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【社会人サッカーとは】

【社会人サッカーの可能性】

高校・大学を卒業する人たちにとって必ず越えなければいけない壁が進路問題であり、サッカーに青春を捧げて来た人たちのなかの多くが「残念ながらあなたは現段階でプロにはなれません」という辛い現実を知らされる事になる。


そして、そのプロの舞台でプレー出来る権利を得られるのは本当に限られた人間だけ。プロにはなれないと通告を受けた人間は、そこで初めて将来について真剣に考える。
 

サッカーを辞めて就職するのか、もしくはプロにはなれないという通告を受けたのにも関わらず、サッカーへの夢を捨てず、チャレンジの道を歩み続けるのか。

そして、その選択肢の一つが【社会人サッカー】である。


ただし、その社会人サッカーに対して正しい認識を持てているのは自身を含めて少ない気がするし、試合を観戦したことのある人も少ないように見受けられる。


進路を決定する際に重要なのは如何に“正しい情報”を収集し、今の自分に合っているのかどうか、やりたいことなのかどうかを判別することだ。


今は様々な情報が飛び交っているし、人間にはそれなりの先入観があるので、なかなかその“正しい情報”に辿り着かぬまま選択肢を狭めてしまっている人も少なくない。


幸いにも僕は様々なカテゴリーで輝いている張本人達からリアルな声を聞くことが出来る環境にいる。そんな人たちからリアルな声を収集し、皆に届ける事によって、進路を選択する際の手助けになれればと思う。


今回は、実際に社会人チームでプレーしている選手4人と緻密に連絡を取り合い、それぞれの選手にインタビューを行った。インタビューへの答えを書き記したレポートをもとに、僕が最終的な記事を書く形式とする。


【サッカーの価値観が変わった】


僕はまず、気になっていたところであったサッカーのレベルそのものについて聞いてみた。僕がこのインタビューをする前、社会人サッカーのレベルに対して抱いていた印象は、ずばり、「試合の流れるペースが遅くハードではない」だった。しかし、答えはノーだった。


【ハイレベルな経歴を持った選手がゴロゴロいる】
-元プロから学んだ結果へのこだわり-


『試合のペースは遅く、時間とスペースに余裕を感じながらプレーする事が出来ると思っていたが、実際は全然違った』
『大学生はよく「社会人チームは走れないし、試合のペースが遅いと」よく言うが、実際はまったく違う。地域リーグで優勝争いに絡むチームや、Jリーグ参入を目指すチームは特にそうで、元プロや選手権大会優勝校のキャプテン、世代別代表選手など、ハイレベルな経歴を持つ選手がたくさんいるし、技術や判断力はとても高い。走れないというよりも、頭を駆使して無駄に走らない。相手を走らせて、いかにして重要な場面で力を発揮出来るかを常に心がけている印象がある』
『「試合の立ち上がりはどうすれば相手陣地でプレーする事が出来るのかを考えろ。時には一切にリスクを負わないことも大事だ」と、元プロの選手から教わって以来、結果にこだわった堅実なプレーを続けてきた。僕はまだまだフレッシュなので、最後まで走り切る、ハードワークをするというところは強く求められるし、そこで違う選手との差別化を図っている』
『ミスを減らす。負けないサッカーをする。良いプレーを目指し、10回中5回失敗してしまうのならば、たとえ良いプレーが減ったとしても、10回中8回成功するような高確率なプレースタイルを心がける。大学時代は良いプレーをする為にはどうしたら良いのかを考えていたが、今はチームが勝つプレーをする。そういった意味でもサッカーの価値観が変わり、ものすごく楽しい』。


サッカーへの価値観が変わり、どんどんサッカーが楽しくなった。今の価値観に出会えただけでも、社会人サッカーでのプレーを選択して良かったと主張する選手もいた。

【主導権を握る事の大切さ】
-スピーディーかつ、頭を駆使した主導権争い-


『早く試合を動かして、主導権を掴み取る。社会人サッカーと一括りのなかでも、様々なカテゴリーがあるし、実力ももちろんチームによって違ってくる。僕のチームは人数も限られていたし、試合終盤まで体力が計算できない。だからこそ出来るだけ早く主導権を握り、試合を動かしてしまう。そこの攻防が物凄く楽しい。大学の時には無い感覚。チームとしては相手より先に失点しないという課題があった。個人としてもそのタスクを要求されていた。ボールを奪った後にイージーミスでまたボールを奪われたら精神的にも体力的にもダメージが大きい。僕はもともと個のクオリティで違いを見せるタイプではなかったから、観客を魅了したいというエゴはなかったし、周りの時間を作る役に徹しようと努力した』。


このように、僕が抱いている社会人リーグへの印象とは少し違う答えが返ってきた。主導権を握る、試合をコントロールする、相手との駆け引き、頭を使って無駄走りをしない。より高い技術と戦術理解が求められる。


そんな高いレベルのなか闘っていかなければいけないのであれば、日々コンディション調整に取り組む必要があり、ハイパフォーマンスを出せる準備をしなくてはいけないだろう。


社会人チームでプレーするほとんどの選手が仕事とサッカーを両立させるなか、どのようにしてサッカーに打ち込める環境を作り出しているのかを見ていきたいと思う。


【与えられる環境は人それぞれ?】
-実力で勝ち取る環境-


社会人チームでプレーしているほとんどの選手が仕事とサッカーの両輪を走らせながら、生活を送っている。仕事で稼いだ生活費をもとに、残りの時間のすべてをサッカーに捧げているのだ。
 

プロサッカー選手はサッカーを職業にしている人たちである。日々の練習と試合がメインであり、そこだけに標準を合わせた生活設計をしている(昨今は練習以外の膨大な時間を利用し、ビジネスや自己投資に当てている選手も増えているが)。

そんなプロサッカー選手と比較した場合、社会人サッカープレイヤーのスケジュールは非常にタイトであり、週末の試合に向けたコンディション調整は、非常に難しい。

【とある選手のタイムスケジュール】

07:30 起床し、朝食を摂る
08:00 練習場へ向かう
08:15 練習場到着 
09:00~11:00 全体練習
11:00~12:00 個別練習
12:00~13:00 ジムで筋トレ、プールでクールダウン
13::00 寮に一旦帰宅し、昼食を摂る
14:00~20:00 ホテルでの仕事
20:00~23:00 寮に帰宅し、夜食を摂って、自分の時間を過ごす


とても忙しい。練習や試合の時間はもちろん大事だが、サッカー選手にとっては練習や試合の為の準備(セルフケア、食事、睡眠、トレーニング等)がパフォーマンスを左右させるカギになる。その準備は時間もエネルギーも要する作業なので、この忙しいスケジュールの中でそれを遂行させるのは簡単なことではない。


『仕事とサッカーの両立のなかで、コンディション調整が一番に難しい。仕事の関係で練習に参加できない日もあるし、そういう日が出てきてしまうと、週末の試合で、どうしても体が動かない。
だからこそ、相手よりも先を予測して、頭を使う事が大事になってくるのだが、コンディション調整を完璧に行えない事に対しての苛立ちも大いにある』


自己管理能力や社会人としての自覚がパフォーマンスに大きな影響を与える。しかし、サッカーで結果を残し、サッカーの能力で評価してもらえれば、それ相応の環境を手にすることが出来る。と述べた選手もいた。


『今はサッカー給を頂き、サッカーに集中できる環境がある。しかし、サッカー給を貰えてなかった時期は長時間働いて、体もしんどく大変だった。
ただ、サッカー選手として評価してもらい、サッカー給を貰えれば、凄くやりがいを感じるし、そういった意味でも、サッカーに打ち込める環境は自分の実力次第で手に入れることが出来ると感じている


【スポンサーからの手厚いバックアップ】


スポンサーからのバックアップもチームのカテゴリーによっては違ってくる。とある選手の所属チームは、トレーニングの為のジムの利用・怪我の予防や治療面でのサポート・試合時の補食・遠征や試合時の移動バスなどの提供を受けており、Jクラブや強豪大学と比較しても変わらない環境のもと、サッカーに打ち込めていると話す。

『サッカーに打ち込める環境を持っているチームが社会人リーグにあると思っていなかった。この環境でサッカーのスキルと社会人としての自立心を磨き、社会人サッカーという枠で上を目指す意義は十分にある』。


【社会人チームにファン・サポーターがいる?】
-高い緊張感の中でプレーする事が出来る-


『ファン・サポーターの多さにはびっくりした。社会人チームながら、練習にはたくさんの人たちが駆けつけてくれるので、選手たちは高い緊張感のなかで練習に取り組むことが出来る。試合の日も遠くまで駆けつけてくれ、多くの声援を送ってくれるので、この上ない環境でプレーする事が出来ている』。


多くのファン・サポーターに囲まれながら、プレーしている選手もいる。または、地元の同胞や小学校と密な交流を図り、バックアップを受けている選手もいた。


『地元の同胞達のサポートは大きかった。地元の小学校の学生たちが横断幕を作り応援に駆けつけてくれたり、学生の保護者の方々が生活に不便が無いようにと食事を作ってくれたりした。そのような支えを通して地元の人たちの姿を強く意識するようになったし、学生たちの目標になれるように頑張らなくてはいけないと思った』


決してチームの規模が大きくなく、経済力を持っていなくても、このような【地域密着型】としての在り方がある。最初はただの交流、サポートから始まったその縁もチームに愛着を持ち始めるキッカケとなる。後に熱狂的なサポーターになる事も少なくない。


選手と触れ合うだけでその経験が特別になり、目には見えない引力を引き起こす。それが【地域密着】の大きな魅力だ。また、プロとは違い、選手自身が遠い存在にはなりにくいので、【会えるサッカー選手】として、新たな価値も創造できると思う。


【社会人サッカーを選択した理由】
-それは上を目指すため-


何故ここまでにサッカーに熱く懸ける事が出来るのか。どのようなモチベーションを持って、社会人サッカーでプレーをしているのか。純粋にそこが気になった。社会人サッカーを選択したその理由を聞いてみた。

『大学時代、Jクラブの練習参加に行かしてもらったが、プロ入りする事が出来ず、サッカーを辞めようと思った。しかし、大学時代のコーチからサポートするから上を目指してやってみろと言われた。その一言がきっかけで社会人チームの練習に参加するようになり、決意した』
『同期がJクラブに内定した事が大きかった。プロになる事を諦めずに、やり続けたとしても、プロになれる可能性は高くない。だが、諦めたらそこで終わってしまう。どうしてもJの舞台で同期と対戦したい』
『いざ社会人チームでプレーをし始め、しんどい時もあったが、Jで活躍する同期がルーキーとして点を取ってチームの為に走っている姿に毎回刺激を受けた。その刺激のおかげで変わらないモチベーションを保ち続け、日々闘う事が出来た』


また、学生のうちから指導者を志し、より質の高い指導者になるための一つの引き出しとして、社会人サッカーでプレーする選手もいた。

『インプットしたものをアウトプットする環境が無かった。チームには指導者として携われる訳ではないが、自分の体を持って検証作業を行えるのではないかと思い、プレーを決意した』


実際に指導者としてのレベルアップに役立ったのか?

『これからの指導者としてのキャリアのなかで、重要な経験になったと思っている。それぞれの選手が抱えている仕事も違うし、サッカーに対するモチベーションにも差があるなかで、トレーニングメニューの構成、チームのマネジメントの部分で難しさを目の当たりにした。指導者としての勉強になった』
『僕は今までプロとそれ以外という極端な価値観しか持てていなかった。今回社会人リーグに参加してみて、そこの空白の溝が埋められた。イングランドのFAカップや、スペインのコパ・デル・レイでは、5部・6部(日本の地域リーグに相当)のチームが次から次へと1部リーグのチームを撃破し、ジャイアントキリングを起こしている』


今やJリーグの舞台には多くの社会人リーグ経験者がいる。そういう時代に入ってきた。

人生の価値観は人それぞれだから、正解は無い。これまでは大学を卒業するまでにプロになれるメドが立たなければ諦めるというのが主な流れではあったが、先輩たちが無限の可能性を示してくれている。

最後に、社会人リーグでのプレーを選択して良かったかどうかを率直に聞いてみた。

【自らの力で正解にする】

『もしプロになれなかったら、そのサッカー人生は不正解なのかもしれない。やめることも一つの勇気だし、決断なので、それが正解だとも言える。逆に、プロになったサッカー人生のすべてが正解だとも思わない。ただただ、いつの日か、正解だったと言えるように頑張るしかない。
多くの人に出会い、助けてもらい、応援してもらったことは間違いなく自分の財産だし、やってて良かったなと思う。無駄ではなかった』。


プロではないからサッカーだけをする生活は送れない。プロに比べれば華やかな世界では無いかもしれないが、彼らは人の2倍多くの経験が出来ている。

サッカーでの紆余曲折、仕事での紆余曲折。きっと毎日のように自分の人生と向き合い、正解が無いなかで、少しでも正解に近づけるようにサッカーと向き合い続けている。
 

決して社会人サッカーでのプレーを推奨している訳ではないが、勝手に作り上げてしまった【模範解答】や【レール】を作りあげてしまいその結果、大好きなサッカーを続けないという選択をしてしまうのであれば、それほど歯痒いことはないだろう。

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