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20230503_ミックスの女王

五月三日、木曜日。憲法記念日。午前九時半頃。
少し暑いくらいの晴天の下、プリズムストーンのエントランスには多くの人が集まっています。

むらさき様から宣戦布告を受けてからちょうど三週間。
シャラナ様はくれない様が学校でいない間ずっと、私とプリマジについて学んでおりました。
とは言っても実際にプリズムストーンで活動していた訳ではなく、薗頭家の修練の間、いわゆるレッスン室を利用しました。
やるならば徹底的に、との縁慈様からのお言葉も頂いたため、基礎コースをそれはみっちりと。
シャラナ様自身、歌にもダンスにもコーデにも興味を示し熱心に励んでくださいました。
技術に関しては年相応、いえ実際の年齢を知らないのですが、といったところでしょう。

「おはよ、ちゃんと来たわねシャラナ」
「おはようございます! もちろん!」
「二人とも頑張ってね」

いろいろ慣れてきたのでしょう、出会った頃よりシャラナ様は元気がよいように思います。
もう一ヶ月になろうという頃です。
しかし、未だ捜索の報せは届いておりませんでした。

「知ってると思うけど、ミックスコーデコンテストは予選、本戦、決勝の三回の審査があるわ」
「むらさきはシード権があるから本選からスタートね」
「えー、むらさきちゃんずるい」
「ずるくないわ、これが実力よ」

これはぺった様に、魔法界側での捜索願について確認した際に伺った話ですが。
魔法界にも学校や街はあれど、それらに属さないような家系もまだあるようでして。
特に魔法の探究などに熱心な家はその傾向も強く、そういった家の者だと捜索願といった形はでないかもしれない、と。
そういった家、というのには心当たりしかありませんね。
絶賛むらさき様がお家公認の家出娘にございます。

「組み分け的に、シャラナと当たるなら決勝ね。ま、せいぜい頑張って勝ち上がりなさいな」
「むらさきちゃんこそ、ちゃんと決勝に来てよね」
「言うわねこの子」
「指さしポーズかわいいねシャラナちゃん、もう一回やって」
「ちゃんと決勝に来てよね!」
「さっきより決め顔……!」

むらさき様の場合はすぐに居場所が判明したのと、縁慈様や朝義様の計らいあっての現状です。
シャラナ様の事情について、それとなく会話の中でお尋ねしたこともあるのですが、まだ掴みかねております。
ご自分でもまだ全容が分からないほどの大きな家にお住まいで。
周囲は森に囲まれており、一人で行くことは禁止されている。
ご家族の方と、おそらくお母様と、森の向こうの町にいったことが何回かある。
そこで買ってもらったアクセサリがお気に入りで、今も髪に編み込んでいる。
今分かっていることはこのくらいでしょうか。
込み入った話をしようとすると黙り込んでしまうので、あまり聞かない方がいいのかもしれないのですが。

「そういえばいっとちゃんたちはいないのね、むらさき」
「いっとなら武者修行中、ここ最近プリズムストーンじゃ見てないわ」
「いっとちゃん?」
「むらさきの幼馴染の子よ」
「おさななじみ……?」
「昔からの大切な友達ってこと」
「ふーん?」
「人生の半分も知り合ってないわよ、小学生からの付き合いなんだし」
「あれ、そうなんだっけ」

いつぞや、縁慈様とお話しましたが。
もしも何らかの事情で、シャラナ様の帰る場所が見つからない場合、あるいはシャラナ様がそれを望まない場合。
このまま面倒を見るのもやぶさかではない、と。
特に今は、くれない様の心の支えになっている側面もあります。
今引きはがすと今度こそ溶けて戻らないかもしれません。
その場合、むらさき様には残念ながら帰還命令が出されることとなるでしょう。

「ほら、そろそろ予選が始まるわよ。頑張ってきなさいな」
「はーい! じゃあくれないお姉ちゃん、いってきまーす」
「いってらっしゃーい」

私としては、皆様が笑顔でいられる結果になることを願っております。
……って。

「お待ちくださいシャラナ様、マナマナを置いていかないでくださいー!」

………………
…………
……

グランドフェスティバル。
グラフェスとも呼ばれる最高のプリマジスタを決めるその大会があったのは、去年の夏休み。
あれからもうすぐ一年、というには気が早いかもしれないけど、経つというのに、私の周りにはその余韻が残っていた。

サニとになはグラフェス優勝者として、今回のミックスコーデコンテストのような小さい大会には参加できなかった。
出てもエキシビションとして選考外のゲスト扱い。
つまらない。
いっとは本気で火がついたようで、プリマジ自体は続けているようだが、ここで見かけることは少なくなった。
どこかで特訓したり、別のプリズムストーンでの大会に出場したりしているようだが、
私に一緒に行こうなどとは言ってくれなかった。
つまらない。

『本戦Aブロック、勝者はむらさきちゃーん!!』

表のプリマジに飛び込んでからは、サニをずっと敵視していた。
すぐにいっともデビューして、よく一緒に来ていた。
そういったものがなくなると、どうにも何か、張り合いがなくなる。

たまに会ってはうざ絡みしてくる姉は、まぁ、うん。
思うところはあるけれど、あの姉は私を見てくれていた。
それも今では。

『本戦Dブロック、勝者はシャラナちゃーん!!』
「おめでとーーーシャラナちゃーーーん!!」

姉は、いつも完璧だった。
その完璧な世界に私を混ぜたくなかった。
だから、だったのだろうか。その世界から逃げ出した。
それでも、私を追ってきてくれていた。
それなのに。

よーし。ぶったおす。

Gimme more ここで叫んで
Flashing lights 届け果てまで

「ワッチャプリマジ」より「Starlight!」

今回のテーマは「みどり」と「フラワー」。
花をテーマにされたのなら、くさっても薗頭として負けられない。
トップスとアクセにベストマッチのコーデを持ってきて、全体はスマートなシルエットにまとめて私の良さも活かしてみせた。
勝つのは私だ……!

ワッチャワッチャッチャ! 最高潮!
ワッチャワッチャッチャ! マジラブだね!
ワッチャワッチャッチャ! みんなのパワー無限大!
プリマジ最高!

「ワッチャプリマジ」より「私のミラクルステージ」
(ゲームで流れているものからの書き起こし)

「さ~て、どっちが勝つのにな~?」
「コーデではむらさきが一歩抜きんでていたな」
「ヘアアクセとトップスでバラを合わせてたのも強いのにな~」
「じゃが、会場の空気をものにはできなかったようじゃのう」
「にな~?」
「なんじゃ、になならもうどちらが勝ったかなど感じておるだろう」
「ぷにゃがそういう評価できることに驚いてるのにな~」
「これ、ぷにぷにするな」
「さすが『笑顔のエレメンツ』さんなのにな~にな~」
「その名で呼ぶな……全く、似合わぬ称号なぞ与えおって……」

………………
…………
……

シャラナのコーデを見た時は、勝てると思ったんだけどなぁ。
ベストマッチはトップスだけ。
でもステージまで見たら、うん。楽しそうでいいなって思ってしまった。
あーあ、急に現れた新人に負けるとかサニじゃないんだから。
内心はふてくされつつ、顔はすがすがしく、表彰台にあがってようやく同じくらいになった視線を優勝者に合わせた。

「おめでと、次は負けないからね」
「うん、ありがとう!」

それから簡単な表彰があって、それも終わった控え室。
朝義が迎えにくるまでもうちょっとかかるだろうし、さてどうしたものか。
負けちゃったのと早々に負け惜しみを吐いたせいで、なんか居づらい。
なんて思ってると、シャラナのほうから話しかけてきた。

「ねぇ、むらさきちゃん」
「むらさきおねえちゃんでいいわよ?」
「むらさきちゃんは」

無視かい。

「おねえちゃんのこと、好き?」

は!?

「なんであんたにそんなこと確認されなきゃならないのよ!?」
「じー」
「……まぁ、嫌いじゃないわよ」
「そっか。私も、そう、かも?」
「はぁ!? あんたくれないのこと大好きでしょうに」
「あ、えっと、くれないおねえちゃんのことは大好きだよ」
「……あー、そういうことね」

確かに〇〇お姉ちゃんなんて呼び方、
姉が複数いるやつじゃなきゃ使わないか。
元々複数なのか、今複数になってるのかは知らないけど。

「あんた普通の姉もいるのね」
「うん。今、ちょっと……けんかしてるけど……」
「ふーん」

この子、確か訳アリで保護してるんだっけ。
詳しく知らないけど、詮索するのもあれかな。
その辺はくれないのが適任だろうし。
よし、ここははぐらかすか。

「あんた、見かけによらずワルね」
「えっ!?」
「家出中の悪い妹同士、仲良くしましょ?」
「う、うん……で、でも、わたし悪い子じゃないからね!」
「はいはい、悪人はみんなそういうのよ」
「違うもん!!」

こういう顔もできるのね。
からかいがいがありそう。

「それじゃ、あたしはそろそろお迎えがくるから失礼するわよ」
「あ、うん」
「そんな顔しなさんなって。プリマジにくれば結構いるから」
「うん……! また、一緒にプリマジしようね!」
「もちろん! それまでに、自分のパートナーみつけときなさいねー」
「うん! 頑張るー!」

……さて、かっこよく控え室を出たはいいけど。
朝義、まだ来てないわね。そろそろだと思ったんだけど。
……くれないたちに見つからない内に、公園でもふらついてよっと。

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『優勝はなんと、新人プリマジスタのシャラナちゃんだーー!!』

どこかを映すガラスの板。その向こうで笑う人。その身にまとう魔力マジ
間違いない。私の縁の先。夢の鍵。

「みーつけた」

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