見出し画像

梅の花が綺麗だと言う

まだダンボールが積まれた未完成の部屋にはサボテンの花が流れてる。昨日と今日の間に、夜と朝の隙間に。ほんの小さな出来事に愛は傷ついたなぁ。そんなことを思っては、出来るだけ薄めたお湯の芋割りを身体に流し込む。酔っ払うにはもったいない。目の前にノートを開いて、今度の単独ライブのことを考えてる。無意識に思いつくまま書き殴った言葉たちの中で「闇鍋」の言葉に丸をつけていた。空腹よりも刺激が欲しいのか、意味不の極み。僕は普通に美味しいもつ鍋を食べたい。気づけば次の曲に流れてた。やさしすぎる歌声がちぐはぐな部屋と夜を繋いでくれる。同じ同郷の福岡の大先輩、財津和夫さんに溢れるほどの尊敬を贈りながら、日々をつらつらと振り返った。

 
新しい街に引っ越した。東京に来て13年。初めて一人暮らしをしている。ずっとシェアハウスをしてきたから、福岡の大学生の時以来。35歳でまさか初めて一人暮らしするとは。完全に奥さんと子どもたちと愛犬のマルチーズと賑やかに一軒家に住んでる未来だと思ってた。夢はなんのその、想像もつかない未来をちゃんとじっとりと暮らしてる。たまたまだけど、20歳で初めて一人暮らししたあの街と同じ「梅」の付く名の街に住んだ。おお、やっぱり、なんてこじつけのように無理くりに浪漫を感じては、梅の花が咲くのを心待ちしてる。


「キングオブコントで優勝するために365本新ネタ作ります!」


2021年の9月。応援してくれている心臓のみんなに日本一になるぞと公言した。レギュラーのラジオも不本意に終わり、なんとかお笑いで見返すしかねえと気合い十分に自信のあるネタで挑んだものの、準々決勝で敗退し、悔しくて悔しくてしょうがなかった。お笑いで負けた分はお笑いで返すしかない。他のものでは到底補なえない。やることはもう決まってる。知ってんだよ。


2年前に優勝のために100本作ってダメだったから、次は毎日作って365本。これならどうだ!完全に馬鹿すぎる無謀にもほどがある計画に、のぶきよもマネージャーの白坂さんも同意してくれたからこの2人も本当に無謀な馬鹿というか、もはや無謀にお人よしだと思う。台本にして作るだけじゃなく、お客さんに披露して1本。そうなるととにかくネタを作るどころか、披露する場所が圧倒的に足りなすぎるから、社員さんにも協力してもらって。それから毎月2回単独の新ネタライブをやった。新ネタ5本やる「365本ライブ」とゲストを呼んで僕らは新ネタ3本するライブの「真本気ライブ」を軸に。残りの足りない分の新ネタは、通常の寄席や呼んでもらう新ネタライブ、YouTube配信でまとめて卸したりした。100本ライブの時でコツを掴んだから大丈夫大丈夫と言いながら、完全にペース配分などなく毎日フルスロットル状態で日々ネタに追われた。ネタを作る上で、今までの得意な強いキャラと構成に磨きをかけるのと、新しいやったことのないキャラや角度の設定、とにかく沢山沢山試しては打ちひしがれて、倒れる暇もなく次から次へと夢中に作っては披露した。


そして9月からはじめて3月末。出来た新ネタは80本。死にものぐるいで半年で80本。残すはあと半年で280本。


間に合うかぁ!!!


お客さんどころか、僕含めのぶきよも叫んでいた。


せーの、間に合うかぁ!!!!!!!!!!!


それでも命懸けで公言したこの約束を破るわけにはいかない。間に合わないと分かっても、負けると分かっても、戦うのが漢だろ。それが漢ぞ、それが侍ぞ。僕は完全に本来のキングオブコント優勝という最終目標を見失って、365本新ネタを作るという過程に全てをぶつけていた。それに冷静に歯止めをかけてくれたのが新ネタライブのMCをしてくれていたダイタクさんだ。3月末のライブのエンディングで今が80本というのを聞いて、今すぐ365本ライブを終了しろ!という流れになった。絶対嫌だと騒ぎたてる僕を制して、のぶきよは実際どうなんだ?と聞くと、のぶきよは声高らかに宣言した。


「365本コント、やめます!!!!」


やめろぉーー!!!!!!!!!!!!
絶叫と共に聞こえるお客さんの笑い声。嘆きとは裏腹に翼が生えたかの如く軽くなる両肩。背負った重すぎる業から解き放たれた瞬間のあの心の軽さ。あの時僕は浮いてた。完全に宙に浮いていたと思う。そもそも無理だと思ってたんだけど言えなくて、、というのぶきよに怒りと感謝と全部が混じり合った感情になって、気づけば僕も笑っていた。しかしそれまてに作った80本の中にもめちゃくちゃ勝負できるネタがいくつかあり、それをあと半年でブラッシュアップしていった方が絶対良い、残り半年で本番前に新ネタ作りで大慌てする方がまじで意味わかんねえと言う、本当にその通りのことをダイタクさん含め色んな先輩や仲間たちが言ってくれたので本当にその通りだと思う。情熱は盲目だ。目を瞑ることに夢中になっても夢の中では走れない。冷静を取り戻し、それから半年は候補ネタのブラッシュアップに努めた。


そしてキングオブコントの予選が始まる夏がやってきた。すると隔月でやってる新ネタライブ「優勝」で思いがけなく手応えのある新ネタが出来た。優勝は、うるとらブギーズさん、ななまがりさん、アイロンヘッドさん、やさしいズ、男性ブランコ、サンシャインでもう何年もやっている新ネタライブ。ファイナリストどころか、準優勝もとってる人たちもいるゴリゴリの賞レース武闘派のユニットでやらせてもらってる。そんなバチバチのライブで久しぶりに優勝するネタが出来た。これはもう本当に思いがけない産物で。観てくれていた心臓のみんなが、ライブ終わりハイタッチして喜んだとあとで伝えてくれた。ネタ自体にそれぐらいのパワーがあったのだろう。コントは設定1発というか、これがあるからわからない。一撃でひっくり返ることがある。これが本当に面白いし、これがあるから、量を沢山作んないとなってとこもある。おかげでネタ候補が増え、勝負の真夏に準備を勤しんだ。


2回戦を無事通り、そしてやってきた準々決勝。僕らは優勝で出来た1番自信のあるネタをぶつけた。いつものように喉を開くために1時間前にカラオケに入る。賞レース前の恒例行事。もう10年以上ずっとやってる。こういう時に歌うお互いの曲はもう呆れるほどに分かってるけど、今日に至ってはのぶきよがこの10年ではじめて入れた曲。

KinKi Kids「Kissからはじまるミステリー」


まじミステリー。そしてこいつはキンキじゃ光一派という、男のキンキ好きで聞いたことのないまさかの光一派。そして歌い出し一言目で声飛ばしていて、すぐに消していた。本当に一生キスからはじめないでほしい。こいつまじミステリーミステリー。男は剛だから。まじエンドリケリーエンドリケリー。


そして準々決勝本番。自信があった。どこでやってもウケるネタはあるけども、どこでやっても勝てるネタっていうのがあって。自分達的にウケるネタ達に混じっても勝てる、その自信のあるネタで。この一年の全部をぶつけるように。この一年の日々を全部抱きしめるように。胸を張って堂々とやりきった。のぶきよが一言目で声カスカスだったのはご愛嬌。すぐに立て直してくれたからよかった、まじでよかった。なんでずっと叫んでる俺の方じゃなくてお前がいつもとばすんだよ。まじのど飴からはじめてほしい。


それでもネタはしっかりやりきり、ウケも満足いくその日一番の最高のウケとはいかなくても例年よりも遥かにウケた実感があった。観てくれてた作家の子も、お客さんも良かったですよと声を沢山もらって。一縷の不安はあれど、次の準決勝が勝負と。すぐにネタの調整に入った。


そしてこっから記憶が定かじゃない。どうやって結果を見たのか、どこで何してたか全く思い出せない。それでも結果は準々決勝で敗退だった。


この時の記憶がほとんどない。人間はよく出来てる。辛い記憶は忘れるようになってる。結果が出た次の日にはLIVE STANDがあって、10年ぶりに復活する幕張メッセで大規模に開催されるお笑いフェス。とんでもない売れっ子の、上は師匠方やナイナイさん千鳥さんら、下は僕らまでとてつもない規模のお笑いフェス。それでも全くフェスを楽しむどころか、ギリギリ歩くのがいっぱいいっぱいの状態で、後にニューヨーク嶋佐さんやそいつどいつ松本や、のぶきよですら気遣うぐらい僕はダメージ負っていて、裏での顔は人に見せれたもんじゃなかった。頭がというより、脳みそがずっと痛くて、何も考えれなくなったのは人生で初めてかもしんない。同じく親友であり戦友であり大尊敬してる男性ブランコの平井も同じく、僕とおんなじ顔してた。お互いに一言も話せかったけど、絶対に去年の準優勝もあって今年に賭けてたのは僕以上だったと思うから。それでもその結果になんかホッとしてしまった自分がいたことに、その自分に気づいてムカつきすぎて殺したくなった。ぐるぐるぐるぐると痛みと喪失感だけが頭に纏わりついて、1週間SNSで呟くどころか、日常生活もからっぽになりすぎて、こんなことはお笑いをやってきて、初めてのことで。悔しさに燃えることはあっても、こんな空っぽの痛みの感情になることは初めてで。ずっと戸惑って何も考えられなかった。


1週間経って、母ちゃんから連絡があった。どうかした?心配のLINEだったので、折り返して電話した。



「なんね、あんた。死んだかと思ったわ!笑」

「死ぬかぁー!!笑」


久しぶりに笑ってツッコんだ。そうか、そりゃそうか。毎日連絡をとるわけでもない親と子。生存確認のように僕のSNSをただただ見てた母ちゃんからしたら、毎日なんかしら告知なりなんなり呟く僕が1週間も何も呟いてなかったら心配するか。そこではじめて周りの人に気を遣わせたり、心配させてたことに気づいた。いつも応援してくれるお客さんも、とても心配させたにちがいない。本当にだらしなくて不甲斐ない。喜ばせるどころか心配させてばかりで本当に嫌になるよな。


「一生懸命やってダメだったら、ああ運がなかったんだな。それだけで良いのよ。何も卑下することない。たまたま運がなかったな、今じゃないんだな。それで良いのよ。」


明るく笑って励ましてくれる母ちゃんに、やっぱあんたには敵わないなとこうべを垂れた。そして本番ちょっと体調万全じゃなくて声があんまり出なかったと言うと、ブチ切れられた。 


「それは話が違う。万全の準備して、もうこれ以上の準備はないってところまでやって、あとはもう本番楽しんでやるのみ。それが大事なのに、万全じゃなかった??プロ失格。それはプロ失格です。あたしもカラオケの大会の時はねぇ、前日まで、、」


まさかの地元の祭りのカラオケ大会に出た時の経験1発で、プロはこうあるべきと説教してきた。いやどれと一緒にしてんだよ!と親子の感動話どころか、後半ちょっと普通に小規模な親子喧嘩してしまった。おかげで馬鹿馬鹿しくなって笑ってしまって。まあでも本当にプロとしてはそうかと、変に納得してしまい、気づけば頭の痛みも無くなり元気になっていた。母は偉大だ。僕は一生頭が上がらない。こうべは垂れてばかりだ。


また頑張ります、と約束して電話を切った。ダメだったらまたやればいいのだ。それだけだ。またやりゃいいんだよ。どうせ諦めないんだから。やるだけだ。大切なことはいつだって簡単でシンプルだ。どうせ諦めきれないんだから。


それからのぶきよと話し合って、今年は少し力を抜いて、色んなことをやろうと決めた。ネタはもちろんだけど、新しく主催でコーナーライブをやるようにした。早速のぶきよがMCのコーナーをしたら、マネージャーの白坂からダメ出しがあって、次のコーナーライブではのぶきよのMC強化ライブがあって。それがちょっと面白すぎて、結果のぶきよのMC力が上がったかというと、てんでてんでの大祭りなんだけど、みんなで笑いすぎたのをしっかり覚えてる。何で笑ったかのは忘れたよ。でも笑ったのは覚えてるんだよ。忘れたくないことは忘れたくないんだけどさ。


命懸けでやったラジオが終わって、命懸けでやったキングオブコントで負けて、命懸けで好きになった人とまたもやお別れした。家も無くなって愛した街を出た。人生はとことんで、まいりにまいっちゃったけど、周りの兄さんにはもっと激動の人がいたりで、いやいやちっぽけすぎるな俺の悩みはなんて思って笑って前を見れば、いやいやそれでも俺の人生では大ごとなんだよなぁとか思ってまた不貞腐れたりして、人生はぐるぐるとヘンテコにそれでも回り続けてる。


新しい街に美味いカレー屋と、美味い炒飯がある中華屋を見つけた。あそこの店はマグロのユッケが美味しくて、あの角の地下の店は瓶ビールがキンキンに冷えてる。冷蔵庫の白菜が腐りはじめてる。1人じゃ食べきれないよな。近くにちっちゃい神社が5つもあって、どこに初詣行こうかな。悩んでたらとっくに正月は過ぎて、春が来る。梅の花が綺麗だと言う。僕はそれが楽しみで。君と見たかったなと少しだけ思って、今夜を眠る。加湿器の湯気が冷めた部屋を柔らかくする。朝がだんだんと間に合う。いい年にしたいなぁ。なったらいいなぁ。夢中でいれたらいいなぁ。夢中でいなきゃな。


いつも皆さんサポートやnoteの購入、コメントありがとうございます。心臓に全て刻ませてもらってます。
そしてここからはもっと個人的なゴリゴリの日々の日記です。是非是非に。


ここから先は

1,074字 / 34画像

¥ 300

読んでいただきありがとうございます。読んで少しでもサポートしていただける気持ちになったら幸いです。サポートは全部、お笑いに注ぎ込みます。いつもありがとうございます。言葉、全部、力になります。心臓が燃えています。今夜も走れそうです。