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流行語 (1分小説)

【2018年 年末】

明日は、年に一度の流行語収集日。

ズボラな性格で、何年間も、古い言葉を捨てず、クローゼットの奥にしまいこんできた。

今年こそは整理しないと。結婚も、ひかえているし。

クローゼットを全開。半透明のビニール袋の中に、使わない言葉たちを、詰めこんでゆく。


ホコリだらけの『おっはー』。19年も前のやつ。

『リベンジ』『なんでだろう~なんでだろう~』『萌え』『倍返し』『おもてなし』もある。

この、『チョベリグ』『バッチグー』って、いつの?前の住民の置き忘れだ。

「『半端ないって』『爆買い』は、まだ使う。『そだねー』は、いらないか」


その時、お母さんが部屋に入ってきた。

「お母さんね、やっと『ナウい』を捨てる決心をしたわ。あんた、『萌え』と『KY』は、もう使わないの?『卍』は、面白そうだから、もらっていい?」

お母さんは、新旧、年齢関係なく平気で使い回す。

「いいけど、確実に浮くと思うよ」


半透明のビニール袋を抱え、収集場所へ持ってゆくと、マンションの住民が捨てた流行語が、山のように積まれてあった。

『アッシーくん』『ファジィ』『イナバウワー』『フォー!』『想定内』『別に』『今でしょ』『インスタ映え』『忖度』



「本当に、捨てていいんですか?二度と使えませんよ」

収集車のお兄さんは、言葉の山を、収集車に積んでゆく。



【2019年】


いつものように、「行ってらっしゃい」を言ったあと、旦那は寂しそうな顔をした。

「つき合ってた時は、よく『愛してる』って言ってくれたのにな」



あぁ、タレントが真顔で言うやつ、何年か前に流行ったっけ。そのタレントも、言葉と一緒に、どこかへ行っちゃったけど。

「キミは、あの頃、本当に気持ちをこめて、ボクに言ってくれてた?」

流行りで、まわりのみんなが言ってたんだ。それに乗っかって、真面目な旦那にも言ってたら、真剣に受け止められて、プロポーズまでされてしまった。

「気持ちって、そんなに必要?ノリだよ、ノリ。ファッション」

旦那は、無言で私の顔を見つめている。

ヤバい。今、離婚まで発展されたら、一人では生きていけない。さっきの発言を、はやく撤回しないと。

「冗談だよ、冗談。『テープ、まわしてないやろな?』」

私は、今年の流行語で、ギャグにすることにした。

旦那は、拳を握り、笑顔でこたえた。

「家庭を『ぶっ壊す!』」





※前半は、「ショートショートの広場」のアイデアを引用しました。

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