SHEDSHED (シェッドシェッド)
【一学期】 6年3組、ソプラノリコーダーのテストの日。 宮本春斗の番になった時に、クラス中に旋律が走った。 どれだけ、宮本が「ド」の音を鳴らしても、皆の耳には「フェー」にしか聞こえないのだ。 「ド」だけの問題ではなかった。全音階、風が漏れているような音がする。 「ピアノや打楽器の演奏は、とても上手いのにね」 このままでは、いい点数はあげられない。音楽教師の私は、笛の掃除をするよう指示し、再度、テストを受けさせた。 しかし、「フェー」は「フェー」のままだった。
「後ろから、先生に覆いかぶさっている霊が見える」 老人患者の岡田は、医者の背後を指さした。 「10年前の患者で、先生が安楽死させたと言ってる」 「また、ご冗談を。入院生活に疲れましたか」 「いや、霊が話しかけてくるんだ。……何?先生は、遺族から3億の報酬をもらった、だと?自宅の金庫にあるんだな。暗証番号は、564…3…89、564389」 医者は、憑依したかのように繰り返す岡田をなだめた。 それから数日後、岡田は容態が急変し、亡くなった。 医者は、よく見舞いに来
ミッキーとミニーは、念願の有給休暇を取った。 「今日は仕事を忘れて遊ぼう」 二人は、絶叫コースターにできた列の、最後尾に並んだ。 観光客は気づかっているのか、話し掛けてこない。 二人はイチャつき、笑い合い、デートを楽しんだ。 しかし、コースターに乗りこみ、二人の身体が宙吊りになった瞬間、甘い空気は一変した。 「頭が!」 ミッキーが、上体のバランスを崩し、頭部を地面に落としてしまったのだ。 コースターが発着地で止まると、ミニーは、震えるミッキーの手を取り、落下地
「新しい学年、小学3年生が始まったばかりですが、このクラスの青木先生が、急きょ、入院されることになりました」 ざわつく児童たち。 「退院されるまで、私が担任を引き継ぎます。原西小百合と言います。よろしくお願いします」 私が頭を下げると、まばらな拍手が飛んだ。 「慣れないうちは、学級係のみんなに、助けてもらいたいと思っています」 すると、目の前に座っていた女子児童がメモをくれた。 「あたし、書き物係です」 ありがとう、可愛らしい字を書くのね。 メモを読み上げる。
今まで、数々の押収品を体育館に並べてきた。 ブラジャー100枚を、AカップからGカップへ。 バット50本は、グリップをクロスさせ、らせん状に積み上げて。 覚醒剤2キロを、小さなビニール袋に分け、等間隔に。 そして今日、自転車のサドル200個を、グラデーションに並べていた時、とうとう僕は教師に見つかってしまった。 「だって、警察官採用試験を受けたいのに、どの先生も推薦してくれないから……」 口をすぼめてみせた。 「教室や更衣室で、人の物を盗み、勝手に並べ、インスタ
中高年のバンドが、ステージを終えたジャズバーで、打ち上げをしていた。 「声が、演奏とズレてたよ」 「高いキーが多いから、疲れてたのかな」 「音域が狭い曲に、変えてみようか」 メンバーたちが、女性ボーカルに提案した。 女性ボーカルは、いきなり、マライア・キャリー並みの高音を発した。 パリンッ! 持っていたシャンパングラスが、割れた。 「本当に、私の方の問題かしら?ずっと不協和音を奏でていたのは、どっちの方よ」 ムッときた男たちは、席に置いていたサックスやトランペッ
出棺の時、自分だったら、棺桶に何を入れてほしいか。 大往生だった親父が、荼毘に伏している間、食事をしながら、親族でそんな会話になった。 「オレは、タバコを敷き詰めてほしい」 長男が言った。 「1000本ぐらい入れてやるよ」「さすが、ヘビースモーカー」 皆が突っ込んだ。 「俺は、さつま芋」 次男が言った。 焼き芋か、のどかだな。 「お前は?」 長男と次男が、三男に聞いた。 「花がいい。普通に見送ってもらいたい」 面白くも、なんともない奴だ。 その時、職
2030年。 日本国内に子供食堂が乱立し、競争は激化。 大人たちは、クラウドファンディングで多額の寄付金を集め、貧困層の子供たちに、おいしくて豪華な料理を提供し、ネットで拡散してもらうことに必死だった。 昼夜休みなく働く、シングルマザーの元で育てられた小学一年生の俊介が、この街に越してきた時、彼は、おとなしくとても痩せていた。 しかし、子供食堂で振る舞われるご馳走を、同じ境遇の子供たちやスタッフと食べるうちに、明るく、健康的な男の子に変わっていった。 「ここの食堂は
ジョンソンは、MVPを4回獲得しているメジャーリーガー。 犬猫、馬や羊たちを、広大な庭で多頭飼いしている。 「牛たちは、何も悪いことをしていないのに、人間に搾乳され、肉を食われ、革をスポーツ用品にされ、何十年も酷い目にあってきた」 ジョンソンは、合皮で野球用品を作るよう、スポンサーに要請。 何十作か試作品を手にした彼は、ある日、しっくりとくる合皮ボールと合皮グローブに出会った。 木製バッドで打ってみると、合皮ボールは大きな弧を描き、場外へと消えていった。 「公式試
車掌をしていると、毎日、色んな乗客に出会う。 今日は、ホームで電車を待っている人の中に、不思議な男性がいるのを見つけた。 2ミリほど、宙に浮いているのだ。 「ドラえもんみたいですね」 思いきって話しかけてみる。 「よく気が付きましたね」 その人いわく、強力なS極人間らしい。 「北極もS極だから、北半球にいると反発して、地上から少し浮いてしまうんです。 逆に、南半球では、足が地面に付いたまま動けなくなるから、一生行けない」 他にも、「足跡も付かないし、足音もし
この怪談、映画化してほしいわ。
私がハマっている、どっこいさんの曲。YouTubeも最高。
タブレットで、アニメ『ONE PIECE』を見ていた、バンタム級チャンピオンの浜中が言った。 「すごい時代ですよね。ゴーグルつけてないのに、3Dに見えるんだから」 トレーナーの中西は黙って席を立ち、会長の元へと急いだ。 「浜中は、極度の乱視か、網膜剥離です。平面の映像が、立体に見えている。明日の試合は棄権した方が」 「無理だ。10回目の防衛戦に、何億かかっているか考えてみろ」 【次の日】 第1ラウンドから、浜中は打たれ続け、やむなく、中西はタオルを投げ入れた。
分かりやすい図解
息子の妊娠と同時に、旦那の死に面した私は、その後8年間、旦那の遺産で暮らしていたのだが、今年になって、いよいよ使い果たしてしまい、人生で初めて働くことになった。 「あんたがお腹に入ってた時は、みんな電車の席を譲ってくれたのに、今は全然よ」 慣れない仕事に疲れ果て、息子の部屋で、つい愚痴ってしまった。 「もう一回、妊婦さんになってみたら?」 ・・・それは、ナイスアイデアだ。 息子と、ベージュの布に綿を詰め、クッションを作る。 マタニティを着て、お腹の中にクッションを
仕事から帰ってきたら、小学2年生の娘が、「叩ききゅうり」を作ってくれていた。 「ありがとう」 「初めて、手料理作ったよ」 冷蔵庫からタッパーを取り出し、フタを開けた瞬間、私は固まってしまった。 きゅうりに、いくつも虫が食ったような穴が空いていたのだ。 「傷んでいたのかな。どうやって作ったの?」 娘は、スマホで料理のレシピサイトを見せた。 「ここに書いてある通り、きゅうりをめん棒で叩いて、しょう油とゴマ油をかけたの。でも、難しくて、完成写真みたいにはならなかった」