夢の島へようこそ!【試し読み版】

プロローグ


 天花美結は思い出す。
 六歳だっただろうか。母はおっとりとしていて、就寝する前にお布団のなかで絵本を読み聞かせてくれた。ファンタジーで、楽しくて、わくわくしながら話を聞いていた。ごくたまに、怖い話をするときがある。
 物語の主人公は『願いをかなえてくれるもの』をどこからか手に入れて、巨万の富を手に入れる。何不自由なく暮らしていたが、最愛のひとり息子を事故で亡くしてしまう。悲しんだ主人公は、『願いをかなえてくれるもの』にお願いした。息子をよみがえらせてくれと。
 願いはかなった。よみがえった息子は異形のモノと化していて、元の姿ではなかったのだ。
 玄関のドアがノックされる。
『おとう……さん。開けてよ……。開けてよ……』
 おびえてしまった主人公は、『願いをかなえてくれるもの』に頼んだ。息子を永遠に消してくれ、と。
 話が終わるまで、お姉ちゃんは頭を布団でおおって、怖がっていた。私はおびえていなかった。首をかしげていた。
 おかしいもの。どうして最愛の息子なのに『永遠に消してくれ』だなんて言うの? どんな異形なモノでも、受け入れられるんじゃないの?
 お母さんは困ったように笑い、
「そうね。でももし、美結が生き返っても、お母さんだったら、物語の主人公と同じことを願うかな?」
「お母さんは美結が嫌いなの?」
「ううん。そうじゃない。安らかに眠っている人を、無理やり起こすのはよくないわ」
 頭をなでてくれる。ぜんぜんわからない。
 お姉ちゃんの寝息が聞こえる。眠たくなっちゃった。
「さっ、寝ましょうね」
 お母さんは明かりを消すと抱きしめてくれた。あたたかい。いい匂いがして、意識が薄らいでいく。桜のような唇を緩め、優しい目つきで私たちを見守ってくれる。
 意識がなくなった。闇が訪れる。
 それが、最後に母を見た姿だった。


試し読みはここまでです。


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因幡雄介

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