20220504_もうひとつの

プリマジとは。
広く一般には、真直祥寺のとある会社がここ数年で興したエンターテイメントとされている。
しかし本当は、もっと昔から極秘に行われてきた儀式である。

プリマジスタであれば、魔法のようなと形容されるプリマジのステージが実際に魔法で演出されていることも、その魔法を使う魔法界の住人マナマナがいることも承知だろう。
なぜそんなことをしているかと言えば、人間界の住人であるチュッピが出すワッチャを集める為だ。
ワッチャとはマナマナの使う魔法の源となる力であり、これはチュッピの感情の高ぶりなどによって生み出される。

マナマナとチュッピが何らかの催しを行い、チュッピたちがワッチャを放出、それをマナマナたちが集めて互いの利益になるような魔法を使う。
この一連の儀式は世界各地で幾度となく、神事として、お祭りとして、競技として、様々な形で秘密裏に行われてきた。

今の一般的なプリマジは、チュッピの代表たるプリマジスタと、マナマナの代表たるそのパートナーが力を合わせてステージを作り、その興奮により発生したワッチャをステージ装置やカードで集めているらしい。
しかしこの方式は、代表とは言え実力差のあるプリマジスタとパートナー、そして不特定多数の観客に大きく依存している。
簡潔に言えば、効率が悪い。

最も、大衆に広めるのであればこれでも十分なワッチャを集められる。
これを興した会社がそうまでしてワッチャを集めている理由は分からないが、魔法学校やエレメンツたちと結託している以上なんらかの大規模な儀式を行おうとしているのだろう、とはその道に詳しいものの見解らしい。
それはひとまず置いといて。

仮に、素晴らしいステージを作れるプリマジスタとパートナーがいて。
仮に、ワッチャの放出量の多い観客がいれば。
より少ないステージ、より少ない観客で、効率的に膨大なワッチャを得ることができるだろう。
それを実行しているのが、今では俗に裏プリマジと噂されるものである。

ひとつひとつが小さな集団のみで排他的に行われる裏プリマジが、どれくらいの数実在するかは定かではない。
確実に存在するものとして、薗頭そのがしら槌矢つちや名郷根なごうねの三家が運営しているものがある。
その中でもプリマジスタとパートナーの育成に力を入れている薗頭家の、当主の次女として生まれたのが斑咲むらさきであった。
長女暮奈くれないと共に幼き日から特訓に明け暮れ、数年前に二人でお披露目としての初ステージをしたという。

洗練されきった暮奈のステージを見た斑咲は、それを窮屈と感じた。
あれほどに完成されたステージを見るのは、選び抜かれた十数人の関係者のみ。
それでも集まるワッチャは歴代の中でもすごかったらしい。
結果を聞いた姉は喜んでいたが。
本当に、それだけでいいのか。

さて。少し話は変わるが。
薗頭家当主であり、斑咲と暮奈の母である薗頭縁慈えんじには弟がいた。
彼はワッチャ放出の才能がまぁ人並で、裏プリマジに対してやや反抗的であり、普通の会社に就職したことを機に勘当され離れて暮らしていた。
その際に苗字も改められ、現在は圓堂朝義えんどうあさぎと名乗っている。

叔父に当たるその人の存在を去年知った斑咲は、家を飛び出して会いに行き、そして今に至る。

………………
…………
……

「待った」
「何よ、これくらいでいいでしょ」

裏プリマジ、に関する話はなんかがっつり目に話された気がした。
正直よく分からない気もするから、熱心に聞いてたぷにゃ辺りにあとでまとめてもらおう。
そして最後は一気に吹っ飛ばされた気がして待ったをかけた。

「その、おじさんとの話ががっつり省かれてるんですが」
「あら、気になる? 私とあさぎの愛の逃避行が」
「いっとちゃんが笑いをこらえてるのにな~」

まぁ具体的な部分は置いといて。
あさぎおじさんと会って、最初は送り帰されそうになったけど、なんやかんやで表世界のことを学んできていいことになり、そのまま居ついたのがこのむらさきだという。

「実質勘当されたものと思ってたのよねぇ」
「そう、か……?」

裏だの表だのはまだピンとこないが、プリマジの勉強ということならそんなものじゃないだろうか。

「サニは御三家の認識が甘いのよ、あの頭がちがちな連中は会えば理解し合えないって分かるわ」

御三家。ゲームとかでしか聞かない単語だ。

「それに勉強も何も、私はあっちに戻る気はないわけだし」
「家出なのにな~不良なのにな~」
「やりたいことやってるだけよ、何か問題でも?」
「問題しかないんじゃないかなぁ」

とりあえずあさぎおじさんはいろいろ大変な気がする。

「でもなんで急におね、んんっ。くれないが来たのかしら。今更連れ戻したところで、私は次期当主争いなんてしたくもないし、するだけくれないも面倒なだけなの、に……」

と、うとうとしだすむらさき。軽く忘れてたけど病人だったねそういえば。
いっとが手際よく布団にふわっと横にすると、本格的に寝だした。
鍵を渡さなくちゃといういっとが残り、私たちはお先に失礼することにした。

………………
…………
……

「あれ、寝ちゃってた……サニたちは、帰ったの?」
「うん、もうすぐ暗くなるし」
「いっとはいいの?」
「鍵預かったままだからね、おじさん帰ってきた時にむらさきちゃん寝てたら入れないじゃん」
「そっか、ありがと」
「いえいえ」
「……いっとにも、あれだけ話すのは初めてだよね」
「だねー。訳アリとは思ってたけど、家出娘だったとは」
「仕方ないじゃん。それに飛び出したから、みんなにも会えたし」
「そうだね、私もプリマジなんて知らずにいたと思うし」
「どうだろ、そのうちクラスの誰かがやったら知るんじゃない?」
「かもね。でも今ほど興味は持たなかったかも」
「急にサニのおっかけになったくせにいうわね」
「えへへ、それはそれだけど。でも、むらさきちゃんの応援に行かなきゃサニさんのことも知らなかっただろうし」
「え、応援?」
「ほら、なんかフェスに出るんだって話してたからさ。あの時の目をみたら、ちょっと興味湧いて」
「そ、そうだったんだ」
「ま、ステージはサニさんに圧倒されちゃったけどね」
「……アクアエレメンツのときのなら、まぁ、仕方ないわよ」
「よかったなぁ、あの時のサニさん。クールビューティ系と思ってたけど、話したらかわいいし」
「かわいいっていうか、半分くらい天然よねあれ」
「あはは、そうかも」
「はぁ、サニにも負けるしいっとにも負けるし。特訓自体は頑張ってきたんだけどなぁ」
「まぁまぁ、また次があるじゃない」
「そうね、次……えっ、もう情報出てるの?」
「ううん、知らない」
「なんなのよ」
「でもすぐあるんじゃないかな、ぺったによるとあとみっつエレメンツいるらしいし」
「そうなの? ぱたひらは家で生まれてるから、魔法界の情報知らないのよね」
「あぁ、そうなんだ。じゃああとでぺったに聞いておくよ」
「そういえば、いっとのパートナーって会ったことないわね」
「あー、普段は魔法界にいるみたいだからね。空気が合わないとかで、こっちにあまりいたくないんだってさ」
「わがままね」
「……」
「何よその顔」
「むらさきちゃんがいうかっていう顔」
「いいでしょ、わがままなものはわがままなの」
「まぁそうだね、そのうちこっち来たら紹介するよ」
『ピンポーン』
「はーい、じゃあ出てくるね」
「……さすがに今度こそあさぎよね?」
「だといいね」

……ふむ。
こっそり仕掛けたものはうまく動いているようじゃな。
しかし前のわしなら躊躇なくカメラなども仕掛けたろうに、マイクだけに留まるとは。
甘くなったものだ。
あわよくばもう少し裏プリマジについて学びたいところであったが、今はこれで良しとしよう。
それよりもふむ、パートナーか。
確かに人間界に種族ごと住み着いたマナマナの話は聞いていたが、ぱたひらとやらはそれじゃろうか。
ばさらといったマナマナもじゃが、こんなワッチャの乾いた世界で小さいながら人型を保つ素質とは。
何かに役立つかもしれん。
いっとのパートナーも気になるが、ぺったという名前だけではなんともな。
まぁ、はぐれ者のわしや記憶喪失になったぽぽふ、人間界生まれらしいぱたひらやばさらに比べれば、普通のマナマナじゃろう。
とりあえず、魔法学校の名簿はそのうち漁っておくか。
情報は多いほうがよい。わしの夢を叶えるためには、な。

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