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Column_フローラル/グリーン

イリスとポプリ

対照的なふたつの香り。
両方ともにボトルの中が残り僅かになった。
現在販売されている同品はボトルがモデルチェンジした。
同じサンタマリアノヴェッラの特別な香りの抽出液、トリプルエキス、が製造中止になったのは、老舗の瓶製造工房がクローズしボトルが供給されなくなったためだと本店で聞いた。
ブランドを問わず、香水もボトルもともに良いものがに失われている。
一方、かつて在る特別な店でしか手に入らなかったはずのものは、今やどこででも誰もが簡単に手に入るものになってしまった。
それを便利になった、とするか、退屈になった、と思うか。
退屈なものに、魅力はない。
香水ほど、魅力だけで成り立っている商品はない。実用的?な香水などない。

シングルフローラルのイリスと対照的に複雑なスパイシーなポプリ。
香りの勉強をするよりも前、私はグリーン、スパイシー、ウッディ系の香りにばかり惹かれていた。
メシャン ルー(いじわるオオカミ)L’artisan Perfumeurラルチザンパフュームcomposed by Bertrand Duchaufur
などが典型的に好きだった。
逆にフローラル系には全く興味が湧かなかった。
しかし、今はフローラルの貴重な香水も好きで集めている。
かつて、フローラルを受け入れられなかった理由を感覚で理解できるようになった時に、ようやく調香師になることができた。

フローラル系とグリーン系。

東京山人の香りを使ったカウンセリングは、占いやリトマス試験ではないので、どの香りを選べば、その人がどうだ、という方程式は無い。
ひとつひとつの香りを試していただく個人カウンセリングは、香りに対する反応から人を判断をする試験に見えてしまうが、その実、全く異なる。
私がフローラル系に興味がなかった頃、どのような毎日を送っていたか、それが今はどう違うのか、私自身はもちろん自分のことなのでよく知っている。そして、何故かつてはグリーンのみを求め、今はフローラルにも魅力を感じられるのか。香りの意味と感覚、認識。
暮らしと香りの嗜好は複雑に、しかし確かに自分の中で繋がっていたことが今なら分かる。

イリスもポプリもなくてはならない香りなのだが、新しいボトルでリピートするかは分からない。
魅力を欠いたものにあたかもまだ魅力を感じているかのように、妥協して、自分が感じている感覚を偽ってはいけない。


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