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歯 (1分小説)

抜けた乳歯を庭へ投げたら、翌日には、もう芽が出ていた。

白い花を咲かせるのが、1ヶ月後。花が受粉して『永久歯の実』ができるのは、さらに1ヶ月先だという。

乳歯が抜けたことで、できた歯茎の穴に、舌を入れてみる。まだちょっと慣れない。

この穴に『永久歯の実』を埋めると、永久歯が育つのだという。

庭を歩いていたおじいちゃんが、立ち止まり、一本の枯れた花をもぎ取った。
「そろそろ、いい実が成っているはずだ」

花の中から、真っ白な丸い実がでてきた。
「2ヶ月前、抜けた永久歯を庭へ放ったら『インプラントの実』ができたよ」

きれいに洗い、口の穴に埋め込む。おじいちゃんは、歯が命。


その時、庭で遊んでいた、ラブラドールレトリーバーのキューちゃんが、あろうことか、出てきたばかりの芽を食べてしまった。

途方にくれていると、おじいちゃんは、銀色に光る丸い小さなものをくれた。

「『銀歯の実』だ。これで代用できる」

お母さんが、あわてて止めに入る。

「できないわよ。それ、仁丹でしょ」

おじいちゃんは、ギャグも命。

庭に、前々から気になっていた緑の葉があった。とてもいい匂いがする。

「あの葉っぱは、何?」

お母さんは教えてくれた。

「ミントよ。『 歯磨き粉の実』ってとこかな」

「ふーん。歯磨き粉の実があるのに、どうして、お母さんには虫歯があるの?」

おじいちゃんが、代わりに答えた。

「 『パイの実』と『アイスの実』の、食べ過ぎだ」

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