連載『数学はなぜ嫌われるか』 6章「スーガク屋さんはスージが苦手?」

あんたがもし「理系」なら、こんなことを言われたことはねえか?
あるいはあんた自身、「理系」の奴に向ってこんなことを言ったことはねえか?
「お前、理系のくせになんでこんなことも分かんねえのよ」
そうなんだ。
世の多くの奴らが、「理系」と言やあみんな数字に強くて、複雑な暗算も瞬時にできて、元素記号と化学式をぜんぶ暗記してて、電気回路の不具合なんざちょちょいのちょいで調整できて、宇宙物理学の最新理論から自然災害のメカニズムまで熟知してて、車のエンジンの故障も手で直せて、コンピューターのしくみをそらんじて、プログラミングも自由自在にできて、ゲーマーで、おまけにプリンタの業務用デジタル複合機まで縦横無尽に駆使できると思い込んでる。
だが逆に、あんたは「文系」の人間に対して、英語もフランス語もラテン語も中国語もロシア語もぺらぺらで、源氏物語も百人一首も暗記してて、六法全書をそらんじて、世界の約200ヶ国の旗を見ただけでその国名と首都名と緯度を言えて、歴代のローマ皇帝も徳川将軍もアメリカ大統領も日本の首相も中国王朝もすべて言えて、ことわざと故事成語と慣用句を辞書のようにぼう大に憶えていて、聖書もコーランも般若心経もぜんぶドタマに入ってて、数寄屋造りからキュービズム絵画までありとあらゆるデザインと芸術に通じてて、おまけにフランス現代思想にもインド哲学にもゾロアスターの神秘思想にも日本の神道儀礼にも儒学・朱子学にも風水にも明るい奴だ、なんてイメージを持ってるだろうか。
はたまた、古代ギリシャの政治家の名前を1人ぐれえ知らねえってだけで、
「てめえ、文系のくせになんで知らねえのよ」
なんてことを言ったり言われたりするだろうか。
そうさ。
「理系ならそれくらい知ってるだろバカ」
ってリクツは、
「文系ならそれくらい知ってるだろバカ」
って抜かすバカと同じバカさ加減でバカなんだって事実は、どういうわけか社会に浸透してねえ。
ここにもまた、社会の深え深え溝があるんだ。
何の意味もねえくだらねえ誤解のために、マジで不毛なことになっちまってる。
今回はこの誤解を、1つ1つ丁寧に解きほぐしていこうじゃねえか。

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