20220817_あなたの夢は

八月も半ば。
夏休みはもう半分も残っていない。
いつも通りに暑い太陽の下、これもいつも通りにプリズムストーンへ向かっていた。
長らく家に帰ってきていない橙色のスライムと面会する為に。

「今日もお勤めご苦労様なのにな~」
「うむ。ステージなら少し待ってくれ、もうちょっとでここが片付く」
「大丈夫なのにな~」

盛況で終えたグランドフェスではあったが、ぷにゃとぺったが好き勝手にやったことは当然問題であり。二人ともプリズムストーンのお手伝いをすることで罪を償っている真っ最中だ。
空中に浮かぶディスプレイに文字が流れていっているが、あれがどんな意味を持つのか全く分からない。

「見ていてもつまらんだろうが、出来上がるものはきっとになも気に入ると思うぞ?」
「へ~、楽しみにしてるのにな~」

大変そうではあるが、楽しそうでもあるぷにゃの姿を眺める。
本人は動いていないようにも見えるが、あの体が乗っているキーボードはかなりの速度で叩かれているし、モノクルを通じて操作しているものもあるのだろう。
と、キーボードのほうは静かになった。

「ふむ、とりあえずこんなものか。今作っておるのは、今後の新しいプリマジの形に必要な、スタジオ内のプリマジスタたちへのワッチャが誰にいくら集まったかを判別して集計するシステムなんじゃが、オメガの出してきたものがこちらの設備には負荷が大きすぎてな、それを我が最適化をうぉお!?」

急に饒舌になった体をぷにゃっと両手で持ち上げてぷにゅっと潰す。いい弾力だ。

「な、なにをするにな……」
「ぺったちゃんから聞いたのになープリズムストーンに泊まりで作業してる訳じゃないって言ってたのになー」

そう、昨日のプリマジの帰り久しぶりにいっとちゃんと一緒になり、お互い囚人パートナー持ちで大変なのにな~と話したら、その事実が判明した。
いっとちゃんもプリマジに来る頻度が減っていたが、それは夏期講習に行ってるだけで囚人パートナーは関係なかったという。

「あぁー……まぁ、そうじゃな。運営はそんな非道ではないから、普通に帰れるが……」
「じゃあなんでぷにゃはフェスからずっと家に帰ってこないのになー?」
「……これは、我への罰じゃからな」

声のトーンが落ちるぷにゃ。

「になも察していると思うが、我は多くの悪いことをしてきた」
「うん」
「真顔じゃな……」
「ぷにゃがなんかしてるな~ってのはずっと知ってたのにな~」

そう、ずっと。
ぷにゃには何か目的があって、私とパートナーになったのもその目的のために使い道があったからだと思っていた。

「そうじゃろうな。じゃが我はになが思っているよりずっと、こちらの世界にくる前から、多くの罪を犯してきた」

そんな気もしてたけど、さすがにその辺のことは想像がつかない。

「謝るべき相手はたくさんいる。じゃが謝るだけで償えるとは思えなかった」
「じゃあ、プリズムストーンで働くのが償いになるのにな?」
「……きっと」
「半分くらい趣味が入ってないかなのにな~?」
「……否定しきれん気がしてきた」

このスライム、罪の意識はあっても結局自分本位なのでは……?

「まぁ、なんじゃ。我が断罪されてよろこぶものはきっとおらん。それよりもこの新しいプリマジを早く開催できるようにしてやることが、多くのプリマジスタのためになるというものじゃ、うむ」
「何一人で納得してるのにな~そうやって勝手に考えてセルフ監禁生活してるのにな~?」

ぷにゃぷにゃぷにゃ。いい弾力だ。ドリブルしても跳ねないだろうけどドリブルしてやりたい。

「や、やめ……」
「そだ、ぷにゃって元々何がしたかったのにな?」
「と、いうと……?」
「そんなに悪いことばかりして、ぷにゃは何がしたかったのにな~?」

ぷにゃぷにゃをやめてじっと見ていると、視線をそらされた。

「さあな」

ぷにゃを右手で掴み、このままドリブルをできる姿勢を構える。

「まてまてまてまて」
「真面目に答えるのにな~」
「んー、真面目に答えてもこのままドリブルされる気がするのじゃが」
「じゃあそれがぷにゃの運命なのにな~」

とりあえず両手で持ち上げる姿勢に戻る。こっちのが持ちやすい。

「そうさな、になに分かりやすく答えるのなら……おもしろきこともなき世をおもしろく、というやつじゃ」
「に?」

な?

「になの好きな句じゃろう?」
「そ、その話ぷにゃにしたことあるっけ……?」
「我が言えることは、パソコンのパスワードににになになは、ありがたいやら簡単すぎやしないかやら」
「にな~~~お、乙女のパソコン勝手に見ちゃダメなのにな!」

よし、このスライムは島流しだ。後でおけを買ってきて穴をあけてから川に流そう。

「まぁまぁ落ち着け」
「むぅ~~~」
「そうじゃ、そういえばになは願いを叶えたのか?」
「にな?」
「ほれ、優勝のご褒美で願いを叶えてもらったんじゃろ。ここに籠っている故、世界がどう変わったか見てないのじゃよ」

あぁ、そういえば。
お財布にしまっている大事な券を取り出しながら答える。

「ご褒美なら、ここのカフェの永久無料ご利用権になったのにな~」
「にゃ?」

ぷにゃのこんなアホっぽい表情はじめて見たかもしれない。
それだけでこれをもらったかいがあったというものだ。

「サニちゃんはまだちょっと考えたいっていうから、ワッチャを使っちゃうと悪いと思って、物にしたのにな~」
「…………」
「そ、そんな怖い目で見ないで欲しいのにな~」
「はぁ、我が願いが叶ったかと思ったのに……」
「何かうまくいかなかったなら、それがぷにゃの欲しがってた罰なのにな~」
「あぁそうかいそうかい、どうせ我は悪者じゃよー」

少し弾力が弱って垂れるぷにゃ。

「大丈夫、になの夢は自分で叶えるのにな~」
「まぁせいぜい頑張れー」
「もちろん、スマイルエレメンツさんも協力してくれるのにな~?」
「はぁ。当たり前じゃ」
「えへへ~よろしくなのにな~」

………………
…………
……

──おもしろきこともなき世をおもしろく
──すみなすものは心なりけり

世界を変えるため躍起になっていた我の世界を変えたのは、になであった。
元々の我の願いなどとっくに叶っていたのだ。
だからお前の夢が叶えばと思っていたのだが。
本当に、世の中というのは思い通りに進まない。

これからも頑張らねばならぬな。
世界にもっと笑顔を増やすために。

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