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伝書バト (1分小説)

マジックだけでは食べていけないから、という主人の都合で、ボクは、今日から伝書バトとしても働かされる羽目になった。

完全なる労働基準法違反。エサ代、あげろよな。

主人は、客のメッセージが書かれたメモをボクの右足にくくりつけると、一枚の写真を見せた。

おばあちゃんが微笑んでいる。

「受取人は、杉並区の吉元ミサさん。85歳。写真までは用意したから、あとは探してきてよ」

クルックー。

やる気のない返事をし、頭の中の方位磁石を杉並区に定め、ビルの屋上から飛びたつ。

途中、野性化したかつての仲間たちに出会う。

「オイオイ、伝書バトって。ネットの時代に?」
「いいように使われてんだよ。はやく逃げろって」

みんな、車の煤煙で灰色に汚れているけれど、気ままで楽しそうだ。

ボクも、この仕事が片付いたら、早く自由になろうっと。


ミサさん宅は、杉並区の外れにあった。

小さな一軒家の窓から入ると、応接間でおばあちゃんが一人、こたつでお茶を飲んでいる。

ビンゴ、写真の人だ!

吉元さんは、突然肩に乗ってきたボクに驚いていたが、足元のメモに気づき、優しく取ってくれた。

口に出して、読み上げる。

「貴女が、戦中戦後も、ずっと私のことを探してくださっていたということを、私は、“こちらの世界”に来てから知りました。感謝しております。実は私も……」

ミサさんは、思い当るふしがあるのか、ポロポロと涙をこぼし始めた。

「最高のラブレターだわ、ハトさん」


主人め。

だから、マジシャンを辞めて、霊媒師に転職しろって言ってるのに。

こんな仕事なら、タダでもやるって。

ボクは、ミサさんが新しく左足につけたメモを持ち、大空めがけて飛んでいった。

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