の事業家の女社長のユン・セリ。
趣味のパラグラダーで飛行していたが、突然の竜巻に巻き込まれてしまう。森の木に衝突したものの、不時着したのは非武装地帯を越境した北朝鮮だった。そこで朝鮮人民軍軍人のリ・ジョンヒョクと出会う。
はじめて見る北朝鮮の村の生活。
徐々に心惹かれれていく2人。
協力し合いながらユン・セリは韓国への帰国を目指す。


結論

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一番初めに結論めいたことを言ってしまえば、
このドラマの面白さはラブコメの王道に果敢に挑んで大成功した、に尽きると思う。ラブコメがやりづらい時代に、ラブコメとして盛り上がる要素を設定的に組み込む。
そして、女子の「欲しい」をこれでもかと叶えていく。
女子の理想像が明確にリ・ジョンヒョクになったとも言えるし、
真剣に日本男子はこの事実を考えないといけないと思う。

ラブコメの世界線がこのドラマ以前〜以後で語れると思う。
それくらい「愛の不時着」は特異で特別だ。

・ラブコメの王道を作ることの限界を設定でかわしてく。
・2020年のプリンセス物語の成立。
・理想的な男の子像の確立。
・愛の不時着の謎

以上がこのnoteの大筋のテーマだ。
この4つを意識しながら、まずは設定の話をしたい。


携帯電話のない世界

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端的にいって、このドラマの設定ポイントは「どうやったら携帯電話のない世界に行けるか?」である。
ドラマを見た人は分かると思うが、携帯電話がないことで

・連絡がつかない
・会えない

こんな状態になる。
こうなることで、ハラハラと、スリリングで、ドラチックな展開が作りやすくなる。これなんだろう?と思ったら80年代〜90年代のトレンディのドラマの演出方法なのだ。

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画像は電話ボックスをラブコメのネタに使っている例。突然の豪雨により
電話ボックスで雨宿りする2人。狭い密室空間で距離が縮まる刹那が尊い。「Yawara! 8巻 1988年初版」より。
Yawara!もトレンディドラマを非常に研究している、あるいはその先をいった作品だと思うが、愛の不時着はこうした古典に遡ってそれを2020年に再現することに成功している。

僕が携帯電話を引き合いに出してるのは、今やスマホのおかげで

・いつでも連絡取れる
・会える、見つけやすい

こんな状態が普通になっていて、
便利なんだけど、ドラマ上のすれ違いの演出はやり辛くなる。
ラブコメを盛り上げる要素は、偶然のハプニングとすれ違いであり、
携帯電話がそれを阻害してることに本作のスタッフは気づいたのだ。

本作は舞台を北朝鮮にしている。
北朝鮮でも一部の地位の高い人は携帯電話を持っている描写があるが、一般の人が持てるものではない。ましてや身一つで不時着した主人公なら尚更。
北朝鮮という国を舞台にしたことで「携帯電話のない世界」が実現したのだ。
ダイナミックで巧みな設定だと思う。

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この世界観を活かした演出の最初のピークはポスターアートにもなっているこのシーンだと思う。
平壌に向かう電車が停電により10時間くらいストップし、電車の外で野営しないとけないシーン。焚き火を囲みながら、毛布を買ってもらい、肩寄せ合いながら焚き火で焼いた芋を食べる。夜空には満天の星。
めっちゃラブコメ的に美味しいシーンだ。
この世界の不便さが、ラブコメ的にはプラスに働くロマンチックなシーンだ。

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身近な敵国と、身近な恐怖

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「北朝鮮にうっかり入ってしまったら」。これは韓国の人にとって一生に一度は考える冗談のような身近な恐怖だと思う。
地続きの身近な敵国の存在は、韓国の人にとっての子供の頃からの身近な恐怖ではないだろうか。

そんな所に1人で不時着したら、めっちゃ不安で心細くなる。
そんな折に、リ・ジョンヒョクに出会ったらラブコメは加速するだろう。

ドラマのポイントは身近な恐怖たる北朝鮮を「主人公はどう見たか?」である。噂やイメージで考えていた北朝鮮と、実際に自分の目で見る北朝鮮は違うということをなるべくフェアな観点で描けていると思う。
社会的な体制批判をなるべくしないのも本作の良いところ。
そこはラブコメならではだからだろうか。

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僕は北朝鮮の村のおばさんたちが大好きだ。
度々出てくる独裁国家ギャクシーンで分かる通り、超縦社会の息苦しいルールの中で、すごくピュアで真っ直ぐで情に脆く生きている。
国は違えど、僕らが本来的にほしいものを彼女たちが当たり前に身につけている点が面白い。悪人も出てくるが、基本的に北朝鮮の人を善人として描いているところが本作のポイントである。

テクノロジーの普及が遅れている分、人力でオーガニックな生活をしているのもポイントが高い。時間をかけてオーガニックな生活をするのって、僕らの世界だと贅沢なライフスタイルである。そのいい所できない価値転倒のギャップが面白い。

自分が無力化する世界

主人公は財閥の令嬢で、自身も大企業の経営者だ。
韓国社会の中では成功者、セレブのポジションにいる。
しかし、主人公の積み上げてきた地位、財力、権力は北朝鮮では無力化する。
なんでもワンマンでやっていた主人公が誰かの助けを借りないと生還できない状態に追い込まれたのだ。守ってもらわなくてもよかった勝気な人が、保護対象になり、王子様の出現で助けられる。ここはラブコメ的に大変美味しい。

また、自分が持っていたものや取り巻く環境から不時着することで、結果的にエスケープしたことになる。断捨離した世界に行くことで自分に本当に大事なこと、自分が本当に欲しいものに気づくことになる。こういう所も上手い。
どこか遠い所に不時着してリ・ジョンヒョクみたいな王子に会いたいと思っている女子は今めちゃくちゃ多いだろう。

「心のこもったご飯、暖かい家、自分を気にかけてくれる仲間、最愛の人、そして自分が打ち込める仕事」。これがあれば良いんだっていう優しいメッセージを感じる。

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女の子にはリトルピープルが必要

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愛の不時着の設定的な面白さを考える時に外せないのはリ・ジョンヒョクの部下だち。僕はこいつらが可愛くてしょうがない。

主人公の女子を取り囲む男子たち。一見するとハーレム構造にも見えるが、
部下の子たちは主人公の恋愛対象にはならない。
あくまで王子様はリ・ジョンヒョク1人だから。

では、部下たちは主人公にとってのどんな存在かと言うと、それは白雪姫を守る7人の小人みたいな存在と考えて良いと思う。

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これは何かと言うと、「女の子には王子様だけじゃなくて、自分の周りを彩ってくれるリトルピープル的な存在が必要なんだ」というスタッフ側のメッセージである。恋愛対象じゃないけど、自分を楽しませてくれる良き男子に囲まれたいという女子の願望を形にしたのだ。
これは女子の欲しいを体現した設定なので、ぜひ女子たちに感想を聞きたい。


以上が、僕が考える「設定」としての愛の不時着の魅力だ。
引き続き、残りの3つも考えていきたい。

・2020年のプリンセス物語の成立。
・理想的な男の子像の確立。
・愛の不時着の謎

締めは主題歌の「Flower」。

次回もお楽しみに^^


#愛の不時着 #ラブコメ #理想の男子像 #新しいプリンセス物語






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