追悼・市原悦子さん 美少女役の旧作を偶然発掘

市原悦子よ、あなたは偉大な女優だった。
あなたは、本当は演技の幅がとんでもなく広い人だった。
『まんが日本昔ばなし』の例をひくまでもなく、暗い主婦の役(『渥美清の泣いてたまるか』)から底抜けに明るい芸者の役までなんでもできた。
しかも、その芸者役で三味線を弾きながら歌った日には、あなたのその歌の見事さにすんどめは腰を抜かした(『にっぽん泥棒物語』)。
それなのに、あなたの最後の30年たるや、あなたのファンによって台無しにされたとでも言うべき様相だった。
「何をやっても市原悦子」
などという、失礼極まりない「賛辞」すら送られた。
同じような役ばかりやらされ、あなたの本当の才能は忘れ去られた。
人気があり過ぎる者の宿命だというのか。
そんな中、最晩年の『君の名は。』における老婆役は、まさに我が意を得たりと膝を打つべき名演技だった。
高い可愛らしい声に特徴のあるあなたが、ぐっと低めの落ち着いた声で演じ切ってくれた。
久々にあなたの演技の幅に触れ、嬉しかった。
さて、今年。
あなたが旅立って直後、すんどめはたまたま69年の映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』を観た。
高畑勲演出のフルカラー・アニメーション長編映画だ。
そこにはヒロインというべき少女が登場し、非常に美しい神秘的な声でセリフを語っていた。
そのあまりに美しい声色と、極めて正しい日本語の発音とが、いかにも昔の日本の女優という風格であった。
ところが……
彼女の登場から約10分。
すんどめは、ハタと気づいた。
(ん……、この声……アッ!!! 市原悦子だ……!)
この驚きを何と言語化すればよいだろう。
あなたは当時、若く神秘的なヒロインすらも軽々と演じていたのだ。
やはりすんどめの考えが正しかった。
あなたはどこまでも演技に幅のある人だった。
主婦や芸者だけでなく、貫禄の老婆からヒロインたる少女まで、何でもできる人だったのだ。
『太陽の王子 ホルスの大冒険』に出会ったことで、思いがけず、すんどめにとってのあなたの良き通夜を営むことができた。
安らかにお休みを。

拙著『シェーンの誤謬』 ここから購入できます
https://www.amazon.co.jp/dp/B07FYT4Q65/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?