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10年目の春



半蔵門からタクシーに乗る。家の近くのコンビニで降りて、発泡酒とチーズと、生ハムのやつを買う。家に着いたら、手を洗ってうがいする。リビングに行けば、一緒に住んでる同居人たちが何かしら何かやっていて。ラドリックの分あるよ、と台所にいけば手巻き寿司のセットがあった。全然ダイエット出来ねえよ、そう言ってありがとうと言ってむしゃむしゃと笑顔でかぶりついた。


食べれば部屋に戻って、radikoで今夜の放送を聴き直す。そんで漫画や映画なんか観て、合間にクロノトリガーやって、筋トレして、寝落ちしたらもう昼だ。何も予定がない時に朝に起きれた試しがない。


毎日を繰り返す。こんなのは高校生以来のことで。なんだか、懐かしくもあって、それでも大人になっても朝早起きしてないのはそんな仕事についたからだろう。

この4月で、芸人になって10年目を迎えた。
芸人として節目の、この大事な10年目に、僕は今、学校の校長先生をしている。誰が想像出来ただろう。とは言ってもラジオの中の学校、スクールオブロック。15年続く東京FMの大看板、由緒も歴史も愛もある素晴らしいラジオ番組。その校長になった。誰が想像出来ただろう。なんてこったい。


この10年、ネタ番組でネタなんて片手で数える程しかやった事のない、全く売れてない若手芸人が、15年続く歴史ある偉大な番組のメインMC、未来の鍵を握るラジオの中の学校の、校長になった。


4月1日から、毎週月曜〜金曜の夜10〜12時。
全国38局でオンエア。毎日、全国に自分の声が届く。信じられねえよ。


4月1日のこと。あっという間で、それでもなんだか、永遠の一瞬のような。なんだか不思議な感じだった。ずっと。この声が全国に届くのかと思うとなんだかもうよくわからなかった。家を出る前から、ずっとソワソワして。家には、さかた校長就任おめでとう。心臓一同より。と、花が届いてた。自分たちのトークライブでファンのことをこれから心臓と呼ばせてもらうと冗談で言ったもの、本当に心臓から。心臓から届いた。心臓一同から。なんだこの怖すぎる4文字熟語。そんでもってなんだこの嬉しすぎる感情は。僕の心臓一同が喜んでる。あなた方に見つけてもらえてよかったよ。本当に思うんだよこの頃。最愛方、いつもありがとう。


サンシャインYouTubeのセロリチャンネルでも密着してもらって、雨の中ラジオ局に向かった。母ちゃんに電話したら、スマホあるのにわざわざ新しくラジオ聴く用のラジカセ買ったらしく、夕方からもうチャンネルは合わせていた。ばあちゃんにも聴かせるからと、22時前に目覚ましもセットしてるつって。そうか、そりゃ85のばあちゃんはもう寝てるか。つってもまだ夜の7時。さすが農家の嫁レジェンド。早寝早起きの極み。


TOKYO FMに着くと、沢山のSOLの職員、スタッフさん方が迎えてくれた。ここで、こっから、始まるんだな。そう思うと、全員愛おしくかけがえなく、今すぐに全員抱きしめたかったが鬼濃厚接触なのでエア抱きしめる。心の中でギュッとエア抱きしめるだ。つっても別にコロナ関係なく、そのノリが出来ない根っこMAX陰キャなので、気持ちは常にエア抱きしめるだ。その気概でいつもいる。なんだエア抱きしめるって。


前日の3月31日。前任のとーやま校長の最後の授業。こもり教頭とブースの横でずっと聴かせてもらった。とーやまさんのこの10年の、SOLへの、生徒たちへの愛が溢れるほどに伝わり。僕は今回のこの後任に対して、とてつもなく責任とプレッシャーを感じ、不安に思っていたけど、なんだか全部吹き飛んでしまった。この素晴らしい学校に携われることの喜びと感動と、ドキドキとワクワクと、決意と情熱と、なんだか全部の感情がマックスに溢れ出てしまって。最後に貰ったとーやま校長からの言葉と想いは全部全部、全部胸に突き刺さった。心臓の奥に大事にしまっている。


「あいつは大丈夫だ」


僕はとーやま校長から、大先輩の遠山さんから、そう言って貰えたなら大丈夫だと思った。帰り道、3時間かけて歩いて帰った。金麦飲みながら歩いた。涙がいっぱい溢れてくる。大好きな音楽を聴いて、ゆっくり歩いた。とても美しい空間だった。この美しい、燃えるような魂を継承しよう。とってもかっこよかった。そう思ったんだよ。
 


そして迎えた4月1日の生放送教室。目の前にはこもり教頭がいる。ブースの外には職員のみんながいる。そんで、このマイクの向こうに、生徒のみんながいる。君がいる。ヘッドフォンをつける。黒板を書く。声を出した。

「本日2020年4月1日から、このSCHOOL OF LOCK!の3代目校長を務めるのが、俺、さかた校長である!!」

緊張で声はうわずってたし、慣れない口調に、聴き馴染みのない声に、いきなりみんなを不安がらせたかもしんない。案の定ずっとフワフワしてたし、これが本当に全国に流れてんのかと、喋ってても全然実感がわかなかったよ。それでも、みんなの書き込みや、電話の声で、ようやく、本当に、本当に届いてるんだ、はじまったんだなと、ゆっくりゆっくり実感した。直接聴こえる、届く生徒たちの声ってやつは、本当にとんでもなくて。温度が一瞬で伝わって。喜びや悲しみや、全部全部伝わって。ラジオってやつはすげえなぁ。目に見えない分、声で全部わかっちゃうんだもんな。そこにはいないんだけど、そこにいるんだよ。まるで目の前に君がいるんだよ。だから嘘つけねえよな。本気で話さねえとな。

一緒に戦おう。黒板に書いた。なんもかんもが初めてで、全然上手いこと出来ねえけど、これからこの一瞬の青春を、一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に戦おう。だから安心して思いきりぶつかってきてほしい。全部抱きしめる。全部抱きしめるからな。

最後に銀杏BOYZのBABY BABYが流れた。グッときたなぁ。番組で流れる音楽を僕らは知らない。職員の先生方が、その時の、その一瞬にあった、ベストの曲を流してくれる。それを生放送でやってのけちゃうんだから、とてつもないよな。職員の先生たちが本当にすごいんだよ。だって僕は胸踊ったもんな。大好きな音楽が、大好きな人たちと、大好きな場所で聴けるこの喜びや感動を、高鳴りを、なんと呼ぼう。僕は本当に青春だなと思ったんだよな。

放送終わり、芸人仲間たちや仲良いスタッフさん方や、地元の友達や、家族からや、沢山の連絡が来た。嬉しいなぁ。すげえ嬉しいよ。ばあちゃんは結局忘れて寝てて起きなかったらしい。母ちゃんが笑って教えてくれた。いいよいいよ。それでいいよ。最高だばあちゃん。
そしてまためいっぱい褒めてくれた。僕はこの人には敵わんな。流石だ、頭あがんねえよ。まじありがとうだよ母ちゃん。

ラジオがはじまって1ヶ月が経つ。コロナの渦巻く状況は変わらず、むしろ悪化する一方で。テレビからは連日連夜悲しいニュースが溢れてる。感染防止を防ぐために、スクールオブロックでもリモート授業になった。隣にいた教頭にも会えなくなってしまって、テレビ電話で放送してる。ラジオのラの字も知らない、てんで不慣れな状況で、そんな中リモート授業になって。でもそれでも、それでも毎日放送ができる。それがすごく嬉しい。


劇場はまだ復活の目処がたたなくて、いつお笑い出来るかわかんない。あんなに毎日毎日ライブして、コントして、笑って、終わりで飲みいって、また笑ってた日々が、今とても恋しい。改めて恋をするように毎日生きていたんだなと思う。お笑いがとても好きだ。芸人が大好きだ。こんな状況でも明るく、強く、家からでも、何か出来ることを模索して、もがいて、笑い飛ばす芸人たちを心から愛してる。

昨日はインターハイの中止が発表された。部活動に、人生を、青春の全てをかけた全国の10代のみんなの気持ちを思うと胸が苦しい。放送でも、電話や書き込みでみんなの想いを知った。勇気を出して叫んでくれてありがとう。激しい怒りが悲しみが君たちを襲ってる。つらいよな。苦しいよな。命が最優先だ。君たちの命がなによりも最優先だ。そんなのわかってる。仕方ない。わかってんだよ。そんなのわかってんだよ。でも仕方ないじゃねえよな。仕方ないじゃ済まされねえよな。今だもんな。未来のことなんて知らねえよ。今を生きてんだもんな。


僕はなんもできんけど、話を聞くことしか出来んけど、一緒に怒って一緒に悲しむことしか出来んけども。本当は一刻も早く、馬鹿みてえなどうしようもねえ漫才やコントで、君たちを笑わせたいけど、それが出来ない自分の無力さや現実に、ふがいなく思う。むかついてむかついてしょうがない。ふざけんなよ、くそったれ。


それでも戦うぞ。抗うぞ。毎日毎日。一緒に戦うぞ。あきらめねえぞ。優しく。優しく。こんな時だからこそ、優しくだ。優しくぶっとばそうぜ。そんで笑おう。いつかきっと笑い飛ばそう。絶対だ。

また明日。つっても、もう今日か。嘘だろ朝7時だ。おはよう、おやすみ。セロリチャンネルの本気だるまさんが転んだ観て、芋のお湯割り最後一杯だけ呑んで寝るか。自分で言うのもなんだけど、まじで面白くて最高だからみんな見てほしい。馬鹿すぎて少しは気が紛れると思うんだよ。なんか本当、最後、虹がかかってさ。芸人仲間のみんな見たらさ。電車でちょっと泣いちゃったな。

10年目、とことんいこう。素晴らしい仕事をしてる。誇りに思う。


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読んでいただきありがとうございます。読んで少しでもサポートしていただける気持ちになったら幸いです。サポートは全部、お笑いに注ぎ込みます。いつもありがとうございます。言葉、全部、力になります。心臓が燃えています。今夜も走れそうです。