時間短縮 (1分小説)
凍結した湖で、フィギュアスケートの練習に打ち込んでいると、だんだん陽は落ち、周りがうす暗くなってきた。
「君、フィギアの選手?なぜ、リンク場に行かないんだ?」
防寒着を着こんだ、見知らぬ男が近づいてきた。
「設備費削減のため、今年から、早く閉館されるようになったんです。
次の大会は、難易度の高いスピンで勝負したいんだけど、なかなか練習時間が取れなくて」
男は、氷上に、指先で直径10cmほどの円を描いた。
「時間短縮か、大変だな。ちょっと、君のスピンを見せてくれないか。この円の中で、回ってみて」
言われたとおり、スピンを披露。
「スピードをあげて。もっと力強く!」
男は、折りたたみ椅子を持ち込んで、どっかりと腰を下ろした。
「こんな感じで、いいかしら?」
私は、両手を広げポーズをきめた。
「ダメだ。もう一回」
男は、結局、5回目のスピンで、満足そうにうなずいた。
そして、薄くなった丸い氷面を、手の甲でコツンと叩く。
ポチャンッ。
直径10cmの、できたばかりの氷の穴に、糸をたらす。
「ありがとう。ワカサギ釣りも、時短の時代でね」
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