20220522_糸をよりて

「「デュオ大会?」」
「ハモったのにな~」

風邪でゴールデンウイークを吹っ飛ばしたむらさきが復活してから幾日。
いっととになが持ち寄ったのは、次のエレメンツフェスの情報であった。

「これがそのパンフですね、ブライトネス&ダークネスエレメンツフェス」
「プリマジスタの新しい可能性へ、ねぇ……」

確かに人数は多い方が、歌でもイリュージョンでも表現の幅は増えるだろう。
だがその分、自分だけでやるより準備なんかも大変そう。
それに二人でやってもいい、じゃなくて二人強制かぁ。

「よし、組むわよいっと!」
「あ、ごめんねーもう組む相手決まっててー」
「さすがいっとは手が早いなー」

今をときめく期待の新人だ。組む相手には困らないだろう。
頑張れむらさき。

「あ、になも決まってるからサニちゃんも頑張るのにな~」
「え?」

こちらも梯子を外されてしまった。

「二人とも早いわね……さては、二人で組んだ?」
「あはははー」
「いっとちゃんからのお誘いなのにな~」
「マジか」
「いや、その……サニさんとむらさきちゃんと戦いたいなーって思ったら、先にになさんを抑えておくべきかと」
「そんな打算でになを選んだのにな~?」
「悪いやつね、いっと」
「ちょ、ちょっとになさん、ちゃんとお話しましたよね?」

苦笑いのいっと。焦ってないところ、意思疎通はちゃんとできてそうだ。

「曰く、サニになで来られると大変な気が~とは聞いたのにな~」
「そんなに相性よさそうだっけ私たち?」
「まぁ、声質でいったらどっちも可愛い系だし」
「身長も足して割ると丁度いいですし」
「いっとちゃんには言われたくないのにな!」
「私はまだ小学生ですし」
「になの成長期もこれからなのにな~……きっと」

小学生も交えたこの中で一番身長が低いのだ、そっとしておこう。

「まぁになは置いといて。サニはどうする、私と組む気はあるの?」

むらさきが強い視線でこちらをにらんでくる。
家のこともあって、焦っているのはこちらだろう。

「うん、一緒に頑張ろ」
「分かったわ。この裏切者二人を分からせてあげましょう」
「もちろん」

………………
…………
……

そんなやり取りで固い握手をしたのが、ゴールデンウイーク明け。
五月も気づけば終わりに近づいた今日は、デュオフェスでのステージに向けた最初のミーティングだ。
七月上旬が本番なので一ヶ月とちょっと。気合い入れていこう、と来たわけだが。

「遅いわよ」

開口一番がこれである。

「小学生とは学校終わる時間が違うから仕方ないの」
「ま、ちゃんと考えるものやってきてるなら許すわよ」

そういってコーデブックを広げるむらさき。
まずは課題曲とコーデを決めようということで、
お互いによさげなものを考えてくるのが宿題だった。

「コーデの前に曲決めたほうがよくない?」
「曲なんてコンフィアンサ一択じゃないの、私たちだと」

そう、今回のフェスは課題曲から選ばなくてはならない。
普段一人だから準備大変だろうという運営の心遣い、だろうか。
といっても選択肢は少ない。むらさきが提案したのは中でもクール感のある熱い一曲だ。

「んー、奇跡の降るもいいと思ってるんだよね」
「悪くはないけど、静かすぎるのよね。歌うと気持ちいいけど、見る側はもうちょっと欲しいかなって」
「じゃあDuo Partyは?」
「ちょっとかわいいが強くない?」
「むらさきのそういう面見たい人も多いと思うよ~?」
「んん、テンポいいから楽しいとは思うけど、ちょっと考えたいわね……」
「コンフィアンサとこっちとじゃ似合うコーデも変わるから、先に決めちゃいたいな」

お互いにスイートネスアンドダークネスを挙げないあたり、あれは違うと分かっている。
ダークネスはまぁいいんだけどね、スイートネス側は互いに遠慮したいのだろう。
おそらくじゃんけんになる。

「コーデから合う曲を選ぶってのもあるわよ。どっちもいいと思うならそれでいいじゃない」
「んー、まぁそれでもいいけど。ちなみにコーデの案は?」

待ってましたと言わんばかりに、コーデブックからカードを取り出すむらさき。
お出しされたのは『レースヒーロー』に『ヒップホップ』か、
どちらもパンツスタイルで動きやすいやつだ。

「私とサニならダンスで勝負できる、動きやすいのがいいと思うわ」
「どっちもパープルがあるしね」
「ふふ、分かってるわね」

どっちもビビッドスターのポップやスポーティといったコーデなのは私に合わせて、だろうか。
こういうところはなんだかんだ気が回る。

「サニの案は?」
「私はねぇ……これ」

出したのは『マーチング』と『サイバーゲーム』。
それぞれエターナルレヴューとエレクトリックリミックスの新しめのコーデだ。

「へぇ、なかなかいいとこ選んできたわね」
「おすすめはマーチング、色によってだけどスカートとパンツで差別化もできるし」
「サイバーゲームのおすすめポイントは?」
「ヘアアクセかわいいかなって」
「割と適当ね」
「もちろん動きやすいってのもあるよ」

それから互いにコーデ決定までいざこざ。
こういう時に試着室とかあれば実際に着ながら話し合いもできるけど、
プリマジの準備部屋はステージに出る人しか入れないからなぁ。
レースヒーローとマーチングで並ぶ案も出たけど
最終的にはマーチングのパープルとスカイで並ぶことにした。
ヘアアクセだけサイバーゲームにしてみる? と提案したのは即却下された。

と、一段落したところで私の端末が着信音を鳴らした。

「何よ、ミーティング中に」
「になからだ、出るね」
『もしもしなのにな~』

画面に出た映像には、になだけでなくいっともいた。

「はいはい、いっとも一緒なんだ」
『はい、こんにちは! になさんと作戦会議してました!』
『サニちゃんたちもしてるって聞いてたから、偵察なのにな~』

通話で偵察してくるとは斬新な。

「殊勝なことね、ちょうどコーデも決まったところだし応じてあげるわ」
『あ、むらさきちゃんなのにな~』
『私たちもいろいろ決まりましたよ! お互い順調みたいですね』
「だね、なんだかんだ疲れたなぁ」
『二人は似てるからすぐ決まると思うのにな~』
「「似てる……?」」
『ハモったのにな~』

まぁ、雰囲気が似てるというのは否定しきれないが。
話してて改めて分かった、好みは全然似てない。
むらさきは自分のかっこよさを理解しているし、加えてそれを人にも押し付けてくる。
私はになみたいに吹っ切れてはいないが、それでも少しかわいいも欲しいところがある、みたいだ。
ぽぽふやぱたひらもいればもうちょっとそういう話が出たかもしれないが、
ぽぽふはいつも通り寝てるし、ぱたひらもおそらくあの髪留めになっている。

『それでそれで、どんなコーデにするんですか?』
「ふふん、本番を楽しみに待ってなさい」
『さすがに教えてくれないかー』

さらっとこういうことを試みる、それがいっとだ。

『あ、そうだ。ぺったに聞いたんだけど、エレメンツって今回のフェス担当含めてあと三つらしいよ』
「あらそう? ……ってことは、今回とあと一回か」
『でもぺった曰く、最後の一人は気分屋というかちょっと危ない思想家らしく、フェスをやるのか分からないとか』
「えっ、じゃあ今回でフェス最後なのかな?」
『少なくともグランドフェスはあるのにな~』
「あぁそっか」
『でもグランドフェスの出場条件が各フェスでの優勝ですから、今回が最後のチャンスかもですね』
「そ、そうね……そうよね……」

むらさきの表情が曇る。
むらさきにとっては、ここが最後のチャンスになるの、だろうか。

「頑張ろう、むらさき」
「い、言われなくても当然よ!」
『じゃあ情報は出なさそうだし、これでお暇するのにな~』
「結局それが目的かい」
『なのにな~』
『それでは、お互い頑張りましょうね!』
「負けないわよ!」

ばいばい、と通話終了。
なんだかんだ発破をかけられたようで、いい気分転換にもなった、かな。

「……」

真面目な顔で黙ってるむらさき。

「まぁさ、フェスに勝てなくてもプリマジはやれるし、気負いすぎずに行こう」
「サニはそうよね。でも、私は分からないの。
実際、くれないが来たってことは連れ帰るつもりがあるんだろうし……」

ゴールデンウイークの出来事か。

「でも、あのあとくれないちゃんは来てないんでしょ?」
「それも、そうだけど……本家が何考えてるか分からないのよね」
「案外くれないちゃんが勝手に来ただけかも?」
「あのくれないが~? ないない、真面目で当主の言いなりのくれないなんだからー」

謎の信頼は姉妹故だろうか。

「そういやさ、その、裏プリマジ?って、そんなに普通のプリマジと違うの?」
「あれは……やってて楽しくないわ。見てるのがお偉いさんばっかりなんだもの」
「むらさきって結構お客さん見てるよね、サービスいいし」
「そりゃ、楽しんでもらいたくてやってるんだもの、当たり前じゃない」
「あ、そっちがメインなんだ」
「そうよ、なんだと思ってたのよ」
「いや、やっぱり自分が好きにやるのがメインかなって」

そういう性格だし。

「まぁ好きにやるのはそうよ? でも楽しんでもらえなきゃ意味がないの。
私が目指すのは、誰かじゃなくてみんなを笑顔にするプリマジスタなんだから」

なんか高尚な話になってきたぞ?

「……サニ、ジャカランダって知ってる?」
「ジャカランダ?」
「紫雲木なんて言い方もあるけど。そうね、簡単にいうと紫色の花がつく木よ」
「へぇ、紫色の」

急に何の話だろう。

「私はね、そういう風になりたいの」

……んーと?

「あー、ごめん。ちょっとセンチメンタルになってたわ。あんま気にしないで」
「う、うん」
「とにかく、フェス頑張りましょう。それじゃ、今日はもう帰るわ」

そういってそそくさと行ってしまった。
いつもならお迎えがくるまで居座るタイプだが。どこか寄るところでもあるんだろうか。
まだまだ明るいが結構いい時間だしと、私も帰路に着くことにした。
ジャカランダ、だっけ。後で調べてみよっと。

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