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fifteen

特別な懐かしさのある音楽の心地の良さに酔っているうちに、過去の奈落に引きずり込まれている。これまでに創り散らかしてきた幾つもの世界の断片。完成を見なかったそれらを無理に押し込んだ闇の底。時折、好きだった世界の記憶を拾い上げては口に含み、その感覚をこっそり味わっている分には問題無かった。戻り方を忘れて、意識が闇に混ざれば戻れなくなる。噴き出す悲しみや不安、不満。それらはもはや過去のもの、過ぎ去ったものなのに、今の私に襲いかかる。

あの頃の高すぎた感覚の感度を、その恐ろしさは少しだけ覚えている。体内状況がそのまま心に反映されていた子供の感性。成長と経験が生み出した新たな外界と記憶の再構築。自意識が感覚を飲み込んでしまう直前の、その刹那の事。

あの頃、あの街の丘の頂上から見下ろした世界は今よりはるかに透明で、急な坂を駆け上った脚にも疲れは感じない。匂いよりも先に空気の濃度差を感じ取った。その丘は、旅立つための場所でしかなかった。

夜明けに見た夢は、暫くすると質量をもつ実在となる。怒りも歓びも悲しみも可笑しさも、強すぎて制御できない。そのまま天に響き現に木霊する。骨も筋肉も、その行きつくところを知らぬままにただ成長する。

持て余したエネルギーの捌け口としては何もかもが不足で、もっともっとと、何処へ向かうのかも知らぬまま全力でやったことといえば、それはそれはつまらないことだった。それでもあの時の感覚で感じたフラストレーションが描き出したものは、たった一つの光だった。




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